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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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束の間の休息



 収拾がつかない。

 今の状況を一言で表すならばまさにそれに尽きた。


 とはいえだからといっていつまでもこのままというわけにもいかない。


 こういう時は面倒でも一つずつ解決しろって前世でも今世でも両親に言われた気がするので、先人に従う事にする。


「まずルフト。何の用だ」

「え、あぁ、明日も何もないようならちょっと外に出てもいいか聞きたかったんですが……」

「図書館ではなく?」

「図書館は今何かピリピリしてるじゃないですか。あの人の一件で」


 カイ本人が出てくる事は限りなく可能性として低いけれど、それでもいつまたやってくるか、みたいな感じで当分は警戒される事だろう。そうなれば確かに雰囲気的にもピリピリするのは言うまでもない。

 落ち着いて読書するにも、そんな空気の中では無理があるだろう。


 だからこそ気分転換にちょっと街の外とかぶらついてみようかなと思ったらしい。


 街の中の別の場所を見て回るとかではないんだな……まぁ、学者だとか職人気質の連中が集う場所だ。場合によってはカイじゃないけどそういうタイプの奴にまた絡まれる可能性を考えたのかもしれない。一度ある事は大体二度目があるし、二度ある事は三度あるもんな。悪い事に限っては高確率で。


「それについては一旦保留にさせてくれ。先にこっちの用件を聞きたい」

 やって来るなりいきなり痴情の縺れで拗れた事があるか? なんて問いかけをするのもどうかと思うし、ルフトをこの場に居させたままでいいのかと考えるとどうなんだろうなと思うわけではあるのだが。


 そこでとりあえず痴情の縺れとやらが発生する相手がルーナにとって心当たりは俺だけというのもどうなんだろう、とも思う。いや他に心当たり大量にいられてもそれはそれで……何だろうな。そんだけ手玉にとれるのは逆に凄いとも思えるんだが、うぅむ。


「生憎僕とルーナの関係性は痴情の縺れ以前の問題では。そもそも拗れる方向性が別すぎる」


 ちょっと前までの事を思い返すと恋愛沙汰でのいざこざというよりは、何だろう……まず種族的な特徴を隠されていたことで拗れていたように思えるのだが。

 ヴァルトとルーナが同一人物であると知らなかった頃だとルーナの存在謎すぎたもんな。

 むしろ頭おかしい女扱いになってたもんな……いやでも知らなきゃそういう考えに行きつくのも仕方ないのではないだろうか、と思うわけで。

 ヴァルトとルーナが同一人物であるという事実を知ってからは、幾何かの誤解は解けたかもしれないが、それでもちょっとどうかと思うんだ、そのやり口は……ってなったもんな。


 縺れというか拗れというか、まぁ、思う部分が全く無いとは言い切れないわけで。

 でもそれ恋愛的な意味っていうよりは、何だろうな、何かが違うように思える。


「うん? じゃあ違うのかな。相手の思い込み?」


 鳥――ではなくプリムおねーさんとやらが困惑したような声を出す。いや、戸惑いたいのはこっちなんだが。

 鳥が喋った、とルフトは呆然と呟いたが、これ鳥を媒体に向こう側の人物が喋ってるだけだから実際は鳥が喋ってるというのとはまた少し違うんだよな……喋ってるのは中の人です。


「ロク……プリム、一体何があったの?」


「いやね? 今うちの島にさ、来客っていうか侵入者っていうか、何て言っていいのかわかんないのが来てるんだけど」

 来客と侵入者は同じ括りにしちゃいけないやつだと思うんだが。ベクトル真逆では?

