それでも平均年齢は100オーバー
旅の仲間が増えた。
ゲームでいうならあれかな、序盤の仲間がそろった感じがするな。
そもそも仲間が何人編成かわからんけど。でも二人より三人の方が何かこう、ある程度地盤が固まった感はある。
第一印象は正直ちょっと難有りな感じするけど、ゲームとか漫画ならよくある展開だと思う事にする。
あまりにも態度が酷いようならどっかでお別れしよう。相手が一緒に行動するとか言ってようとそんな事は知らん。
ところで俺、前世成分多めに出てから自分の事はこうして俺って言ってるけど、いざさっきみたいに口に出した時は何の違和感もなく自然と僕って出たんだよな。
どうやら昔から自分の事は僕と言っていたらしい。
……うぅん、まぁ、見た目的に俺でも僕でもどっちでもいいけど、女装してる時に私、とか言ってても何かの拍子にうっかりぽろりする可能性を考えると僕の方が無難ではある。
女性で俺っていうようなのはもっとこう、男勝りなイメージだし。実際に二次元のキャラで俺っていう女性キャラは大体男勝り。見た目大和撫子みたいなキャラが俺って言ってるのって見た目美少女だけど男ですみたいなパターンは知ってるけど、見た目通りの性別でそういうのは覚えがない。
女の子でボク、って言ってるキャラは結構いるので、いざという時にうっかりぽろりしても無難だろうから口から出る時は僕で問題ないだろう。今からわざわざ矯正する必要性はないな。判断基準が二次元っていうのもどうかしてるとは思うけど。
ともあれ、新しく仲間に加わったルフト君です。
最初に思ったのは彼も軍服なんだねぇ、っていうか白だと汚れ目立たない? である。
あと目元を隠すような仮面つけてるから顔立ちまではわからないけどこれ外しても絶対顔整ってるやつでしょお約束パターンだよね。
仮に怪我をしていてそれを隠しているとかでも、外したら外したでやっぱり美形じゃないかパターンな予感。
素顔に興味はあるけれど、本人が隠してるなら無理強いはしないようにしておこう。流石に自分から外したのを見るとかならまだしも無理矢理はどうかと思う。
身長は俺より低いけどそれでも多分百五十後半くらいはあると思う。声からしてまだ若いみたいだし、きっとこれから伸びるに違いない。仮面の事も背丈の事も多分コンプレックスの可能性が高いから触れないようにしておこう。俺は正直人様の地雷原の上でタップダンスを踊る趣味は持ち合わせていないからな。ははは。
しかしだ。
ケーネス村に行けっていう指示は出たけどそこで何があるかはさっぱりだし、一緒に行動しろっていう指示が出されたルフトもやっぱりケーネス村行きって事になるわけなんだよね?
人数増強してまで行けってこと? 記憶にある限りケーネス村ってそんな物騒な場所じゃなかったはずなんだけど。今の今まで行った事はないけれど、それでも噂で聞く限りあの村は畑の多い村って話だ。作物を荒らしにくる獣とかそういう対策でたまに冒険者みたいなのを依頼で雇ったりするとは聞いたけど、それ以外で何か特筆すべき事があるかと問われれば多分なかったはずだ。
だというのにここで三人に増えた状態で行けって言われるとそれはそれで……ゲームだったら何かイベント発生してボス戦あたり待ち構えてそうな展開になりそうだな。え、もしかして今のフラグだった?
