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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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合流したので



 ハンスがどうにか落ち着いたあたりで、ようやく気付いたらしい。


「あれ? ルフトくん!? ルフトくんだ!」

「はぁ、お久しぶりです」

「あれ、え、ディエリヴァちゃんは!?」


 あっ、そういやそこら辺は手紙で説明してなかったな。ルアハ族云々はちょっと説明が難しいというか、手紙自体はミリアが最初に見るだろうとはいえ、その後で誰の目に触れるかもわからん状態だったから、というのもあって一切書いてなかった。ミリアが見た後でリーダーあたりに話が通る可能性はあったけど、それ以外の第三者が知るかもしれない可能性を考えると気軽に出していい情報かわからんかったしな……


 俺が帝国を出発した時、共にいたのはディエリヴァだ。というかあの時点でルフトは行方不明という認識だったもんな。そりゃハンスのリアクションもそうなるか。


「まぁ、話は少し長くなるが」


 流石に何も知らせないまま、というわけにもいかないだろう。もし今サグラス島にいるのがクロムートではない場合、ハンスには廃墟群島の重要施設付近に近づいてもらってクロムートをおびき寄せるための囮になってもらうわけだし。

 というか本来はその目的で呼び寄せていたわけで。

 いくらなんでもそんな使い方する時点で何の説明もなし、とか流石に俺もそこまで非道ではない。


 お前これから囮な、とか拒否権ないままやるわけだし、そりゃ事前説明くらいはしっかりやるさ。


 正直まだハンスの足腰がおぼついてない感じはするものの、この場でずっと立ち止まったまま話をするわけにもいかない。多少速度は落ちるが移動しながら話をするか、と思っていたのだが。


「ルーカスー!」


 再び上から声がした。

 太陽を遮るように黒い影が通り過ぎ、直後そこから何かが落下してきた。

 移動していった黒い影の方はゆっくりと旋回している。


 それが鳥だと理解したのは割と早い段階だったが、では、そこから落下したのは一体……? と思う間もなくそいつは重力に引かれてこちらへと近づいてくる。


「やっほー!」

「言ってる場合か!?」


 大の字になりつつこちらに落下してきているミリアに、思わず叫んだ。


「ひっさしっぶりー」

 正直そこまで久しぶりという感じは何故かハンスよりもしなかったが、そんな場合でもない。流石に何も考えてないとは言わないが、だからといってそのまま見てるわけにもいかないだろうと思ってとりあえず受け止めようと体勢を整える。それを見てミリアは「あはっ」とか笑っている。

 いや、笑うだけならまだしも多分語尾に星だとか音符だとかの記号がついていたかもしれない。


 普通の人間なら間違いなく死ねる距離から落下してるくせに、そんな事はあり得ないとばかりの反応だった。

 まぁ、ミリアには鳥精霊が憑いてるから、落下して死ぬとかないのはわかってるけれども、それでも見てるだけのこっちからすれば充分心臓に悪い。


 上から覆いかぶさるように落ちてきたミリアをどうにか受け止める。抱き合うような形になってミリアはそのまま俺にしがみついてきた。

 ルーナがこちらを見ているのがミリア越しに見えた。

 とはいえルーナの表情も、誰よその女、みたいなものではなくぽかんとした感じだ。


 とりあえずミリアを下ろせばミリアは未だ上空を旋回している鳥へと手を振った。緩やかに鳥がその姿を消していく。ついでに視線を動かせば、ハンスが乗ってた鳥もまた消えるところだった。


 なんか、その、組織の連絡役とかしてる割と上の立場の人らしいです、なんてルフトの声が聞こえそちらを見ればどうやらミリアの事をルーナに説明しているようだ。

 ルーナも俺が組織に所属している事は知ってるものの、そこにどういう人物がいるか、まで細かく把握してるわけでもない。手紙というか指令が届いた時にわざわざミリアからと言った覚えはなかったし、ヴァルトになって俺に近づいた時もまだその時点ではハンスと出会ってすらいない。ヴァルトが姿を消して、その後、ハンスを拾ってちょっと俺が一人になった時にルーナとして接近したけどすぐさま逃走したのでハンスの事も知ってるかどうか……いや、ルーナとして近づいた時に俺が一人の時を狙っていたならもしかしたら知ってる可能性もあるわけか。


 どっちにしてもルーナとルフトの事を説明しないわけにもいかない。

 そこそこ急いで移動していたものの、ある程度速度が落ちる事はもうどうしようもないんだろうなぁ……そう思いつつもさて、どこから説明するべきかと俺は頭を悩ませた。



 ――とはいえ別段頭がよろしいわけでもない俺が悩んだところでたかが知れている。どっちにしてもどうして今ルフトがいてディエリヴァがいないのかという説明をするにはルアハ族の事を話すしかない。下手に誤魔化すにしても、どう誤魔化せというのか、って感じだしな。

 ハンスの中ではルフトはルーナと俺の子だという事実を知ってるものの、そのルーナがいまこうしてこの場にいるという事実もどういう事? となるわけだし、更にそのルーナは俺が今まで探していた親友でもあるヴァルトだという……何ていうか情報が多いな!?

