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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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神秘の欠片もない



 倒れた場所はほぼ砂地というか土というか、まぁ岩場じゃなかったのは確かだ。

 しかし地面にちょっと大きめの石が埋まっていたらしく、俺が倒れたのはまさにその石部分だった。

 そういう所ピンポイントなのどうかと思う。


 前世でも割とよくあったけどさぁ……転んだ先にガラスの破片とか。普通に転ぶよりダメージ大とかな。まぁそれでも体内に破片が入り込んで……とかまでいかなかったから病院で手術しないといけないレベルの怪我はしなかったけれども。


 まさか今世でもアンラッキー具合がこんなところで発揮されるとかちょっと思ってなかったな……


 怪我は多分俺が意識を失ってる間に魔法で治したとは思う。

 特に痛いとかそういうのないし。


 そして目が覚めた俺が今いる場所は……



 どこだ??


 がばっと上半身を起こして周囲を見回してみるも、気絶する前の景色と違い過ぎてさっぱりわからない。

 どこかの宿、にしても何か違う気がする。

 廃墟群島の近くにある大陸。その宿を全部利用した事はないけれど、それでも土地によって何となく特徴が出る。例えばヴェルンとかは全体的に落ち着いたシックなイメージの宿が多いし、それ以外の所も割とシンプルな感じだ。


 こんなメルヘンな感じでは……


 パステルカラー多めのふんわりした感じだから目に優しい感じはするけど、それにしたって部屋の中を見る限り俺みたいなのが寝てるよりも、もっと年若い少女とか……そう、俺たちの中だとディエリヴァがこういう部屋を使っているならわかる。

 けどいくら俺が女性に見えなくもない顔立ちとかしてても流石にこの部屋とは合わない気しかしない。


 白が基調であれば病室か? とも考えたけれど、どう見ても誰かの部屋だ。

 一体どこのどちら様の家にお邪魔してるんだ……


 とりあえずふわんふわんなベッドから出て部屋の中をぐるっと回ってみたけれど、ここがどこなのかとかそういうヒントになりそうなものはなかった。

 多分誰かの部屋だろうし、勝手にそこら辺漁るのもな……と思うので部屋を出る事にした。

 部屋の中にいてもどうしようもないなら、外に出て情報を得るしかない。


 鍵とかかかってて外に出れないとかじゃないよな……なんて思いながら回したドアノブは、特に何の抵抗もなくするっと回ってドアが開いた。

 良かった! 見た目メルヘンなくせに唐突な脱出ホラーとか始まらなくてホント良かった!


 とりあえず誰かいれば話は早いんだけどもな……と思いつつみたとこ普通の一軒家っぽいから多分こっちがリビングとかだろう、と思ってあたりをつけて移動してみれば、確かにそうだったけれど誰かがいる気配もないし物音もしない。

 他の部屋を見るべきだろうか? と考えたけど人様の家だし勝手するのもな……と躊躇った結果、一度家の外に出る事にした。外の方が誰かしらいるんじゃないか、と考えた結果だ。

 だって家の中驚く程に物音しない。精々自分が歩く時の足音くらいだ。


 そうして家の外に出て見れば。


「……え、何ここ」


 俺が先程までいた家を見上げる。

 見た目がどう見てもお菓子の家。前世の童話にあったような魔女が住んでたらしきお菓子の家だ。

 といっても、材質はお菓子じゃないのはついさっき中から出てきた時点でわかっている。

 一見するとビスケットに見える壁だとか、屋根はカラフルなマシュマロでも乗っかってんのかって感じだったりだとか。窓は飴を溶かしたものなんじゃないか、みたいな感じだ。いや、お菓子の家じゃなかったらステンドグラスかな? とか思えたんだけども。

 家を囲む塀というか、柵のようになってる部分はプレッツェル生地のような棒が突き刺さってるようにも見える。そしてそこに黒いコーティング……ポッキーかな?


 見た目こそ、といった感じだがそれらがお菓子じゃないとわかっているのは甘い匂いなんて一切漂っていないからだ。

 これがもっとお菓子特有の甘い匂いでもしていたら疑う事なく材質がお菓子なんだと信じるところだった。


「あら、目が覚めたのね」

「え?」


 一歩外に出て見上げていたお菓子の家に「うわぁ」なんて感じで呆けていたら声をかけられ、反射的にそっちを見る。

 声は知ってる。

 知っている声だ。

 けれど、視覚がどうにもその現実を受け入れてくれない。


 そこにいたのは大男と言えるような存在だった。


 ヴァルトも俺より背が高かったけれど、目の前の巨漢はそれよりも更に上だった。

 多分身長二メートル超えてるんじゃないか……? 思わず見上げる。

 鍛えていない部分など存在しないとばかりにどこもかしこも圧倒的筋肉。いっそそこまで鍛え上げたらある種の芸術では? と思える程だ。

 多分、声をかけられないままただ、佇んでいるのを目撃していたらきっと生きている人としてではなく何か立派な彫刻があるな、とか思ったかもしれない。

 それにしても周囲のメルヘンさと比べて異質なのでどうしたって注目したとは思うが。


 さて、そんな筋骨隆々、一回り、いや、二回り……三回りくらい小さければ美術の教科書に載ってる何かすっごい芸術品の彫刻ですと言われても信じてしまいそうな見た目のそいつは、しかしとてもメルヘンな衣装であった。

 具体的に言うならディエリヴァが着ていたようなエプロンドレスに近いけれど、そこに更にフリルやレースといったものがあしらわれ、童話モチーフのゲームのヒロインとか着てそうな大層可愛らしい衣装である。

 服は可愛い。服は。

 しかし着ている中身は格闘漫画とかで出てきそうな筋骨隆々とした巨漢である。


 何ですか……その、罰ゲームか何かなんですか……?

