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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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真実の追加



 何かこの村だけ他の島と比べて保存状態悪くないか? クロムートが人工精霊唯一の成功例、みたいに記されてた書類があった研究所のあった島よりもなんというかボロボロになってるの何でだ? 潮風のせい、とかでもないだろう。

 そんな風に思っていたというのに、その疑問はあっさりと解決した。


 現在進行形でこの村で戦闘が行われていたからだ。

 成程、そりゃ荒れる。元々それでも草木が生い茂ったりだとか、物によっては苔がびっしり、なんていう感じではあったと思う。けれども家の破損具合だとか、外に置かれていた道具の壊れっぷりは長い年月放置されていたから、というだけではなく、今まさにここを戦場とされた結果だった。


 そこにいたのは紛れもなくカイだ。


 最後に図書館で見た時とそう変わっていない。

 相変わらず何だか黒っぽくなっているし、元は金髪碧眼だったはずなのに今のカイの髪はほぼ黒く染まり、そして目の色はうっすら金色に変色しているがその顔立ちは紛れもなくカイだ。

 髪と目の色が変わっただけならまだしも、その身体の大半もまた黒い何かに覆われていた。

 身体の表面からは黒い蔦のようなものが生えている。


 ……サグラス島で俺たちを弾き飛ばしたあれと同じに見えるという事は、つまりサグラス島からここまで吹っ飛ばしたのはカイだった……?


 そこら辺確認したい気持ちもあるが、それよりも俺が一体どうしてこんな事に……? と思うような事になったのは、カイと対峙しているのがクロムートだった事だ。


 クロムートも前に会った時と比べてなんというか……力を回復させられていないのではないか? と思える程度に疲弊しているように見える。

 元々帝国で見た時から吹けば飛ぶような体躯ではあった。ひょろひょろ、という表現がピッタリな程に。

 こちらは怪我をしているらしく、その身体からは明らかに血が流れている……はずなのだが。


 そこから流れているのは赤い血などではなく、黒い液体だった。


 ぼた、と落ちるそれらは地面に落ちた途端に溶けるように消失する。地面に血の跡が点々と、なんて事にならないようだが、それでも明らかにその身体からは血であれば大量だと誰が見てもわかるくらいに滴っている。


 ……一体何がどうなって、カイとクロムートが戦ってるんだ……?


 その疑問は当然だと思う。ここにいるのが俺じゃなかったとしても、ハンスなら絶対そう突っ込んだだろうし、ルフトだってその疑問は口に出したと思う。

 ルーナは……どうだろうか。俺たちとは少しばかり違う事を考えたとしても、それでもやはり最終的にはどうしてこの二人が争っているのか、という部分を一切気にしないという事もないだろう。

 ミリアだってそうだ。

 帝国を乗っ取ったクロムートと、図書館で気になった事をあれこれ質問して、精霊学を学んでいると言っていたカイ。あの街の中では一種の怪談とされていた存在でもあるカイとクロムートに共通点があるようには思えない。

 ヴェルンが帝国領内にあったというならまだしも、大陸が違う。


 だからこそ、因縁があると言われてもピンとこない。そもそもあるかも疑わしい。


 えっ、ホントにこれ一体どういう状況? 二人の様子を見ていてもさっぱりわからない。

 思わず実体化したままついてきていたアリファーンに視線を向ける。


「どうする? 放っておいても多分どっちかは死ぬし、上手くいけば相打ちするんじゃない?」


 冷めた眼差しでそんな事を言われた。

 いや、確かにこの状況、見たとこクロムートの方が不利みたいだけど。放っておいたら多分クロムートは死ぬんじゃないかなって思うけど。

 俺もわざわざ率先してまで自分の手を汚したいわけじゃないから、このまま放置でいいような気もするけど、カイが勝ったとして、その後どういう行動にでるのか全く読めない。

 そもそもあの黒い蔦、あれサグラス島にもあったって事はカイも本来そこにいた……んだよな?

