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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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そこにいたもの



 ざざぁんざざぁんと波の音がする。

 ふっと意識が浮き上がるような感覚。


 そこでようやく自分が意識を失っていた事を自覚した。


「…………え、何」


 波打ち際に打ち上げられているというわけではなかったが、砂浜で寝ていたのは事実。

 気付けばあちこち砂まみれになっていた。


 何でこんな所に……? と考えて意識を失う前の事を思い返す。


 そうだ、何か黒い蔦に薙ぎ払われて、バトル系少年漫画にありがちな勢いで吹っ飛ばされて……


「というかここどこだ」


 普通ならサグラス島だと思うだろうけれど、あの島じゃないのは確実だ。飛ばされた時にあの島からどんどん遠ざかる感じだったのは覚えている。


「どこっていうなら、廃墟群島」


 声は思った以上に近くから聞こえた。

 声のした方を見れば実体化したアリファーンがいる。


「マジか」

「マジだ」


 別に疑っているわけじゃないが、アリファーンは大まじめな表情で頷いてみせた。


 いや確かにサグラス島から廃墟群島は肉眼で認識できる距離だけどさぁ……でも見えてるってだけで実際に行くとなるとそれなりの距離があるわけで。

 そんだけの距離吹っ飛ばされるとか普通に考えたらどんな勢いだよ。よく生きてるな俺……

 普通の人間なら確実に死んでてもおかしくないぞ。大体肉眼で見えてる島とはいえ、どんだけ距離あると思ってるんだ。数メートルなんて可愛らしいもんじゃない。生きてるのが運が良いと思えるくらいだ。……いや、こんなところで幸運を感じたくはなかったけど。


 廃墟群島、と言われとりあえず周囲を見回す。

 周辺は船だった残骸があるものの、船の原型が残ってるようなものはない。

 俺たちが廃墟群島に行った時に移動したり見た場所とはまた違う場所のようだ。


 なんだかんだ見て回ったけど、ここは恐らく俺たちが見なかった場所なんじゃないだろうか。

 ワイバーン便があった島から順番に見ていったけど、途中でヴァルトと遭遇してその後はクロムートと交戦。クロムートが撤退した後は傷を負ったディエリヴァを連れてヴァルトと共に廃墟群島からサグラス島へ。

 そんな移動順だったので、思えば廃墟群島全部を見て回ったわけではない。


 とはいえ、恐らく重要な建物があったあの島から隣、まではともかく更にその隣、と行けば単なる観光地のような場所でしかなかっただろうし、今更あえて見る必要はないんじゃないかと思える。