いや、仮にボス戦みたいなのがあったとしても、ゲームならまだ序盤だ。大丈夫、まだ絶望するような状況じゃない。
……やめよう。考えれば考えるだけフラグが積み重なっていく気がする。余計な事は考えず、とにかく行ってみよう。行けばわかるさ。
昼夜を問わずぶっ通しで移動すればすぐ着くとは思うけど、そんな強行軍をするつもりもない。
普通に進めば多分途中で一回野宿する事になるとは思うが、まぁ大丈夫だろう。
わざわざ街道で待ち構えてたくらいだし、多分ルフトはもう旅の準備も済んでいる事だろう。一応確認してみようかと思ったらハンスが先んじて問いかけてくれた。
それに対して荷物は既にあると言っていたので、俺と同じようにどっかに収納してるんだろう。見た目はそういった荷物も何もないとても身軽な感じだけど。
じゃあ一度引き返す必要もないなって事でそのままケーネス村へ行く事にする。
道中は概ね平和だった。
そもそも街道など人がよく通るであろう場所に魔物は滅多に出てこない。出るのは盗賊とか野盗とか人がいる事を知っていてあえてそれを狙いに来るような連中ではあるが、それだって毎回必ず出るわけじゃない。
一応警戒はするけれど、その警戒も大体は無駄に終わる事の方が多い。
沈黙に耐え切れなくなったハンスがたまに会話を振ってくるが、ハンスがこちらに会話を振ってくる事はそう多いものでもない。何せ聞きたい事はきっともう随分前に質問しきっただろうし。それに律義に答えてやった覚えはないが。
一応歩み寄ろうというつもりなのか、単にこれからしばらく共に行動するならある程度の理解は必要だと思ったからか、ハンスが話しかけているのはもっぱらルフトだ。
とはいえ彼、ハンスに対してはあまりいい感情持ってなさそうだし、質問されても答えるのは半々だ。ハンスも多分この辺までは当り障りのない質問だろうと思って口にしたものばかりだと思うのだが、中には答えにくいのか答えたくないものがあったのだろう。
それ、お前に言う必要あるか?
なんて返されるものもいくつかあった。
とりあえずハンスとルフトの会話からわかった事は微々たるものだ。
俺と同じように耳が尖ってるからエルフかと思ったが、実際はハーフエルフとの事。
ま、言われてみると俺よりは耳短いし先が尖ってるっていってもよく見るとそう、みたいな感じだもんな。エルフじゃなくて別の種族ですって言われる可能性もあったわけだ。
会話の雰囲気からルフトがハンスにあまりいい感情を持ってないのは多分ハンスが人間だからだろうか。
いやでも、何か俺の方にもあまりいい感情持ってなさそう。
俺自身は前世が人間だったから今エルフになってても、別に他の種族を見下すとかそういう感情は一切ないんだけど、他のエルフは割と自分たち以外の種族とか受け入れたくない、みたいな排他的な部分あるからな……ルフトがハーフエルフだというのであれば、住んでる地域によってはとても苦労した可能性もある。
父母どっちがエルフかにもよるけど、多分里からは出ていく事になりそうだし、そうなると人里で暮らす事になる。エルフが珍しい地域なら変に注目を集めるだろうし、伴侶は好きだけどそれ以外の別種族は話が別だ、みたいなエルフのストレスがとんでもない事になってそう。
いや、それでも駆け落ちみたいな感じで両親そろってればまだいい。
場合によっては異種族とそのこどもだけ追放してエルフの方は里から二度と出るなとか言われるパターンもある。
この場合は母親がエルフだった場合が多いとは聞くけど……そうなるとお父さんが一人でエルフとの間に生まれた子を育てるわけで、それはそれでまた大変そうだなと。好きな相手の子であっても種族間の違いはそれなりにあるから……
なんだろうなぁ、もしかしたらルフトはそういう周囲に色々と翻弄されてきた側でだからこそあまり人間やエルフにいい感情持ってないのかもしれないなー……とは思ったけど、じゃあその指示書に従わないって選択もあったのでは、と思わなくもない。
口調や態度は刺々しいけど、でも一応答えられる範囲でハンスの質問に答えてくれるあたり、そう悪い奴ではないんだろう。さっき言った歩み寄る姿勢を見せろ、っていうのがあるからかもしれないけど。
「い、いい加減にしろ! ボクの事ばかり聞くな! そっちはどうなんだそっちは!!」
「おっとー、そういやそうね。ちょっといきなり踏み込み過ぎたわね。おじさん失敗」
てへ、とか言ってるが正直可愛くない。おっさんのてへ、はむしろ殺意しか湧かんと思う。
まぁ本気でやってるわけじゃなくて、冗談っぽくやってるだけまだマシな気がするが……
ともあれ、自分ばかりが質問攻めにあっている事に不服だと態度にだしたルフトは、そっちはどうなんだそっちは、と問いかけてきた。
「そっち?」
「腰ぎ……じゃなかった、ハンス、お前ルーカスとは長い付き合いとか言ってたけど、実際どれくらいなんだよ」
「そうだなぁ……大体二十年ちょっとは経過してるはずだけど」
「思ってたより長いな!? ボクが生まれる前からか!?」
「えっ、ルフトくんて……ちょっと待ってお年はおいくつなの?」
「先日十五になった」
その言葉に、俺は思わず足を止めてしまっていた。
えっ、十五?