「こいつが何かルーナの名前呟いてたからてっきり」


 え、とルーナが思わず声を漏らす。


 ルーナがルーナとして接した事のある人物の数はそう多くはないはずだ。

 こいつが島を出てから今までに至るまでの話はほぼ聞いている。何せ俺がルーナと出会った時の話だとか、そういうのが含まれてるわけで。


 ルーナは島を出た直後にクロムートと出会って、しばらくは廃墟群島に身を置いていたが一度別れ、その後別の場所で起きた異種族狩りに巻き込まれ俺が助けて、そこでヴァルトになって俺に近づいた。

 まぁその後はまたルーナに戻って俺を襲って逃走。その後島へ戻ろうとする前に一度廃墟群島へ立ち寄り、そこでクロムートと再会、島に戻る事なく帝国へ行く事になってしまった。

 その後は帝国から一度逃走し、追手を撒いて廃墟群島へ、の流れだ。

 逃走している間に立ち寄った場所に関してまでは俺も把握していないが、立ち寄った先々で何らかのトラブルを起こすような事はしていないはずだ。目立つ真似をするはずもない。

 ルーナの姿であればクロムートに、ヴァルトであれば俺が探していたわけだし。


 そう考えるとどっちの目も掻い潜ったこいつ、実は結構凄いのでは、と思えてくるわけだがそれはさておき。


 そもそも帝国から逃げた後にヴァルトの姿になっていたのだから、ルーナとして他者と接する機会はそう多くないはずだ。異種族狩りの際に一緒になっていた被害者くらいか? けどそれだってもう随分昔の話だし、種族によってはとっくに寿命を迎えている者だっている。

 勿論今も生きてる奴はいるかもしれないが、今更ルーナに接触を図ろうとする理由は思いつかない。


「なぁんか、亡霊みたいな姿でちょっと怖いんだけど。男たぶらかすなら相手選びなよ、とか言いたいけど茶化せる雰囲気ですらないのあれ何怖い」


 亡霊、と言われて何となく心当たりがないわけでもない。


 痩身痩躯、健康さからは随分遠ざかった感じの男。


「どうもこっちに来ようとしてるっぽくてさぁ、いやまず無理だと思うんだけど。ただ、何か色々混ざってるみたいで大丈夫っしょ、とか気楽に思えなくて」

「まさか……クロムートが……?」


 ルーナもやはりあいつの事を思い浮かべたようだ。まぁ、一番ルーナに執着してる相手だもんな。


「やっぱ知り合い? ちょっと友達は選べって言われてるでしょ。駄目じゃんああいう何か物騒な相手に個人情報教えたら」

「いや教えたわけでは……」

 ルアハ族の共通認識なのかはわからないが、プリムの言い分は案外マトモだった。だよな、幼いうちは皆と仲良くしましょう、とか言われるけど結局のところ友人って選ばないと後々自分の首を絞める事になりかねないんだよな……うっ、前世の親が久々に学生時代の友人だった人から連絡きたって話してたけどそれが実は宗教勧誘だったりマルチ商法のお誘いだったりした時の事を思い返すと、背中から漂う哀愁に同情しかない。


 お互い仕事が忙しくて中々会う機会なかったし、同窓会にも参加できなかったから本当に久しぶりなんだ、って楽しそうに出かけていった父が帰ってきた時のしょんぼり具合を思い返すと何かもう、居た堪れないというか。

 ああいう時なんて言えばいいんだろうな。下手な慰めは余計に逆効果だとしか思えなかったし……


 思えばあの後だったんだよな。俺が死んだの。いや俺も案外運の悪さ的に今まではかろうじて生き残ってたけどそろそろ何かの拍子に死ぬんじゃないかな、とか思ってた部分はあったし実際そうなった事に前世の記憶思い出してからはやっぱそうだよなぁ、くらいの感想しかなかったんだけど、残された両親は流石にやっぱりねー、いつかそうなるんじゃないかと思ってたわー、あはははは、とか思わないだろ流石に。

