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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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問題のない帰還



 俺が寝てたのは精々数時間程度、と言いたいところだが既に一日が経過していた。

 まぁそう考えればプリムの家で各々寛いでるのも理解はできる。

 家に来たばかりなら流石にそこまで寛げる気もしないが、時間がある程度経過すればずっと緊張してるわけにもいかなくなるからな。


 普段なら滅多に人の訪れる事がない、というかまずもって常人は辿り着けないようなルアハ族の故郷を見て回りたい、とか思うのかもしれないが先程のプリムやルーナの言葉を思い返すとそれでうっかりルーナの両親と遭遇したら帰るまでの時間が数十年単位で引き延ばされかねない。


 俺はまだしも、ルフトとか大丈夫か?


 一応ハーフエルフだしその半分はルアハ族。寿命的には長生きできるだろうし、ここには母でもあるルーナもいる。母の故郷であるのも事実だし、それならとここで暮らすのも何も問題ないだろう。

 けど、次に外に出るのが数十年先となると、流石に気軽に滞在していこうってなるかは微妙なところだ。


 それ以前にルーナがまずここに滞在するつもりがなさそうだしな。


 かつて俺を襲って子を宿した時には里帰り出産するつもりもあったようだが、その後は結局帝国に行く流れになっていたし、今更里帰り出産も何もあったものじゃない。とっくに生まれてるし。


 それに引き留められるのが俺やルフトだけならいいが、うっかりハンスも巻き込まれたら大変だ。

 ハンスは普通の人間なので、ここで数十年とか滞在したらもうそれ確実にここ終の棲家みたいな扱いになりかねない。十年程度ならまだどうにかなるけど、三十年とか滞在させられてみろ。その頃にはハンス六十歳だぞ。外に出て、そこから新たな生活するにはそろそろ厳しくなってくるお年頃だ。


 ミリアはまぁ、こいつも異種族だし時間的にはあまり問題ないとは思うが、組織の方が大変な事になりかねない。連絡役は他にもいるとは思うが、やはりミリアの鳥が一番速いようで何だかんだこいつは組織にいなくてはならない存在だ。

 それがちょっと数十年ここで拘束されてみろ。外に出たら組織壊滅してたとかまではいかなくても、規模は大分縮小されてたとかってオチはありそうで怖い。


 というかだ。

 長寿種族的には時間はたっぷりあるけれど、だからって世界情勢がのんびりしてくれているとは限らない。俺たちにとっては短い時間でも人間種族からすれば長い時間で、次の世代に受け継いでいく事だって沢山ある。

 ちょっと自分たちの里に引きこもって久々に外に出たら何か近くにあったはずの人間の集落がとんでもなく発展してた、なんて事だってあるわけだ。そういう話はたまに聞く。

 発展してるだけならいいが、場合によっては隣国と戦争おっぱじめました、なんて事だってある。


 俺たちがここで数十年過ごしてる間に知ってる国がいくつかなくなってました、とかシャレにならない。


 なのでまぁ、早々にここを出る事にする。

 長くいればいた分だけ、プリムのご近所さんからそういやあのお客さんはまだいるのかい? なんて聞かれでもしてみろ。多分光の速さ並に情報巡るしそうなるとルーナのご両親との遭遇率も上がる。


「まぁ、いつでも遊びにきなよ。って言っても普通は気軽に来れないんだけどね」

「だろうな」


 そもそもルアハ族の暮らす場所に行こうとした奴ってどれくらいいるんだろうな。

 侵攻とかしようとした奴らならそこそこいるっぽいが、そういう奴らは大体向こう側で迎撃されてるしそれが祟りだとか言われるようになってるし。

 ルーナが一緒なら来るだけなら問題なさそうだけど、そうじゃない奴が来る事ってあるのか……?


「うーん、ホントだったら色々見て回りたかったんだけど……今回は暇がないので残念残念」

「まぁ、長居するわけにゃいきませんよね、ミリアさんは特に」

「そだね。戻ったら任務こなさないと。あっ、ルーカス手伝ってね」

「僕が? まぁ、できる範囲なら構わないが」


 俺が手伝うような任務ってなんだ……そういやミリアが一緒についてくる時に何か任務あるとは言ってたけど、明らかに手伝うのはそれだよな。


「よし、それでは父……いや、母もだな。どっちにしろ見つかると厄介だ。速やかに立ち去るとしよう」

 仲が悪くないはずなのに何でこんな警戒してるんだろうな。まぁ見つかったが最後そのままなし崩しに今度はルーナの自宅に案内されてそのまま積もる話に巻き込まれて気付けば数十年コース、とか考えればそれはそれでわからないでもないんだが。


