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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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ある意味蚊帳の外



「思い出したんだ。忘れていたこと。思い出させてくれて、感謝してるんだこれでも」


 その言葉がクロムートではなく、明らかに俺に向けて言われていると理解できはしたものの、何を思い出して何に対する感謝なのか――そこまでは理解できなかった。


「友人を救うために、おれは力を欲していた。ヴェルンの図書館で見た本からヒントを得た結果、気付いたんだ。

 元に戻すのが無理であるなら、おれと同じになればいい、って」

 カイの顔は四分の三くらい黒い何かに覆われていて、判別できる部分は少ない。けど、それでも前世の幼馴染と同じ顔立ちをしていたからこそ俺はそいつがカイだと判別できてはいた。

 右目はともかく左目の方は黒い何かに覆われているのでわからないが、見えてる方の目はやけにキラキラとしていた。


 その目だけを見れば。

 カイが本当に俺に対して感謝している、という感じはしているんだ。

 ただ、何かやたらイヤな予感がするのも事実。


「同じ、だと……!? 貴様一体何を言っている……!?」

「何って、言葉の通りさクロムート。おれの事忘れたわけじゃないんだろ? 一緒に実験をうけた仲じゃないか」

「お前は……お前はあの時わたしよりも先に死んだ! その死体が処分されるところをわたしも一部とはいえ見ている! 実は生きていたなどと言われても信用できるか!」

「いや、死んだよ。一度は」


「死んだなら、何故今いる……」

「実験はね、成功したんだ。一見すると失敗したように見えたかもしれない。けど、確かに成功した。だからこそおれはこうして存在している」


 カイの言葉にクロムートは何を言われているのか理解できないといった具合に押し黙った。


 正直俺もちょっと理解が追いついてない。

 え、廃墟群島で見た資料によると人工精霊として成功したと思われてたのはクロムートだよな。

 で、そのクロムートが島中の人間だとかを吸収したか何かして群島諸国は一転、廃墟群島へ。

 生存者なんて存在していないはずだ。


 カイの話から推察すると、カイもまたその実験に……って事だよ、な?


 ヴェルンで目撃されるようになった頃が具体的にいつだったかは知らないが、それでも百年以上前の話であったはずだ。

 その時点で既に群島諸国は廃墟群島になっていたはずだし、時期的におかしな話……ではないのかもしれない。正確な事は知らないから何とも言えないけど。


 カイの話が事実なら、彼は一度死んだと言っている。

 しかもその死体を処分する一部始終、とまではいかずとも少しはクロムートも見ていた。


 カイの肉体はここで消失している。

 その後、何かがあって廃墟群島ではなくカイはヴェルンの街にいた……という事だろうか。そうなんだろうな。事実ヴェルンの街にいたわけだし。


 忘れていたとか思い出したとか言ってるし、それはつまりカイもまた群島諸国にいて実験材料にされていたことを忘れていたという事だろうし、それに関する記憶を思い出したという事なんだろう、とは思う。

 幽霊って自分が死んだ事に気付かないとかいう話も聞くし、カイもまた自分が死んだ事を忘れていてもおかしくはない。それどころか生きてるつもりで今までと同じ日常を過ごしていたんじゃないだろうか。

 ヴェルンの図書館で。


 群島諸国での出来事を忘れていたのは……どうなんだろう。生きていたなら脳が防衛本能として思い出したら問題があると思って意図的に記憶を封じたとかもあり得るけど……この時点で死んでるんだよな、カイ。

 いやでも自分が死んだ事にも気付いていないのであれば、生きていると思っているなら辛い記憶を思い出さないように忘却するというのはあり得ないわけじゃない。


 それはさておきカイは今、何と言った。

 実験は成功していた……!?


 廃墟群島の資料を見る限り、唯一の成功例はクロムートだ。

 しかし資料を見た俺からすれば、あれは人工精霊という名の合成獣だ。

 それでも実際に精霊を取り込んだりして自らの力に変換できているのだから、ある意味では成功した、と言えるのかもしれない。


 けれども。

 では、カイは?


 あの資料に関しては失敗作がどうなったか、なんてのはあまり詳しく記されてはいなかった。

 大まかにこういった失敗例はありました、というのは書かれていたが、それは単純にこの実験をした後の被検体にこういった反応が見られ、その後こうなりました、という実験結果を記しただけであって、誰それがどうなった、とまでは記述されていなかった。


 実験による被検体の症状は一人一人記されていたわけじゃない。同じような結果になって死んだ者は恐らく纏められて報告されている。こういった結果になった被検体が何体いました、みたいに書かれたわけではなかったけれど、それでもあの資料に記載されていた被害者の数は多かったように思う。何件の失敗例、みたいにさらっと書かれていたし、そこから改良してどうこう記されてたのはうっすらとではあるが覚えている。