 ……現にこうして見回してみても、今俺がいる島は重要そうな何かがあるような雰囲気はない。

 いや、そんなすぐにわかるような雰囲気あったらそれはそれで……隠し方大雑把か、みたいなツッコミが出るんだけど。

 けれどもここから次の島へ、と移動しても、廃墟群島の端と端の島はワイバーン便のある島だろうし、それを考えればもう重要な施設はこちら側にはないはずだ。


「ほかの連中がどうなったかわかるか?」

「ん? 多分廃墟群島のどっかにいるんじゃない? あれに振り払われて景気よく飛んだし」

「いや飛距離ヤバいだろそれ……てか、俺が砂浜に打ち上げられてるのって海面ギリギリとかを飛ばされたからだと思うけど、他の連中もっと高い位置にいただろ……」

「うん。だから島の真ん中とかそっち側に落ちたんじゃないかな」

「……生きてるか、それ……」

「だいじょぶでしょ、皆それぞれついてるし」


 そういや直前であいつらの事頼んだ、と言ったな。咄嗟の事とはいえ我ながらよくやった。

 という事はうっかり地面に激突して死ぬような事になる前にはそれぞれ精霊に救出されたと考えて大丈夫か……いやホント、普通なら死んでてもおかしくないぞこれ。


「あぁ、あと」


 どうでもよすぎて今思い出した、みたいな反応でアリファーンがすっと指をある方角へ突き付けた。


「そっちにいるよ」

「……何が」

 アリファーンが指し示した先を見るも、すぐ近くに何かがいるというわけでもなさそうだ。

「ルーカスをここに吹っ飛ばした奴。別の言い方するなら、あいつの後輩。もひとつ違う言い方するなら因縁の相手」

「……誰の事だそれは」


 それなりに長い付き合いとはいえ、アリファーンの言う事はそれでもわからない時がある。

 俺たちをこっちに吹っ飛ばした相手、ってのはつまりサグラス島で黒い蔦みたいなのを操ってた奴って事だろう。

 けど、その後に出た二つの言葉の意味がわかりかねる。

 あいつの後輩、あいつ……? 誰の事を指してるのかいまいちわからないし、因縁の相手と言われて今すぐ思い浮かんだのはクロムートだ。

 けれど、仮にクロムートの事を指すとして、二番目の言葉の意味はやはりわからない。


「まだ、思い至ってないんだね」


 俺が意味わからん、とばかりの顔をしていたからか、アリファーンは仕方ないなと言い出しそうな顔をして言う。

「気付くかどうかはどうでもいいけど、どういう決断をするかは……ルーカスだよ?」


 何を意味しているのかさっぱりわからないが、とりあえずアリファーンが指し示した方角に俺たちを吹っ飛ばした相手がいる、というのは理解した。クロムートとは決着をつけるしかない。俺とクロムートはそこまで因縁の相手か? という気もするけれど、けれどあいつがルーナに執着する以上、そしてルーナが俺と共に行動する以上はイヤでもクロムートと関わる機会は増える。


 現状の戦力になり得るのが俺とアリファーンだけ、というのがとても微妙だがだからといって後回しに……なんて考えて先に他の連中を探す事を優先させるのも危ない気がする。

 嫌な予感がする以上、放置せずに先に片付ける事を優先すべきだろう。俺が他の連中を探してる間に向こうも好き勝手移動して、結果俺とまだ遭遇してない仲間と出くわす可能性はある。なら、俺が足止めしてるうちに向こうは向こうで合流してもらった方が安心な気がした。


 だからこそ、俺はアリファーンが指し示した方角へ歩き始めた。

 ついでに魔法で自分の身体中についた砂を落とす。……正直こんなところで魔法使ってる場合かとも思うわけだが、なんていうか凄くじゃりじゃりするし……


 戦ってる途中でそれが気になって気になって……なんて事になったらそれもそれでとても微妙な話だ。そんな事で集中力を切らしてその隙を突かれる、なんて事になれば笑い話にもならない。

 そもそも靴の中にちっちゃな石ころ入っただけでも結構気になったりするのに、全体についてる砂が気にならないとかないだろ。


 じゃりじゃりとした感触から解き放たれて、そこでようやく足取りも多少軽くなる。いや、これから向かう先の事を考えれば足取り軽いままでいられるかって話なんだけど……


 砂浜から、木々が密集している方へと進み、更にそこを抜ける。その先には小さな村のようなものがあった。見た所この村も多分漁業で生計を立ててたんじゃないだろうか。ま、周囲が海に囲まれてる以上、それがメインになるのはある意味で当然だとは思う。

 一応森とか山とかないわけじゃないけど、そこにいただろう動物を狩りつくしたら今後に響くわけだし、獣は狩るにしてもある程度制限があったんじゃないかと思う。人里に害を及ぼすなら狩るしかないだろうけれど、そうじゃないものまで狩りつくしたら今後、食料は植物と魚に大きく偏るわけだし。


 とはいえ、とっくに滅んだ村だ。数人で漁に出る際に使ってただろう木で編まれた小舟なんかも見えたけど、それだってかろうじて原型はあるけどヒビが入っていたり、何らかの草の種でも飛んできたのか表面には草が生えていたり、苔がついていたり。


 こうなるともう小舟として使えるはずもない。

 使おうと思う事もまずないけど。


 家なんかも一応形は残ってるけど、残ってるだけで使えるかどうか、を基準に見れば多分使えないだろう。かろうじて雨風を凌げるかもしれないが、完全に防げる感じじゃない。ある家は天井に穴があいているし、ある家は柱が折れでもしたのか傾いていた。

 それ以外の家も見た所、どこかに一つは駄目だな、と思える部分があった。


 他の島の家だとかの建物と比べてここはあまり保存状態が良いと言えない。

 島の場所的なやつが駄目だったんだろうか、いやでもな……と思いながらもその先へ進んでいくと、音が聞こえた。

 ばん、と何かがあたる音と、ぱん、と何かが破裂するような音。

 アリファーンが指し示した方角なわけだし、そりゃ何かいてもおかしくはない。この音の原因がクロムートだろうとは思うんだが……じゃあ今、一体何に対してそんな音を発生させてるんだ……?


 悲鳴とかは聞こえてないからハンスが、とかではないと思いたい。

 他の誰かと遭遇して、戦闘真っ最中とかそういう可能性は高いので、行かないという選択肢もない。


 音が聞こえた方向へ駆け出して――



「いや、え……?」


 確かにそこに、クロムートはいた。

 しかし相対している奴は、俺の予想を裏切ってミリアでもルーナでもルフトでも、ましてやハンスでもなかった。


「カイ……? 何でお前がここに……?」

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