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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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人工精霊



 目の前にはクロムートの姿、の上にチラチラとノイズ混じりに重なるようなカイの姿も見える。

 けれどもその声はクロムートだ。


 多分、だけどクロムートは破裂した時点でカイの身体を乗っ取ったんじゃないかと思う。

 というか、乗っ取った。

 カイの最期の言葉からしてそれは明らかだ。

 けれども、カイの姿そのものを完全に、とはいかなかったんじゃないだろうか。カイの身体も何か限界っぽい感じしてたし。


 けれどもクロムート的に多少の延命はできた。そうして俺の身体に目を付けた。


 ここまではまぁ、想像でしかないけど大体合ってると思う。


 ただ一つ問題としては、だ。


 あのまま普通に取り込まれていたら俺の身体は今頃クロムートがゲットしてたと思うんだけど、生憎俺の身体には先客がいた。

 俺の身体なのに先客が俺じゃなくてザラームっていう精霊っていうのもどうかと思うんだけどな!?


 普段からしょっちゅう好き勝手乗っ取られるわけじゃないし、別に俺の身体が拠点ってわけでもないからいつもはアリファーンたちと同じような感じだったんだけど、何かあった場合にちょっと俺から離れて行動する、みたいなのはザラームだけはしなかった。


 というか、アリファーンたちと同じように呼び出した場合高確率でこいつ俺の身体使うから俺も極力呼ぶ事はしなかった、って話なんだけども。

 前世の記憶を思い出す以前だってそもそも滅多に名前呼ばなかったしな。

 だからこそ俺も前世の記憶思い出した後であれこれ自分の事を思い返したりした時に、ザラームの存在はあまり気にしていなかった。

 故郷が幼い頃に滅んだ事実とか、そういうのはちゃんと覚えていたけれど、しかしその故郷が滅ぶ要因の一つだった事まではちょっと忘れていた。


 ザラームを治すために使った魔法で、結果として他の精霊たちが力を使い果たした結果、故郷周辺に使われていた護りの魔法が弱まって、それで帝国とはまた別の国ではあるが異種族狩りをしていた奴らに攻め込まれた……のが故郷が滅んだ真相だ。当時の俺は幼かったが故にそこまでわかってなかったっぽいけれども。

 でも今にして思えばそうなんだよなぁ……直接滅ぼしたのは異種族狩りの連中だけど、俺も無関係ではなかったっていう。


 まぁ、それはさておき。今更それに関してうだうだ言ったところでどうしようもない。


 現状俺の身体はザラームが憑依している。乗っ取りとどっちがマシな表現かはさっぱりだ。正直どっちもどっちな気しかしない。

 だからこそ、現状黒い水に覆われた状態であっても俺はまだ完全にクロムートに乗っ取られてはいない。


 良かったのか悪かったのか何とも微妙な話だよな……ザラームがいなければ俺ここで終わってただろうし。


「いい加減諦めなよ。それ以上やっても、きみたちの命はこれ以上続かない」

「そのような事、誰が決めた! わたしは! わたしはまだ諦めない……ッ!!」

「うん、でもさ、きみも、そっちのきみも、等しくあの実験の失敗作なんだよ」


 俺の口からザラームが言葉を紡ぐ。


「あの島の人たちはね、気付かなかった。一番最初に成功した存在に。けれどそのままずっと失敗続きだと思ってあれこれやった結果、どんどん正解から遠ざかってしまった。結果が、きみたちだ」


「お前にわたしの何がわかる!?」

「わかるとも。だって僕こそが、あの島で行われた実験の一番最初の成功例なんだから」


 その言葉に、クロームもその姿に重なるようにチラチラしていたカイも、一瞬呆気にとられたようだった。

 いや、俺も正直何言われたのかちょっとよくわからないんだが……


 え、ザラームが……? 人工精霊?


 クロムートもカイもついでに俺も、ぽかんとしていた一瞬で充分だった。

 ザラームはその隙に何事もなかったかのように力を使う。


 ぎゅっ、と濃縮されたような闇がクロムートたちを包み込んで、中から「かはっ……」という音が、いや、声か? ともかく聞こえて、そこから先は何も聞こえなくなった。

 いっそ静寂が耳に痛い。


 何が何だかわからないうちに終わっていた。


 ぱしゃん、と何かが弾けるような音がした、と思った直後に視界が明るくなる。

 クロムートが俺を包むようにしていたあの黒い水のようなものが弾けて消えたのだ、と理解したのはそれからだった。



 周囲を見回せば先程と大して変わりはない。違いといえばクロムートやカイの姿が完全に見えなくなってしまった事くらいだ。

 正直何がなんだか……という気持ちが大きくて、終わったのか? という疑問すら出る。


「……ザラーム、終わった?」

「あぁ。終わった」


 黒い水が消えて、その場に残された俺を――というか多分今の俺は黒髪金目なのでアリファーンも流石に何があったか把握したのだろう。

 俺の名ではなくザラームの名を呼ぶ。


 そしてザラームはアリファーンの問いに短く応えて頷いた。


 そうか。終わったのか……

 ホントにか? という気もするけれど、終わったんだろう。

 何ていうか、随分と呆気ないような気がする。というか俺がここにいた意味あったか? っていう気もしているんだが……


 何だろうな。

 ザラームがいなかったとしても、どこかでルーナと出会っていたならクロムートと遭遇する事には変わらず起こり得る展開だったかもしれないし、そうであればどっちにしても最終的にクロムートと決着つける羽目になったとは思う。