「それは、エルフ基準で、の十五じゃなく?」
「普通に生まれてからの年数だ」
あまりにも普通の口調で言われてしまい、俺としてはつい後ろを振り返ってしまっていた。
ハーフエルフだから完全にエルフと同じ扱いにはならないけど、それにしたって若すぎないか!?
エルフならまだその年齢赤ちゃん扱いも同然だぞ? 親は一体何をしている。
半分はエルフじゃないから、その半分がどういう種族かにもよるけど、人間ならまぁ、見た目通りの年齢ですねってなるだろう。でもやっぱり十五って前世だったらまだギリ義務教育受けてる年齢だよな……高校受験とかで大変な年齢か? だとしたらやっぱり親は何をしているんだ。親ももしかして同じ組織に所属してるとかか? でもだったらせめて俺らとじゃなくて親とか知り合いと組ませろよとは思うわけだが。
社会勉強にしたって色々すっ飛ばしすぎなのでは。
エルフと同じく長寿系の種族がもう半分だった場合でもやっぱりまだバブちゃん扱いだと思うんだよなぁどう考えても……親は一体何をしているというんだ……育児放棄か? いやルフトはもう乳飲み子ってわけじゃないから赤ん坊扱いもいかがなものかと思うけど。でもさぁ~、種族的に考えてこんな物騒な組織に所属させてあれこれ働かせていい年齢じゃないんだよな~。
まぁハンスも当時は似たような感じだったけど。でも他に行く場所ないとか言われてついてきたのを追い払うのも酷じゃん? 割と放置してた自覚あるけど。
俺が足を止めた事でハンスもルフトも同じように立ち止まっている。
それをどう勘違いしたのだろう。
「日が傾いてきましたね。今日はこの辺りで野宿ですか?」
いや違うよ、違うんだけどさぁ……あ、野宿はするけど。
という言葉は生憎と出てはこなかった。
正直野宿にはまだちょっと早いような気がするけど、こんな状態で移動するにしてもちょっとだけ移動して野宿の準備をするくらいなら、もういっそここで野宿でいいような気がしてきた。
なんだろ……ルフトって実はとんでもなく重たい過去の持ち主だったりする……?
ハンスも踏み込みすぎちゃったかしら、とか言ってるし、確かに色々聞き過ぎた感はあった。
ってか十五歳? えっ、正直ちょっと歳離れすぎてどういう態度で接すればいいんだこれ……前世だったらとりあえず今ハマってるものとか聞いてそっから話題広げられない事もないけどこの世界でそれはちょっと難しすぎる気が。
まって、今ちょっと恐ろしい考えが浮かんでしまったんだが、ルフトがつけてる仮面、あれ単なるおしゃれとかだったらどうしよう。年齢的にも中二病とか発症してないとは言い切れない……いや、それ以前に異世界に中二病は存在するのか……無いって断言できそうにないあたり地味に怖い話だと思う。