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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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方向は予想外



 緊急事態だ、と思える程のものではない。

 何というか命にかかわりそうな感じではなかった。


 だからこそ俺もまずは図書館の中をもう一度ぐるりと巡ってみてカイを探した。

 けれど見つからなかったので、念の為受付へ足を運ぶ。


 割といつも図書館にいるから受付に行けば気軽に呼び出してもらえるようになってる、と異種族を学んでいて話を聞きたいと言っていた時点でのカイはそんな事を話していたし、もし呼び出してもいない場合であったとしても、また図書館にカイが戻ってきた時に俺が呼んでいたと伝えてもらう事くらいはできる。


 そうして受付で俺はカイについて問い合わせたわけだが。


「……えぇと、そういった方は、いなかったかと……」


 受付の人にめっちゃ困った顔でそう言われた。


 えぇ……話が違うんだが?

 受付曰く、確かにしょっちゅう図書館に入り浸ってる人はそれなりにいるのだとか。

 そういった中には例えば食事を忘れて本を読みふける者もいて、迎えが来た際に呼び出す事もしていないわけではないらしい。

 あとは談話室などでちょっとした話し合いだとかをしているうちに白熱して時間を忘れるタイプを呼び出したりだとか。


 まぁ確かに本を読むだとか、研究の際の話で白熱して時間を忘れるだとか、何かに集中しすぎてしまう奴は一定数いる。それもあっての呼び出しシステムは確かにあるし、呼び出す事は問題ない。

 けれど、普段から割とそういう呼び出される人物というのは限られてくるのだ。

 図書館を利用する常連は大量にいる。

 その中で更に呼び出しも常連になってる者もそれなりにいる。


 けれど、カイ、という名の人物はその中にいないそうだ。

 初めて利用して迷子になってしまったから一緒に来た人を呼び出してもらう、なんて使い方もあるにはあるので念の為それで呼びだしてもらったものの、しばらく待ってもカイが受付に姿を現す事もなかった。


 もしかしたら入れ違いにでもなって、今は図書館の中にいないのかもしれない。

 そう言って俺は受付に礼を言って図書館を出たわけだが。


 ……となると、カイはどこに行ったんだろうか。

 ただの人間なら魔術で転移はできるはずもない。魔法を使った? いやまさか。


 人間以外の種族の可能性だとか、それ以外の何か特殊な事情だとかあれこれ考えてみたが、いまいちピンとこない。


 考えたところでこれだ! って感じのわかりやすい答えが出るわけでもない。

 とりあえず……遅くなったけど昼飯でも食べるか、と気持ちを切り替える事にする。


 図書館が目立っているヴェルンではあるが、一応人が多い分飲食店もそれなりに存在している。

 学者気質な連中ばかりだと「食事? そんな暇があるなら研究に時間を費やす」だとか言いそうなのも一定数いそうだが、そうやって食事を疎かにした結果倒れた、なんて話は既にそれなりにあるらしい。

 まぁ、だから図書館に呼び出しシステムなんてのもできたんだろうなとは思う。


 バランス栄養食とか出回ってそうな街だけど、店を見たところ意外とそういう物は置いていないようだ。

 あったら絶対本読みながら食べる奴出てくるだろうなってわかってるから売っていないだけかもしれない。


 何となく気になった店に入って、そこで注文する。

 昼のピークも過ぎたばかりなのか、どの店もそう混雑していなかったのでさくっと席に案内されて特に何かトラブルに見舞われるでもなく食事が運ばれてきて、あ、結構美味いなこれ、とか思いながら食べ終わって。


 さてどうしたものかと考える。


 もう一度図書館に戻るか?

 カイがもし図書館に戻っているような事になっていたら呼び出しで合流はできると思う。

 けれど、戻っている気はしなかった。


 となると……何かストーカーみたいであまり気は進まないんだが、カイの実家を探してみるべきだろうか。

 老夫婦に引き取られたと言っていた。

 既にその人たちはいないと言っていたが、その二人が精霊学を学んでいて、かつ引き取った子が同じく精霊学を表向きとは言え学んでいる、という情報から探し出すのは可能だとは思う。……時間がかかるとは思うけれども。


 しかし流石に同じような境遇の奴がそう何人もいたりはしないだろう。

 学者だとか賢者だとかが集まる街、なんて言われていたとしても、流石にそんな生い立ちの人間がそう大量にいてたまるかという話だし、ましてや既に亡くなった養父母二人が精霊学を学んでいて自分もまた同じ道を進む事にした、なんてドンピシャなのがこれまたやっぱり大量にいてたまるかという話だ。