 思わずそう問いかけたくなるくらいにミスマッチだった。


 いや、その服をさ、ディエリヴァとかが着てるなら可愛いって言えたよ俺も。

 ルーナだったら……あいつ可愛いより綺麗系だからどうだろうな? 似合わなくはないけど、若干合わないかもしれないなとか思うさ。

 ミリア……うん、まぁ、着こなせるんじゃないか?


 パッとすぐ思いつく身近な女性で想像したけど、あいつらが着てる分には特に何も思わなかったと思う。


 しかし中身は俺よりも男らしい外見をしている奴だ。

 いや、服の趣味にとやかく言うつもりはないけど、それにしたってインパクトがありすぎる。


 俺だからまだ素直に見上げるだけで済んでるけどハンスとか見たら悲鳴上げないか?


 そして、俺としては初めましての明らか初対面の相手だと思うのだが、その声は聞き覚えがあった。


「ほとんど治ってるとは思うけど、まだどこか痛む?」

「いや、特に問題はない」


 問題があるのは今のこの状況だと思う。


「そう。じゃあ皆待ってるし、行きましょうか」

「皆……?」

「えぇそう。ここ離れだもの。寝かせてる相手をあまり騒がしい場所に置くのも、って思ったからこっちに運んだけど、起きたなら移動しましょ」


 皆、がまぁ間違いなくルーナたちだろうというのはわかる。

 こっちよ、と言って歩き出したその人の後ろに続くようにして俺も歩く。


「ところでその……ロクシス、だったか?」

「プリムおねーさんよ」


 あぁ、やっぱその声そうなのか、と思いはしたがそれよりもだ。


「その姿はロクシスの方じゃないのか?」

「こっちがプリムおねーさんよ。ロクシスになるとどうにもなよっとしちゃってね……わたしの趣味じゃないから」


 一体どんな外見になるんだロクシス……えっ、何か普通に筋骨隆々とした巨漢だと思ってたけど、じゃあつまり今の姿が女性……? 鍛え上げられすぎだろ……そんな育つの?

 正直ちょっと羨ましい。俺の今の姿はどう鍛えてもこれ以上筋肉つかない感じだからな……だからまぁ女装とか平気でできるんだけど。


 離れ、と言っていたから本宅のようなものがあるのは理解した。どう見てもポッキーとしか思えない柵の向こう側に続いている道を進み、その先は俺が出てきた家よりは大きな家。

 豪邸とまではいかないが、ちょっとしたお屋敷であるのは確かだ。


 ちなみにこっちもお菓子の家仕様な見た目の大変メルヘンな何かだった。

 壁がビスケットなのかクッキーなのかわからんけど、何というかとても美味しそうな見た目であるのは事実。

 とはいえ見た目だけで食べられる材質じゃないはずだ。

 もし実際にそんな素材だったら今頃この辺虫とか大量に発生してそうだし。


 板チョコみたいな扉を抜けた先は、チェック柄のクッキーですか? と聞きたくなるような模様の廊下が続いている。

 タイルを敷き詰めたならまだわかるけど、歩いた感触からしてちょっと木造っぽく思えるんだよな……一体どういう木材使ったらこんなチェックボックスクッキーみたいな床になるんだ……

 壁とかスポンジケーキみたいな感じだし……いやこれホント何素材?


 この家の素材がわからん……とか思いながらも進んでいけば、さっきの家の中で見たリビングとは比べ物にならない広さの部屋に出る。ここも、リビングと呼んでいいんだろうか……何となくさっき見たリビングと似た感じするから多分ここがこの家のリビングなんだろうなとは思うわけだが……


「旦那! 目が覚めたんですね!?」

「あっ、ルーカス無事だった!?」


 すぐ近くにいたハンスとミリアが声をかけてくる。


「いや、無事っていうかトドメさしたのあんたの鳥だろミリア」

「この子もちょっと勢い余ったって言ってた。うっかりうっかり」


 とても軽やかにごめーん☆ なんて言われた。場合によっては謝罪する気あんのかととてもイラっとしそうではあったが、まぁ、何だかんだ無事である事は確かだしな。

 というかミリアの鳥精霊が言葉を喋ったところは見た事ないけど、ミリアとだけは意思の疎通できてるみたいだし一応謝ったってのは本当だろう。


 精霊だけど見た目は鳥だしなぁ。

 鳥相手にいつまでも怒るってのもどうかと思うし、これは許すしかないか……


「ルーカス、無事か!? 無事だな!? 一応確認したけど本当に無事なんだな!?」

 少し奥の方にいたルーナが駆けよってきた。

 その後ろにはルフトもいる。


「あぁ、別に何も問題はないが……」


 というか。

 大きめのソファーに思い思いに寛いでるアリファーンたちを見て、どっちかっていうと俺そっちの方が気になるんだけど。


「だから言ったじゃーん。大丈夫だって」


 ゆるっとした口調で言ったのはラントだ。マカロンのような見た目のクッションを抱えている。


「確かに言ったけどそれはそれだ」


 ルーナがそれに対して反論する。


 ん? えぇとつまり、俺が大丈夫だっていう話は既に精霊から聞かされている……?


「とりあえず、あの後どうなったんだ?」


 プリムがいるという時点で薄々わかっちゃいるけれど、それでもきちんと確認しておこうと思って俺は問いかけていた。

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