「じゃ、一度姿消すね。向こうについたらまた会おうぜ☆」


 それぞれ思い思いに寛いでた精霊たちの中でイシュケがそう言うと、一斉にその姿が消えた。

 さっきまでそこに誰かがいたという痕跡すらない。


 そこそこ広いリビングにそれでも結構な人数がいるように見えていたからあまり広いように思えなかったけれど、六名が一斉に消えた途端今度はやけに広く感じるような気がした。


「まぁ、ぞろぞろ連れ立って移動する方が目立つし……帰るならその方がいいか」

 俺とハンスとミリアとルーナとルフト、五名だけでもルーナ以外はここで暮らす連中からすれば見知らぬ顔だ。そこに更に精霊とはいえ六名実体化したのがいたら、一体何の集団だと思われかねない。


「ま、見送りくらいはしてあげる」

 正直プリムの外見も中々に目立つ感じがするから遠慮したくはあるものの、それでもここはプリムの故郷だ。顔見知りと遭遇した場合上手い具合に俺たちの事を誤魔化してくれるんじゃないか、と思う事にして有難く見送ってもらう事にした。

 もしルーナのご両親と遭遇した場合はプリムに任せる事にしよう。



 ――なんて、一応軽い警戒しながらも外に出てルアハ族が暮らすここと、向こう側を繋ぐ唯一の出入り口まで進んでみたが、幸いにも思っていたようなトラブルは何もなかった。

 入る時はどうだったか知らないが、出る時には特に何かがあるでもなく、門のような場所をくぐるだけであっという間に聖樹があるサグラス島へ出る。


 正直あの門向こう側はいくつかの色をぶちまけたような感じで風景も何も見えないぐにゃんぐにゃんしたやつだったから、本当に通って大丈夫かと思ったが問題はなかったようだ。


 ついでに戻ってきた時点で人数の確認もしておく。

 いや、何かほら、こういう時って全員無事に帰ってこれたと思ったら一人だけ戻ってきてないとかありそうだったから……つい。


 俺はもちろん戻ってるし、ハンスもいる。

 ミリアもいるしルフトもいる。


 ルーナは……あ、戻ってきた。

 少し遅れたがルーナもいる。

 精霊たちに関してはまぁ見えないけどそこら辺にいるだろう。


 しかしまぁ、この空間の裏側にルアハ族が住んでいる、とだけ知っていた時ならまだしも、戻ってきたら何というか周囲の緑が目に優しいこと……


 プリムの家を出て門がある場所まで移動する間、確かに何というか色合いがポップというか、たまにドギツイ色も混ざってたからな……場所によっては正直目に痛い。

 裏表激しすぎるだろ差が……とは思ったが、だからといって裏側ではなくこのサグラス島でああいった町を作りますとかなってもそれはそれで戸惑いそうな予感しかしない。


 神域とか呼ばれてる土地にある日足を運ぶ事になった誰かが目の当たりにしたのは何だかとってもポップでキュートでメルヘンな町だった……とか逆に脳内バグりそう。神域ってなんだっけ……? とか自問自答しそう。



 ……個人的には、老後暮らすにしてももうちょっと落ち着いた雰囲気の所がいいなと思う。

 町並みはまぁ、お祭りか何かならちょっと楽しそうなんだけど、あれ普段からだと慣れるまで目に厳しい。



「それで、任務だったな。一体何の任務を手伝えって?」

 なんだかんだミリアも急ぐ様子じゃなかったからそこまで急を要するような任務じゃないんだろうなとは思う。けれども、ものによってはなるべく急いだ方がいいかもしれない。手伝えと言われた以上は正直さっさと終わらせたいってのもある。


「うい。そう難しいものじゃない。ただちょっと、そう、廃墟群島消滅させるだけ」


 あまりにもあっけらかんと言ってのけたミリアに。

 ハンスが思わず「っえ……」と言葉に詰まり、ルフトが一瞬遅れて意味を理解し、ルーナは「ちょっと……?」と呟いていた。


「あのな、ミリア」

「うい」

「廃墟群島消滅させるっていうのをな、ちょっとで済ませようとするな」


 あと、普通に考えて島全体を消滅させるのってそれなりに難しいやつだと思う。

 ミリアの感覚がおかしいのか、俺が過大評価されてるのか……どっちなのかまではわからなかった。

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