 両親が学んでいた分野を自分も学びたい、というのはそれなりにある話だとは思う。

 けれどその分野が誰もかれも悉くが精霊学とか流石にないだろう。


 似たような境遇の奴がいたとしても、多分そんな多くはない、はず。

 こういった事はハンスの方がよっぽど得意なんだが、そのハンスを待ってる間なわけで。そうなるとやるのは当然自分という事になる。


 ……カイの事を気にせず探さない、という選択肢もあるにはあるんだが、カイがいきなりいなくなった時に一緒にいたの俺だしな……

 もし何かあって後々事件になったりした時の第一容疑者俺、ってなるとそれも困る。

 いや、現時点で既に事件になりかけてて容疑者になってる可能性も否めないんだけれども。


 最悪の事態になんてどう転んでもなる時はなるけど、何もしないまま何にもわからないんです、で済めばいいがもしそうじゃなかったらある程度事情を把握しておかないと俺も詰む可能性はある。

 いや、何も知らないままの方がいい場合もあるんだけども……


 探すにしてもあちこちに聞き込みは流石に大変なので、まずはこのヴェルンの街にいる組織の連中に会いに行く事にした。たまに人材の入れ替わりはあるが、この街を拠点にしている組織の面々は大半が長い事ここに住んでいる。調べ物をするにしても、図書館を利用する事もあるようだし、そうなれば昨日今日来たばっかの新人よりもどこに何の本があって、とかある程度詳しい奴の方が調べ物には向いてたりするしな。



 ――というわけで早速この街の組織の連中が拠点にしてる所に行ってきたわけだが。

 結果としては芳しくない。

 一見すれば狐の獣人に見えなくもないがその実妖狐族だという、これまたこの街で暮らし始めて数十年、みたいな長命種族がいたのでそっちに問い合わせてみたものの、そんな人、いたかなぁ? の一言で終了しかけた。


 どうにかもうちょっと頑張って思い出してもらえないかとカイについての特徴だとか、あれこれ話した結果何となく思い当たるものがあったようなのだが、それが本当にカイかと言われれば謎が残る。


「確かにそういう人、いたような気はするんだけど……でもそれ、かなり前の話だよ? あたしもここに来た時にそういやそんな坊やに声をかけられた覚えはあるけど……ヴェルンに来たばかりの頃だしそうだとしたら今頃その子だってもうとっくにいい年だろうさ。

 息子だとか孫の可能性もあるけど、外見的特徴からしてあたしの知るその子と同じっぽいわなぁ……んー、異種族ならあたしやあんたと同じように今も外見年齢そう変わらず生きててもおかしかないけど、確かあの子人間って言ってたから……」


 んん? と唸りながらも首を傾げ、どういう事? と逆に聞かれる。

 いや、知りたいのはこっちなんだが……


「あぁ、それこの街の怪談じゃな。ここができた当初はなかったが、百年かそれよりちょっと前、くらいにちらほら出てきたやつじゃ」

「怪談……?」

「えっ、あれそうなの!? なぁんだ、全然気づかなかったわー」


 妖狐と同じく首を捻りかけていたら、話が聞こえていたらしくヴェルンができてからというものずっとここに居を構えていたという一番の古株がさらりと告げてきた。

 老人のような口調ではあるものの、見た目は若い。

 種族はダークエルフだが、本来褐色肌が多いダークエルフであるはずなのに引きこもっていたせいか俺が知ってる他のダークエルフと比べて肌の色は大分白い方なのだろう。ちょっと日に焼けたかな? みたいなほんのり加減だ。


「まさかお前さんも出くわしたか……で、何でそれを気にしてる?」

「いや、俺の質問が悪かったのか、唐突に消えたから」

「消えた? はぁ~、それは初耳。ま、色々と知りたい感じの好奇心旺盛な幽霊みたいなものだし、害はそうなかったはずじゃ。放っといても大丈夫じゃろうて」


 あっさりと言われ、ダークエルフは届けられたらしい連絡書を妖狐のいる机の上にドンと置いた。

 それを見てうわぁ、と言いたげな顔をしている妖狐だが、ダークエルフは手伝うつもりはさらさらないらしく、頑張れ! とだけ伝えて親指立てて白々しくも見える笑みを浮かべて去っていった。


 ……何かの事件ではない。

 なら、いいんだけど。

 なんだろう、この、釈然としない気持ち……


 いや、事件に巻き込まれたとかでないならそれでいいじゃないかとも思うんだけど。

 それとこれとは別っていうか……みたいなもやっとした感覚。


 とりあえずこれ以上長居するといくつかの報告書片付けるの手伝って! とか言われそうな気がしたので、早々に立ち去る事にする。


 カイの一件はこの街に昔からいる幽霊で、それに化かされた、の一言で終わればまぁ、ちょっとどうかと思いつつもそれで終わるはずだった。

 事件が起きたのは翌日の事だ。

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