 俺が生きてたらネタとして笑うくらいはしたかもしれないけど、死んでる時点で笑い話にするとかできるメンタルしてなかったわ。うちの前世の両親。


「ルーナ、あまり、親に迷惑をかけるような真似はよろしくない」

「えっ、いや、プリムは親じゃない」

「親みたいなものだったでしょ、誰が面倒見たと思ってんのさー」

 戸惑いながらも反論したルーナに、即座にプリムが突っ込む。言葉だけでなく、文字通り身体ごと。

 白くてふわふわもこもこの鳥がそりゃーとばかりにルーナに突撃して、べしんとぶつかって落下する。反射的にルーナが両手でキャッチしたので床に落下するのは免れていた。


「いやでも両親普通にいるから、プリムは親がわりというより普通に近所のお兄さん」

「おねーさんですー」

「あ、はい……」


 なんだか若干げんなりしている気がするが、何というか性別を自在に変化させるのも問題あるんだろうなぁ、という気がしてきた。

 ルーナの言い分からして恐らくプリムは昔はロクシスだったんだろう。ルアハ族は男性名と女性名両方あるって言ってたし、ルーナのさっきまでの反応を思い返せばそれは容易に思いつく。

 近所のお兄さんが今はお姉さんか……前世だったらわざわざ性転換手術したんだな、とか思うやつだがルアハ族にとってはある程度時間をおきさえすれば気軽に変更できるものみたいだからなぁ。

 自分はこっちの性別の方がしっくりくる、ってなればずっと同じ性別のままかもしれないが、気分でコロコロ変える奴だっているかもしれない。


「正直ちょっと怖くて思わずさっさと帰ってきたけど、空間の歪みとか察知されないか心配」

「……プリム、もしかしてこっちに来てたの!?」

「そだよ。ちょっとお出かけしてそろそろ帰ろってなった時に島でそんなの見つけてごらん。びっくりするから」

「家の近所を不審者がうろうろしてるわけか。ビックリするで済むか?」


 何というかプリムは案外肝が据わっているのかもしれない。

 帰ろうとしたところでクロムートを発見し、接触しないように本来のホームがある、空間の裏側だったか? そっちに行ったんなら今の所は安全だろうけれど、プリムの言い分からクロムートがそっち側に行くような事になるかもしれない、と。


 不審者情報があってあらやだ物騒ねぇとか言ってたらその不審者ドンピシャな人物が家に侵入してきた、みたいなものか。シャレにならんな。


「恐らく、恐らくな? もしあいつがこっち側に来たとしても、まぁ、どうにかなるとは思うの。思うんだけど、無事で済むかがわからないのね。なんせ今まで島を荒らしに来た連中と違って……うん」

 どこか言葉を濁しているが、何に対して濁されているのかがわからない。俺はわからなかったがルーナは何となく察したようだ。


「あ……確かに、もしそれがクロムートなら、そっちに行くのは危なすぎる。

 ……ルーカス、すぐに行こう。行って、確認して本当にクロムートなら止めないと……!」

 もしルアハ族の住んでる場所にクロムートが行くような事になったら、どうなるのかはわからないが、不味い事になるというのは何となく理解できた。

 しかし……クロムート一人でルアハ族の暮らす場所に行って無事で済むとも思えない。が、無傷でいられるはずもないし、ルアハ族が無事でいられる保障もない。

 けれどもルーナの様子から俺が思ってるのとは何か違う気もする。


「え、今から? いや一応目くらましとかしとくから、そんな急がなくていいよ普通に明日出発で。もう夜だよちゃんと寝なよ」


 ところが思わぬところからストップが入った。

 もう夜って言っておきながらその状況に鳥を寄越したくせに? と思ったが、明日の朝出発でもいいと言ってくれるならそれはそれで助かる。


「ルフト」

「はい」

「僕とルーナは明日この街を出るが」

「ボクも行きます」

「気晴らしにもならんぞ」

「わかってます」

「なら良し。とっとと部屋戻って寝ろ」


 俺がそう言えば、ルフトはすぐさま踵を返して部屋を出ていった。

 ルーナも手に鳥を乗せたまま部屋を出る。

 そうして部屋に残された俺はベッドに潜り込む……その前に、改めてミリアに連絡をするべく手紙を書くのだった。

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