 これルアハ族伏せて説明するとか無理があるだろ。むしろ伏せたら余計におかしな情報が紛れ込みそう。


 というわけで俺はまずミリアにルアハ族って知ってる? と聞く事にした。


「うい、ルアハ族、聞いた事ならある。ずっとずっと昔、精霊の数が減った時にミリアのご先祖様お世話になった」

「そうか。じゃあルアハ族がどういう存在であるかは知ってるんだな?」

「んー? あまり詳しくは知らないけど、精霊に近いとは聞いたような気がする。いかんせんそのお話してくれた時のおじいちゃん、もうボケてた」

「そうか」


 昔語りをしたまではいいが、その時点でボケかけてた爺さんの話とか、そりゃマトモに聞くかっていうと微妙なところだよな。もーやだーおじいちゃんたらまた話盛って、とかで済まされる可能性の方が大きい。


 けれどもミリアがルアハ族について一応名前だけでも知ってるなら話は早い。ハンスに関してはもう今の会話聞いて何となく把握してくれ、くらいの投げっぷりだ。


 話をしながらも移動はしていた。黙々と進むだけならともかく、周囲の警戒をしつつ話をして更に移動しているとかなるとやはり移動速度は若干落ちたが、俺が帝国を出て行った後のあれこれを話してそれが終わる頃にはどうにか海が見え始めていた。


「旦那帝国出てからそこまで日数経過してるわけでもないのに、何か色んな事が起こりすぎじゃない? というか、ルフトくんとディエリヴァちゃんが同一人物……? いや、うん、とりあえず無事で良かった……?」


 ハンスはまだ完全に情報を飲み込み切れていないのか戸惑った様子ではあったものの、それでも一応の結論としてルフトが無事であった事を良しとしたようだ。まぁそうだよな。ハンスからすれば最後に見たルフトって帝国の城に開いた大穴に落ちてくところだったっけ……? それで探しても見つかってないとかだもんなそりゃそうなる。


 ちなみに俺がミリアとハンスに話をしている間、ルフトの方でルーナにある程度二人の事は話していたようなので、改めてこちらに説明する手間は省けた。

 というか、普段そんな喋らないから今のこの説明だけで気持ち的にはもう一生分会話した気分なんだわ。


 本来はハンスに廃墟群島に行ってもらうつもりだった事だとか、クロムートらしき人物がサグラス島にいるらしいとルーナの知り合いでもあるルアハ族から連絡が来た事だとかも説明して、現在はサグラス島へ向かっている事も話し終えた。というかヴェルンにて待つ、とかのたまってたけど急遽移動する事になったし合流する予定であるなら至急サグラス島へ、みたいに昨日の夜手紙に書いてたから、そこら辺は何となく気付いていたかもしれない。


「結局あのクロムートって何者なんです……? 帝国乗っ取ったり今はその、神域? 聖域だかって言われてるらしいその島にいるかもしれない、ってんでしょ? 何がしたいんですかねぇ……」

 クロムート自体はハンスも帝国で見ているものの、あの時点ではそもそも謎の存在だった。ルーナに執着している事くらいは察する事ができただろうけれど、どうして執着しているのだとか、その理由まで知るはずもない。


 廃墟群島で見た情報を伝え、ついでにルーナがクロムートと出会った当初の事を話せばハンスは大体理解したようではあった。とはいえその表情は理解しました、すっきりです! という感じではない。


「自分で人間って言っておいて、ルーナに至るとか言ってたって事はもう人間である事放棄してるも同然、いや、既に人間じゃないんだったか……そいつもう実は自分が何であるかわかってないんじゃないの……?」


 別に誰に向けて言った言葉というわけでもないのだろう。ただ、思った事を呟いただけといった感じだ。

 けれどもその呟きには同意するしかない。

 今までに色んなものを取り込み過ぎてそこら辺揺らいでるってのは確かなんだと思う。

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