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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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思い出剥離



 正確にはルフトはハーフエルフで完全な純血のエルフというわけではないのだが、まぁそんなもん知ったこっちゃないわな。

 というかだ、いくら学ぶためとはいえその執着っぷりはどうだろうか。


 俺はさておき、ルフトは場合によっては性別を変えてディエリヴァとなる事もできる。もし、もしその状態でカイに迫られていたとしたら。

 ……うん、その場合カイに付き合って暇をつぶそうとは考えなかったかもしれないな。


 なんていうか、しつこいナンパを見ている気分になった。

 相手が女性だったらエロ同人みたいな目に遭わせるつもりでしょう!? とか何か前世でたまに見たネタフレーズみたいな気持ちを抱いたとしてもおかしくはない……ような気がする。


 俺とカイがお互い知ってるみたいな雰囲気を出した事でルフトもあぁ昨日言ってた……と理解したらしい。とはいえ今までしつこく纏わりつかれていたのだろう。一緒に協力しようとかそういう様子は一切ない。まぁ、そりゃそうだろうと思うけども。


 俺だって気が向いたってのがあったからであって、例えば昨日の時点でいきなりこっちの予定も何も気にする様子もなく自分の都合だけを押し付けるような真似をされていたら間違いなく暇潰しに話くらいは、とか思うはずもない。


 ちなみにルフトはそこそこの時間カイに纏わりつかれていたらしく、とてもうんざりした様子で立ち去っていった。もうこれ以上一秒でも関わりたくないという態度。気持ちはわかる。


 最初は本棚の近くで本を手に読んでいたらしいのだが、その時点で目をつけたカイが小声で話しかけてきたらしい。とはいえ、ルフトの中では見知らぬ誰かのためにわざわざ時間を割こう、と思えずむしろ今読んでる本の続きが気になるからと最初に同じように小声で断ってそこから先は無視していたらしいのだが、それでも熱心にされる勧誘。あまりの鬱陶しさに怒鳴りつけたい衝動にかられたものの、そこで叫べばお静かに、なんて言われるのはルフトだ。原因がいるのに怒られるのは自分、という理不尽に見舞われるのが目に見えてわかりきっていたのもあって、振り切ろうとして談話室へと入ったのだとか。

 いやそれ、悪手では。

 熱意が通じた! とばかりについてきたカイが早速話しかけようとしていたものの、ルフトは先程と同じように断ったのだそうだ。小声だったから聞こえてなかった可能性も一応は考えていたらしい。

 けれどもめげないカイに、とうとうこいつと会話通じないなと思ったらしく、また場所を移動してもついてくるのが目に見えているので諦めて談話室で本を読んでいた、と。


 ルフトが立ち去る前に大まかに聞いた内容は、概ね俺が想像していたのと変わらなかった。

 多分あともうちょっと粘っていたら肉体言語でお話、なんて事になっていたかもしれない。


 ルフトと俺は顔立ちが似てるから、身内だろうとあたりを付けられたのだろう、とはわかる。俺が一応協力する姿勢をみせていたから、きっと彼も大丈夫だろうと思っていた、とは一応注意と警告をふんだんに伝えた後のカイの言だ。


 いや、俺はそれこそ前世とかで読書とかそこそこしたし娯楽もあったからこの図書館で一杯本を読むぞー! とまではいかなかったから暇潰しに関わってもいいかな、と思っただけでルフトは違う。

 生まれた時点で帝国のというかクロムートの監視があった状態で、いくら最初はルーナがいたとはいえのびのびと育っていたとはちょっと言い難い。

 多分俺と比べて圧倒的に娯楽に触れる機会はなかったんじゃないだろうか。

 帝国を出た後だってのんびりしている余裕はあまりなかっただろうし。俺たちと合流した後だって、ちょっとした娯楽があったとも言い難い。


 そう考えるとルフトには今まで苦労させてたなと思う。いや、ホント、何かごめんな? って気持ちになってきた。

 せめてここに滞在している間は気になった本とかいっぱい読んでってほしい。

 俺が前世の娯楽のいくつかを再現できればいいんだが、生憎無理だ。漫画とか魔法で出そうにも、その内容を精霊に正確に伝えられる気がしない。

 大体前世の記憶思い出したって言ってももう転生して三百年経過してるんだぞ。前世で読んだ漫画の内容だって大雑把に覚えてても細かい部分は忘れてるし、そんなのを漫画で再現したとしてまず間違いなくどっかの伏線とか忘れてたり、後の重要なフラグとかもすっぽ抜けてる気しかしない。