 プリムが言ってたサグラス島にいる不審人物だかってのが、あの黒い蔦を操る存在であるならそれはカイのはずだ。けれど、何でカイが? という気もする。

 クロムートならわかる。

 クロムートならルーナに執着していたし、ルアハ族がいると言われるサグラス島に向かったとしても何もおかしな事ではないように思える。


 勿論普通にサグラス島に行ったとして、ルアハ族はその空間の裏側に住んでるとかいう話だし通常の方法ではそこに行く事はできないだろう。

 けれど、人工精霊として力を蓄えたクロムートならどうだろう?

 精霊に近づいた、と仮定して。その力を使えば空間の裏側とやらに行く事も可能になるのではないだろうか。


 あるかどうかもわからない場所に行くのは難しいが、そこにある、と伝承であれ言われているような場所であれば、精霊ならいけるのではないだろうか。

 クロムートは人工精霊とは言えどっちかといえば合成獣なんだが。


「わざわざこの島までわたしを連れてくるとはな……」

 がふ、と多分血だろう黒い液体を口から吐きながらもクロムートが吐き捨てる。

「あっちは狭いから。それに、ここの方がわかりやすい」

 忌々しい、とか言い出しそうな顔をしているクロムートに対して、カイは穏やかな口調で話しかけている。


 確かに、木々がわさわさしてるサグラス島で戦闘しろって言われると中々に面倒ではあるかもしれない。森の中での立ち回りに慣れていない奴なら確実に苦戦するだろうしな。

 対するこっちの廃墟群島はどの島に行くにしても、ある程度の広さがある。森っぽい場所はこっちにもあるが、それ以外の場所もあるし上手く移動できれば自分が立ち回りやすいと思える場所で戦う事も可能だろう。


 とりあえず今の会話からクロムートもサグラス島に居た事は理解した。


 けど、いくら立ち回りやすいからってあの島からここまで俺たちだけじゃなくクロムートまで連れてくるなんて事をやらかしたカイの真意がわからない。


「そもそもだ、何故、何故貴様が生きている!? お前は確かに死んだはずだ! カイ!!」


「えっ、まさかの知り合い……?」

 思わずそんな事を呟いてしまうのも仕方のない事だと思う。

 というかだ。

 そもそもクロムートに知り合いがいるという考えがまずもってなかったわけだし。


 考えてもみてくれ。

 クロムートについては廃墟群島にあった資料で多少知ったとはいえ、彼は本来人間であったものの人工精霊という名の合成獣になってしまった。そこからしばらくはこの島にいたようだけど、その後はなんやかんや帝国の方へ。その途中で誰かと知り合ったとして、その知り合いが生きているイメージがまったく俺には想像できない。

 唯一の存在はルーナくらいか。

 それ以外は帝国での事を思い返すに、邪魔になったら処分する、みたいな感じだったしじゃあ知り合いとかいるはずないと思うのもある意味で仕方ないんじゃないかと思う。


 では、カイとは一体どこで知り合ったのだろう。

 カイは存在だけならヴェルンに出没する知りたがりの幽霊という怪談みたいな扱いで認識されている。名前などは知られていなくとも、そういう存在がいるというのはヴェルンに暮らす一部の者には知られた存在だ。

 けれどそれだって、ここ最近の話じゃない。大昔からいると知られている。


 ヴェルンにいたカイがクロムートと知り合う機会はないように思える。

 クロムートがヴェルンの街に一時的にでも滞在していたなら話は変わるが。


 けれど、クロムートの言葉から、どうもカイとは生きている間に知り合ったような言い方だ。


 え、ちょっと待って。俺なんでこんな場面に居合わせてしまったんだ……?

 何かよくわからない展開に思わず困惑する。


「死んだ? 何を言っているんだクロムート。おれは生まれ変わったのさ。文字通り。あの実験で」


 カイのその言葉に。


 俺は何だかとてもイヤな予感がしていた。

 そして多分その予感が当たっているんだろうな、という確信も。根拠もないのに、だ。

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