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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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完全にレジャー



 海が見える所までやって来たら、次は海の上を移動するつもりでいた。

 現にサグラス島からヴェルンへ行く時はそうだったし。

 しかしミリアがやって来た以上、どうせなら空から行った方が早いという事になった。


 とはいえ、空を移動しても今から出発すれば間違いなく到着するのは夜か明け方だ。

 海路を行くよりは早く到着できるのはいいが、到着した時間帯によっては面倒な事になりかねない。もし今サグラス島で彷徨っているのがクロムートであるなら、真夜中に遭遇したら気付けるだろうか……っていう気しかしないんだよな。何というかあいつの体格細いし、あと色合い的に目立つ感じじゃないし。せめて明るい時間帯に到着したい。


 そういうわけで少し早いが今日は海の近くでキャンプする事になった。

 空を移動すればあっという間に到着できるけれど、つまり今の状況ってゲームで言うならセーブポイント手前で、ここから先に進んだら戻ってこれません、みたいな感じに近い。

 サグラス島に着いたら少なくともそこで休憩できるかは微妙だし、ルアハ族が暮らす場所に俺たちが行けるかもわからない。

 であれば事前に休んで万全の状態になってから出発した方がいいだろう。


 というわけで普通に進むのであればまだまだ全然休むには早い時間ではあるものの、休めそうなのが今しかないとなれば今のうちに休むしかない。



「そういえばハンス、そっちはどうだった?」


 海辺の近くという事もあって、何となく火を熾して網なんか設置してそこで肉とか野菜焼き始めて軽率にバーベキュー始めたわけだが、こっちの事情は何となく話したけどそういやハンスやミリアの方はどうしていたか聞いてなかったなと思ったので問いかけてみる。


「えぇ……? どう、って言われてもねぇ……旦那と別れてから別にそんな面白い話なんてありませんでしたよ」

 網の上で焼かれている肉に塩と胡椒を振りながらハンスが答える。


 組織の連中とフロリア共和国の使者とが帝国にやって来たとはいえ、最初のうちは本当に帝国に誰もいないのかを調べるところからのスタートだったらしいし、やって来た人数だけでは流石に帝国全体を調べるには足りないとなって追加の人材をおかわりしたりしていたらしい。

 移動に関してはミリアも多少手を貸したそうだが、ミリアもミリアで組織のやりとりを手紙にしたため鳥に運ばせていたようだし、移動の手伝いばかりもしていられない。

 残されたハンスはとりあえず資料を纏めたりする手伝いくらいしかしていないとの事だったが、

「ハンスとっても役立ったよー」

 と、話を聞いていたミリアが口を挟んできたのでどうやら思った以上にハンスは役に立っていたようだ。

 流石に帝国を調べにきた組織側の相手を使うわけにもいかないし、かといってフロリア共和国の使者を使うのはもってのほか。そういう時に本当に気軽に顎で使える気安さすらあるハンスの存在はミリアにとって重宝したらしい。


 あとは言われる前に何となく察知して動いてくれたのも大いに助かったのだとか。

 とはいえハンスからすれば言われてから動くとなるとその時点でやらなきゃいけない作業がかなり増えてるから、気付いたらさっさと行動に移っていただけ、との事らしいが。


 そうこうしているうちに俺からの手紙が届いて、ハンスをヴェルンに寄越してほしいという内容で、ミリアとしては大層悩んだそうなのだ。

 正直ハンスだけを送りこむならすぐに可能だったらしいのだが、そうなるとミリアの仕事量が増える。そうなると他の作業が滞る可能性が圧倒的に高く、だからこそすぐさま送り出せなかったのだとか。

 そこまで優秀じゃなければハンスには適当にお疲れ様とでも言って送り出せたんだろうけれど、ここでまさかの優秀だったがために足止めを食らったというオチが。


 他にも手伝ってくれそうな人材を組織から連れてくるのにミリアが鳥で迎えに行ったりして、そこでようやく引き継ぐ事ができたらしいのだ。

 とはいえ、ミリアはここに来る必要性があったかも微妙だ。仕事はそれこそ大量にある。それでも一緒に来たのは……何だ、息抜きか? 正直息抜きにするにしても、相手取るのがクロムートかもしれない時点で息抜きどころじゃないとは思うんだが。


