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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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お前駆け引きとか向いてないと思うぞ



 とりあえずカイにはエルフの里に行くにしても比較的友好的な所にしておけ、と説き伏せた。いや、別にこいつが危険な場所にホイホイ出かけていくのは自己責任だけれど、うっかりこいつに雇われた護衛が万一異種族は敵だ、みたいに認識してる里に行く羽目になったら流石に雇われた護衛がかわいそうすぎる。

 危険を承知で行くのと、何も知らずに足を運ぶのとでは大きな差がある。

 魔物の巣に行くってわかってたら事前準備を怠らないけど、人の暮らしている集落に行く、じゃまさかそこが自分たちを殺そうと考えてる連中ばかりだなんて思うはずもない。最初から事前にそこ危険な場所なんですよ、って言われてたらともかく、マトモな神経してたらそんな危険な場所に行く事を決める奴はそういない。


 報酬が余程破格だとか、何かどうしてもそこに行かなきゃいけない理由や事情があるならともかく、普通の護衛任務だと思っているなら大抵の連中は引き受けない。

 俺も最初から危険度合いとか諸々込みで説明された上でってんならともかく、そうじゃなかったら依頼者見捨てる案件だわ。危険な場所にどうしても行かなきゃいけない理由があって、自分で力を貸そうとか思ってるならともかく騙し討ちみたいな事されて危険な場所に連れていかれたらそりゃ見捨てる。


 確かに引きこもって他の種族との交流もしないような所って何かその土地ならではの昔の伝承とかも結構残ってたりする事あるけれども。

 というか大昔の伝承に則って生活してたりとかもあるけど。時代に取り残されてるどころじゃない。

 けどそういう所は外からの客もある程度そこのルールに則らないといけないので、場合によっては外からやってきた来訪者も油断できないとかなんだよな……外から来たなら何も知らないだろうから、最低限こういった事をする事、こういった事はやってはいけない、みたいに事前に説明されたりすることもあるけど、それでもやらかす奴は出るわけで。


「別に俺としては、お前がやらかした結果死ぬのは構わんが、お前以外の誰かを巻き込まないと言えるか?」

「……それは、無理、ですかね。魔物とでくわしたらどうしようもないし」

「あと、学びたいというその気持ちは構わんが、そういった場所に行って本当に決まりを守れるか?」


 俺の問いにカイは返事をしなかった。

 だろうな。


 ついさっきだってルフト相手にちょっとだけでいいんでお話を! とかごり押しで頼んでいたくらいだ。

 自分の知識欲だとか好奇心だとか探求心だとか、ともあれそういったものを満たすという欲は多分そこそこ強い。そんなこいつがもし仮に、そういった里に足を運んだとして。

 大人しく里の決まりをきっちり守れるかというのは正直ちょっと……


 例えば夜は外に出てはいけない、なんて掟があったとしよう。


 多分こいつは夜に外に出る。


 外に出てはいけない、とかいう決まりがある里はいくつかあるが、全部が全部同じ理由でというわけではない。

 比較的危険度の少ない里もあれば、その決まりを破ってしまったばっかりに死ぬとかいうところもある。

 最初に危険度の少ない里で禁を破り、なぁんだ大した事ないじゃん、とかで他の里でやらかして死ぬとかいう事も……ないわけじゃない。

 いやまぁ、死んでもそれ自業自得なんだけどな?


「場合によっては命にかかわる」


 学ぶために危険を冒して結果死ぬとか、それは果たして意味があるのだろうか。

 死んだらそこでおしまいなわけで。自分の命をかけてでも、それだけの価値って果たしてあるか? って考えて、その上で死んでも価値があると思えるなら止めるつもりもない。


「ちなみにエルフの里ではないが、他の種族の里でやってはいけない、という事をした結果、四肢を切り落とされて壺に入れられて塩漬けにされた、なんて目に遭った奴がいてな。

 どの種族とは言わんが」

「えっ、何でそこ言わないんですか。教えてくださいよ」

「言ったらその種族に近づかないとかならまだしも、お前嬉々として確認しに突撃しそうだから」

「そ……んな事はないですよ!?」

「声裏返ってるぞ」


 やっぱこいつ命知らず野郎なんじゃないだろうか。


 ちなみに里で決まりを破らなければ問題のない種族なので、外で普通に出会う分にはとても気のいい連中なんだ。里に足を踏み入れなければ問題は何もない。

 ……問題が出るとしたら、その種族と結婚しようとか考える他の種族とかなんだよな。まぁ、その時はその時ってやつか。


「というかだ、お前、異種族について学んでるって言ってたが具体的にどれくらいの種族について知ってるんだ?」


 なんというか、このやってはいけませんよ的な話を聞いて尚やらかしそう、とか思える時点でもしかしてこいつあまり他の異種族についてとか知らないんじゃないか? と思えて来る。