 ルーナと出会わなければ、クロムートやカイと出会う事はあっただろうか……?


 組織絡みでどっかで関わってはいたと思う。異種族狩りとかやってた帝国にクロムートがいた以上、やっぱりどうにかするべく対立は免れなかったはずだ。


 どう転んでも最終的にこの結果になってたんじゃなかろうか。

 いや、ザラームがいなかったらあの時点でクロムートに取り込まれてたとも思えるわけだが。でもなぁ、その場合他の精霊が何かやらかす可能性もあったし、もしかしたら無事っていうオチになったかもしれない。


 ……今回は近くに居たのがアリファーンだったから、もしクロムートに身体を乗っ取られてあの黒い液体から出てきた場合、下手したら燃やされてた可能性もあるんだけどな。

 他の精霊も場合によってはいっそ潔く死ねとばかりに一撃で屠りにきそう。


 助かる可能性が二割くらいあればいい方な気がしてきたぞ……なんてこった。



 というかだ。

 アリファーンがここに案内する前の言葉を思い返すに、こいつザラームから聞いてたな……!?


 ザラームが事実群島諸国で作り出された人工精霊であったなら、確かにカイもクロムートも後輩とかいう意味で間違ってはいない。

 因縁の相手、とかはまだわかるが後輩ってなんだ……? とか思ってたけど、これの事か……


 というか、群島諸国は一体いつから人工精霊計画立ててたんだ……クロムートとカイは大体同じ時期だろうけど、それでも百年以上前の話のはず。

 ザラームはそれよりももっと早くに生まれていた。けれど成功したと思われず、そこから実験とやらはどんどん正解から遠ざかっていった、とも言ってたし……

 いやまて、故郷が滅んだのが俺が三十歳くらいの話で、そのちょっと前にザラームと出会ったわけだから……


 もしかして、俺が生まれた時点で群島諸国って人工精霊作成計画立ててた可能性あるよな……


 なんつー闇の深い島なんだ……群島諸国……



「旦那ー!!」


 遠くからハンスの声がした。

 逃げろ、と言ったあとからある程度状況が落ち着いたと仮定して様子を見にきたんだろう。声のした方をザラームが見上げれば鳥に乗ったハンス達の姿が見える。けれども精霊たちの姿は見えなかった。

 とはいえ、近くにはいるんだろうな。


 空を滑るようにしてこちらへとやってくる鳥の上には勿論ミリアがいたし、ハンスの他にルフトとルーナもいる。プリムの使い魔の姿は見えないが、多分ルーナかルフトの近くにいるはずだ。


 おーいおーい、とばかりに手を振っているアリファーンを見て、少なくとも危険な状況から脱したと判断したのだろう。鳥は速度を落としながらもこちらへ滑空し、そうしてふわりと降り立った。


「あいええええ!? だんっ、旦那!? えっ、どちら様!?」


 地面に降りたハンスが俺を見て叫ぶ。

 ハンスだけじゃない。ミリアも、ルフトも、ルーナも、一時的にこの場から離脱していた奴らが揃いも揃って同じ反応をする。


 その反応にやっぱりなぁ、という思いしかない。

 ザラームが身体使ってるって事は、髪も目の色も違ってるわけだし。同じなのは着ている服くらいで。

 魔法で髪や目の色を変えるにしたって、この状況で変える意味はないもんな。


 口をパクパクとさせて「えっ、なんっ……えっ!?」と言葉にならない何かを言うハンスは、俺の横にいるアリファーンを見て何かを問うように俺に向けて指さすもののアリファーンは意味ありげに頷くだけだった。


「我が名はザラーム。精霊だ。今はこの者の身体を借り受けている」


 普段の俺と同じくらいのテンションでそう告げたザラームだが、なんというか……なんだろうな?

 決してハイテンションなわけじゃないのに、俺とそう変わらぬテンションのはずなのに、何でそんな不穏な空気出てるんだろうな……?

 そのせいでルーナとルフトが警戒態勢に入ってるし、ミリアも驚いた様子ではあるもののいつ何があってもいいように構えている。


 あっ、何かこれ、もしかしなくても不味い展開なんじゃないかな……

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