 けれど、被害者の数はそこに記されていたものが全部じゃないはずだ。

 そう考えればあの実験の被害に遭った者は果たしてどれだけいた事やら……


 資料にカイの名などなかったはずだ。

 というか、名前が記されていたのは成功例と判断されたクロムートだけだったように思う。


 だからこそ、こうして今カイがクロムートと同じく群島諸国で被検体となっていたという事実を聞かされて俺だって驚いてるわけだし。


「成功した、だと……!?」

「そうだよ。クロムート、何驚いてるの? だってあの実験、何だったかちゃんと覚えてるよな? あいつらは精霊を作ろうとしていた」

「あぁ、そしてわたしが」

「お前は精霊ですらないだろ」


 単刀直入、と言わんばかりにずばっと否定する。

 カイのあまりの即答っぷりにクロムートは言葉に詰まったようだった。

 いやうん、確かに精霊ではない。あの資料を見る限りクロムートは精霊に近いものではあるが、その成り立ちはどうしたって合成獣だ。


「そりゃあ、力を得た精霊が最終的に実体を持つ、っていう話は聞いた事あるけど。

 でもお前はさ、最初からそうだったんだろ? じゃあ、その肉体があるうちは精霊とは言えないんだよ」


 カイの言葉は大まかに嘘ではない。

 確かに精霊は基本的に目に見えないものだし、実体化して俺たちの目に映る事ができるのは力を持つ精霊だけだ。

 たまに特殊な眼を持つ者は単なる意識体としての精霊を見る事ができるようだけど、それだって世界で極僅かでしか存在していないはず。大半の者からすれば精霊は目に見えないのが普通だ。


 アリファーンとか俺に憑いてる精霊は実体化できるけれど、それだってあえて実体化しなければ俺の目に見える事もない。


 そしてあいつらだって最初から人の目に映る事ができるわけじゃなかったはずだ。

 そういう意味ではカイの言ってる事は正しい、と言える。


 けれども、例外が存在するかもしれない。

 精霊に関して俺たちが何もかも知ってるというわけじゃない。だから、生まれた時から普通に実体を伴う精霊がいる可能性だってある。

 見た事ないから本当にいるかどうかは知らんけど。

 でも、いないって言い切れる根拠はどこにもない。


「つまり……真の成功例はお前だった……と?」

「あぁそうだよ。身体はとっくになくなったけれど、こうして実体化できるまでに至った」


 ほら、とばかりに腕を広げて見せたが、生憎とヴェルンの街で見たカイの姿と比べれば正直今の姿は精霊というよりは化物じみている。

 カイの身体の大半を覆う黒いものは、液状のようにも見えるが本当に液体かどうかも疑わしい。

 ぽたりぽたりと滴り落ちているようだが、それらは地面に落下しきる直前にすっと消えていく。そして滴り落ちている割に、カイの身体からその黒いのが減ったという感じもしない。


 クロムートは明らかに驚愕していた。

 思いも寄らぬ事を言われたというのがありありとその顔に出ている。


 確かに俺だって驚いている。まさか群島諸国でやらかした一件で唯一生き残ったというか、まぁ残っているのはクロムートだけだと思っていたのにヴェルンで出会ったカイもだなんて思いもしなかった。


「……まさか、他にもお前のような成功例が?」

「さぁねぇ、いたかもしれないしいないかもしれない。おれはしばらく群島諸国での出来事も忘れてヴェルンで今まで通りの生活してたけど、おれ以外の成功した精霊は少なくとも見てないし、もし群島諸国周辺にとどまっていたとしたら……そいつらはもういないんだろ?」


 お前、何したらそんなぐちゃぐちゃになってるわけ?


 カイの言葉に明らかにクロムートは怯んだ様子を見せた。

 カイの言葉が事実なら、彼は死んだ後群島諸国ではなくヴェルンまで移動していたわけだから、その後廃墟群島になったばかりの島での出来事など知るはずがない。

 けれども、カイはクロムートが何をしたか、知っているようでもあった。


 クロムートは実際群島諸国にいた人間やらそこにいただろう精霊たちを取り込んでいる。

 その後も帝国の方だとかで異種族だって取り込んでるし、そういう意味ではもうどう足掻いても合成獣。かつては人間だったかもしれないクロムートは、しかし今はもう人間と言うには色々と混ざりすぎている。

 カイが言っているのはそれについてだろう。


 俺の目にはかろうじて人の姿に見えなくもないクロムートだけど、カイの目から見たクロムートはもしかしたら違って見えているのかもしれない。


「何、と聞くか。こうでもしなければわたしは生きていけなかった。力を蓄えるためにはこうするしかなかった!」

「取り込むのはそこらにある魔力だけにしておけば良かったんだ……そうしたらそこまでぐちゃぐちゃになる事もなかったのに」


 カイがすっと手を動かすと、周辺から黒い蔦が生える。出現した蔦は現れたと同時にクロムートに向かって凄まじい勢いで伸びて、避ける間もなくクロムートはずたずたになった。

 鞭みたいな攻撃方法かと思ったが、その蔦は見た目以上に凶悪なのかさながら刃物で切り裂かれたような傷だ。


「ぐっ……さっきからお前はわたしの邪魔ばかりする。何が目的だ」

「何って、折角だからお前もきちんと精霊になれるようにまずその邪魔な肉体を排除しようと」

「ふざけるなよ……!」

「ふざけてなんかいないさ」


 言いながら、またもや黒い蔦はクロムートに襲い掛かる。

 とはいえ今度はクロムートもそのままやられっぱなしというつもりもないのか、何らかの魔術を発動させたらしい。黒い液体が壁のように地面から伸びるように出現して、黒い蔦を絡めとる。


 そこから先は、黒い液体と黒い蔦との攻防が開始された。

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