 確かに種族ごとにやっていい事悪い事みたいなのはあるし、そういうのを学んでなるべく異種族同士での軋轢をなくしたい、とか考えるのはいい。

 けどなんかこいつ、さっきからあえて地雷に突入しようみたいな感じがしてるんだよな。

 どこまでなら大丈夫で、どこからなら危険なのか、とかいうギリギリを攻めてるように思えてくる。


 ある程度他の異種族と関わる事が多くなればわかってくることもあるけれど、そうじゃなかったらなるべく当たり障りのない対応をとる事が多い。何故ってその方が無難だからだ。

 まぁ生まれてからずっと同じところに住んでる、とかだと最初からそこに住んでる異種族と関わるか、後は外から移住、もしくは一時的に立ち寄ったようなのと関わるかどうか……くらいだからそんなに気にする事でもないんだけどな。

 ただ、カイはいつか自分の足で……みたいに考えてるようなので生涯住んでる所から出るつもりのない奴と同じというわけにもいかない。


 一応ヴェルンは結構異種族を見かけるのでそういうところからもそれなりに話は聞けるだろうとは思うのだけど……


 カイの口から出た異種族の数は、予想通りというべきかあまり多いとは言えなかった。

 知ってるだけならもっと口に出せるかもしれないが、種族のほかにある程度の知識があるとなるとぐっと減る。


 あれだ、知ってる野菜の数はあっても実際食べた事のある野菜はってなると思ってたより偏ってたみたいな。

 思えば俺もパクチーとか聞いた事あっても食べた事はなかったんだよな……ロマネスコとか、プンタレッラとか。


「少ないな、って顔してますね。おれもそうだろうなってわかってるんですけど」

「あ、あぁ、正直それなりに周囲と交流できていれば、このヴェルンならもうちょっと他の種族の情報も得られそうだなと」


 正直カイの口から出た種族の数は、ヴェルンで暮らしている異種族の半分どころか三分の一以下だろう。

 ヴェルンの街に来て間もない俺ですら、ちょっと宿から図書館まで行く道程で結構な数の異種族を見かけている。俺が把握している数もきっと一部でしかないだろうけれど、その一部と同じくらいしかカイの口からは出てこなかった。


 学者とか自分の興味のある事しか学びたくない、みたいなのもいるし、そういう奴って大体他者との会話はあまり得意じゃないとかいうのもそれなりにいるんだけど、カイの場合は人見知りとかではないし気になったらぐいぐい行ってるっぽいし、もっと知り合いとかいてもおかしくないし、そういうところからある程度情報を得てそうなんだけどな……しつこすぎて嫌われたパターンか?

 本人が聞けば流石にちょっとくらいは怒りそうな気もするが、さっきのルフトに纏わりついてたのを思い出すと別にそこまで失礼な妄想でもないなと思ってしまう。


 ……というか。

 異種族について学んでいる、とは言っていた。

 そして今口に出された種族。


「……カイ、お前もしかして、異種族についてというよりは別の事を調べていないか?」


 俺がそう問いかけると、カイは一瞬目を見開いて……それから露骨に視線をそらした。

 誤魔化そうにも露骨すぎて誤魔化される奴いないだろ……


「どうして、そう思ったんですか?」

「お前が口にした種族の名前だな。人に対して友好的な奴ばかりかと思いきや、そうじゃないのも混じってる。そういう意味では満遍なく学ぼうとした結果、と言えるかもしれないが……お前が口に出した種族のほとんどが魔法の得意な種族ばかりだ」

 俺、っていうかエルフ含めてな。

 そう付け加えれば、カイの口元に笑みが浮かぶ。

 楽しくて仕方ない、というよりは自嘲めいたものだった。


「いや、まさか会って二日で気付かれるとは思ってませんでしたよ。そんなにわかりやすかったですかね?」

「わかりやすいっていうか、ルフトに纏わりついてたから、だな。そんだけしつこく接触しようと頑張る割に、他にもっと友好的な種族については出てこなかったから。そういうのを後回しにしようとした、というよりは元から興味の外、みたいな気がした」


 何せルフトに纏わりついていたアレを見た限りでは、ちょっと断られたくらいじゃめげもしていないくらいだ。それだけのガッツがあるならもっと他の種族についても今まで情報を得ていただろうと思えるし、友好的な奴はさっさと話を聞いていそうだなとも思えたわけだ。普段から割と図書館にいる、とか言ってたところから、ある程度目ぼしい本はもう読み終わってると考えていい。であれば後は話を聞かせてくれそうな相手に声をかけたりだとかをしていてもおかしくはない。

 その割にカイの口から出てきた種族の数が少ない、となれば……穿った見方をしてしまうのも仕方ないと思うんだよな。


「まぁ、ここで下手に誤魔化しても今更だろうから正直に言いますね。

 おれが実際に学んでいるのは精霊学です」

「ふーん」


 ……いや、正直それ以外どう相槌を打てば良かったのだろうか。もったいぶるほどのものではないよな、っていうのが割と本心からの感想だったりする。

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