 どう考えても不完全な状態で魔法で具現化したとして、面白さが半減どころか完全に死んでると断言できる。自分が好きな漫画とか布教しようにもこれじゃ布教にもならない。どころか自分でその作品下げてるような事になってるとか、考えたらとんでもない事だよな。

 好きな漫画が実写化! とかそういうニュースを見た時の気持ちになりかねない。あれは諸刃の剣。それもどっちかっていうと限りなく自分が傷つく割合が多い感じで。


 ともあれ、ルフトが自分から関わろうという気がないのであればこっちだってそれを汲むつもりだ。


 ……一応ルーナとも話してあったけど、ルアハ族の名は一切出さないようにしないとな……

 エルフだって別にそこまで珍しいはずじゃないけど、それでこれだ。

 単純にカイがエルフという種族に何か並々ならぬ情熱があるならともかく、自分的にあまり話を聞く機会がなかった種族、という意味で纏わりついているのであれば、自分が知らない希少な種族の話なんてしたらそれこそどんな粘着をされる事か……



「なんというか、その、ご迷惑をおかけしました……」

「あぁ、本人の了承をとってるならともかく、とれないからってとれるまで粘ろうとするのもどうかと思う」


 一応ルフトが立ち去った後でカイにもあんましつこくすんな、を破れかけたオブラートに包みつつ述べたところ、カイもそれなりに反省した様子ではある。表向きは。

 ここが図書館だからまだしも外だったらどうなっていたことやら。

 己の知識欲を満たそうと暴走する学者っぽい連中はきっと他にもいるだろうとは思うけれど、それだって周囲に被害が出るようであれば場合によってはお縄コースだ。


 まぁカイの場合はここで俺の機嫌を損ねたままだと協力関係が破綻するとかそういうのも考えてるんだろうなとは思う。けれどもそれでも一応嫌がる相手に無理矢理絡んでいくような事はしばらくはやらかさないだろう。


 さっきまでルフトが使っていた談話室をそのまま俺たちが使用して、説教というか警告というかな事を述べた後は、こちらもカイに協力するべくエルフに関しての話をしていく事となった。

 っていっても、本当に話題少ないんだけどな。


 問われた内容の中には、集落について、なんてのもあった。とはいえ大っぴらに外からの旅人を受け入れている集落であればまだしも、そうじゃない所の話はするつもりがない。

 念の為そう言えばカイは若干不服そうではあったものの、知られたくないって言ってる相手の住所を公開するとか流石に問題しかないので何をどう言われてもそこは諦めてもらうしかない。

 外からの客を受け入れるつもりがある集落の場所に関しては話せるけれど、そっちで満足しておくべきだと思う。


 いつかここを出てそういう場所へ行く予定があるのであれば、尚更。

 よそ者は立ち去れ、とか言うような排他的な集落に行ったとしても、カイが望むような情報は得られないと思うし、あまりにもしつこく付きまとうような事になればそれこそこのヴェルンの街と違ってカイを守ってくれるような相手がいないのであればそこで始末、なんて可能性も普通にある。

 自分と同じ種族以外の存在を受け入れない排他的なタイプってのはそこそこいるわけだし。


 カイ曰く、そういった所の方が代々伝わる伝承とかそういうの一杯ありそうなんで、との事だが。

 知識を得るために命を危険に晒すってのもどうかと思うんだ。

 いや、これカイが自分の身は自分で守れますってハッキリ言える程度に実力があるようならまだしも、多分こいつに戦闘能力とかそういったものはないだろう。


 本を持って移動したりする、とかで体力とか多少あるとは思うけれど、カイが動く時の様子を見る限りなんかあったら逃げる、を主流にしてそうなやつだ。

 体幹とか身体の重心の移動のさせかたとか、戦える人間のそれとは違ってそういうの一切できませんよっていう一般市民と大差ない。


 そんな状況で、排他的な集落に行ってみようとか……自殺行為か?

 護衛を雇って行くにしても、護衛だって道中の魔物とか賊に関してはどうにかしてくれるとは思うけど、あえて自分たちにいい感情を持ってない相手の所へ、なんて最悪見捨てて逃げられるのではないだろうか。


 何だか思ってる以上にこいつ死に急ぎ野郎なのでは……俺がそう思うのも無理はなかった。

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