「帝国はほら、住んでた人皆いなくなっちゃったでしょ? だから帝国だった場所、まるっと空いてるわけなんだけど……フロリア共和国の領土として取り込むにしてもそっち側に移住しようっていう人は流石に今の時点いないらしくてね……」

「ま、フロリア共和国側にいた帝国の連中も死んでるわけだからな。それも黒い液体吐いたり包まれたりで。何かの呪いを疑うのも無理はない」


 仮に貴方はああはなりませんよと言われたとしても、帝国で何があったかを具体的に知らなければその言葉を鵜呑みにはできないかもしれない。安心ですよというならその安心さをもっとハッキリ教えてくれ。そう思う者が出るのはある意味で当然だ。

 俺だって何も知らなかったらそう言ってた。


「となると……帝国があった土地はしばらく寝かせておくのか?」

「いえ、一応ほら、国の上の方は何があったかっての組織経由で聞いてるらしいから、全く使わないってわけでもなさそうなんですけど……オレはそこまで詳しく知らされてませんね。ま、組織的にも下っ端ですし聞かされるはずもない」

 苦笑を浮かべて言っているが、仮に教えられてたら間違いなく面倒な仕事押し付けられてるだろうから、知らなくて正解だと思う。


「ミリアさんはほら、元々連絡役じゃないですか。でも今回自分から動く事にした。結果として帝国の後始末にも関わる事になったわけですが……」

「後始末って言っていいかも微妙だが」

「まぁ、慣れない事で疲れたから気分転換なんだそうですよ」

「気分転換になるか? 正直これから行く場所が場所だし敵対するかもしれない相手が相手だぞ?」


「んぅ? もしかしてミリアさんのお話? ういうい、帝国でじっとしてるの飽きたから刺激を求めてこっちに来ただけのことー!」


 程よく焼きあがった肉と野菜をバランスよく皿に取ってミリアがひょっこりとこちらの会話に混ざってくる。


「それ大丈夫なのか?」

「うい。問題ない。リーダーの許可とってる」

「…………いや、それならいいけど」


 正直組織のリーダーでもあるあいつが何考えてるかなんて俺にわかるはずもない。

 連絡役がミリアだけというわけでもないだろうし、他に組織内に連絡を取る方法はあるはずだと思いたいし、そう考えると今ミリアがこうしてるのはちょっとした休暇とかそういう……?

 いや俺なら休暇でクロムートと戦わなきゃいけないかもしれない事態に首つっこまないけど。


「ん。別にミリアさんとて面白そうだから首を突っ込むとかしてるわけじゃない。ちゃんとリーダーから任務出されてる」

「任務? ミリアに?」

 聞き返したものの、ミリアは口の中にこれでもかと食べ物を詰めた後だったので、もっもっと咀嚼してるだけでこちらの問いに答えられそうな感じはない。

 駄目元でハンスに視線を向けてみたが、ハンスもそれは知らないらしく首を横に振られた。


 てっきりただの息抜きで首突っ込んだのかと思ったが、任務もある……? この状況で?


 ミリアが口の中の物を飲み込むまで待ってみたが、ミリアの中ではとうにこの話題は終わったものらしく改めて話すつもりもないらしい。それどころか肉追加で焼いていい? とか聞きだす始末。

 いや、材料はたくさんあるから好きにしろよ……


 そんな事よりも事情を説明しないとどうにもならないと思ったからルフトの事もルーナの事も話したけれど……

「大丈夫か?」

「あぁ、そこは仕方がない」

 言わないでどうにかできるかと考えたが、どう足掻いても無理だったのでルアハ族についても話す事になったとはいえ……ミリアは恐らくリーダーには報告する。リーダーは別にそれを知ったからといってルアハ族をどうこうしようとは思わないと思うが……知る者が増えるということは、ルアハ族についての情報がどこかで漏れる事だってあるわけだ。

 知ったからって特にどうもしようと思わないような相手ばかりであればいいが、そうじゃない相手の耳に入る事もあり得るわけで。


 それこそ、第二第三のクロムートみたいなのが出てこないとも限らない。

 いや、この場合クロムートよりは……群島諸国で人工精霊を作ろうとして、その流れで精霊に最も近い種族であるルアハ族を疑似的に作ろとした連中、だろうか。


 廃墟群島で見た資料から、あの島の連中はルアハ族についてさらっとしか知らない感じだったが、もしああいった手合いがいたとして、そしてルーナの存在を知れば。

 本物のルアハ族がいる以上、ロクな事にならない。

 むしろルアハ族そのものをどうにかしようという輩が出て来てもおかしくはない。


「流石に大っぴらに吹聴するような事はしないだろう。彼女も、彼女の上の者も」

「ん。そこは約束する。ミリアさんもリーダーも、別にルアハ族を迫害したいわけじゃない」

 任せろ! とばかりに親指を立てて言っている。

 まぁ、組織の活動がまず異種族の迫害などを防ぐとかそういうやつだし、ルアハ族だけ例外ですとかそういう事にはならないと思いたい。


 ルーナは組織に所属してないけれど、それでも一応俺の連れ合いという事で保護は可能……ルフトも組織所属だし俺とルフトの身内となればまぁ、うん……いや、何かあったとしてもそもそもルーナに保護が必要かって言われるとそれもどうなんだろうな? とは思うわけだが。

 ヴァルトだった時とかこいつなんだかんだ強かったしな……


 何か余計な事考えてるような気がしてきたので、考えるのをやめる。

 そもそもこいつが俺にただ守られる事を良しとするかも微妙だ。

 そりゃ、最初は俺が助けたらしいけど。ルーナの話聞いても正直そういやあったなそんな事……くらいの認識だからな。しっかりとルーナを助けたっていう自覚は話を聞いた今でも無い。



 肉と野菜と、あと魚介も焼いてある程度全員の腹が満たされたあたりで、結構な時間になっていた。

 バーベキュー始めた時点ではまだそれなりに明るかった空はすっかり暗くなったし、明日は朝一で出発するのだから、さっさと寝るべきなのはわかっている。

 とはいえ、すぐに眠れる気がしないが。


 それは俺だけではなく他の奴らもそうなのだろう。

 ミリアは今ルーナと話しているようだったし、ルフトもそちらに混ざっている。

 俺は後片付けをしていたし、ハンスも俺と同じく。

 片づけが終わったらテントに入るつもりだが、生憎と目がさえてしまっている自覚はある。


「旦那」

「何だ」

「オレ、帝国にいた間暇だったんで、ミリアさんの手伝いの傍らこんなもの作ってみたんですけど、旦那やります?」


 網だとかを洗い終えて片付けた後、ハンスはそんな事を言って自分の荷物をごそごそと漁り始めた。

 作った、という言葉から一体何をやるつもりだろうかと思えば、ハンスの手にあったのは……


「花火?」

「はい。火薬調合して中々いい感じにできたと思うんですよね」


 どこからどう見ても手持ち花火だった。何作ってんのお前……


 普段なら。

 そんな事してる余裕はないしさっさと寝るぞ、とか言うところなんだが。


「手持ちだけか? 打ち上げタイプは」

「や……流石にそれは何か魔物とか寄ってきそうだから作ってませんよ。魔物が逃げても盗賊とか寄ってきそうじゃないですか」

「……それもそうか」

「え、何で旦那乗り気なの……? 普段だったら絶対スルーしてるじゃん……や、やるっていうならそれはそれでいいんですけれども」


 単純に眠くないから付き合うのも悪くないかと思っての事だったのだが、俺が乗り気であった事にハンスは違和感を拭いきれなかったらしい。

 何だ、断ったらノリが悪いとか言いそうなくせに、乗り気でも微妙に引くとかお前は俺がどうしたらお気に召すんだ。我儘な奴め。



 ちなみにこの後ミリア達も誘って普通に花火した。

 ……海辺、キャンプ。バーベキュー。花火。

 海水浴場に泊りがけで遊びにきたわけじゃないのに、何だこの満喫してる感じ……

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