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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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何とも言えない疑心暗鬼



 カイと別れた後、ルフトと合流し、ルーナとも合流し、お互いにそれぞれ読書に関しては一段落したらしいので一緒に宿に戻る事にした。

 一応貸し出してる本もあるにはあるけど、大半は持ち出し不可だ。こっちの世界じゃ本は一応世間にも出回ってはいるけれど、やはりまだ若干高価な物でもある。


 活版印刷みたいなものがないわけじゃない。だからこそ子ども向けの童話だとか物語だとか、世間に広まっても問題のなさそうな物に関してはそこそこ出回っているけれど、専門書のような物はそうもいかないらしい。

 どこそこの一族が秘伝として残した書物だとか、そういった物はどうにか許可を得て写本のみ置いてる、だとか一般の目に触れさせてはならない書物だとかもある。

 世界中の書物が集まる、と言われているものの、本当に全てがあるわけでもない。物によってはどこぞの王家にのみ保管されてるだとか、どう足掻いても生涯日の目を見ない本もあるだろう。


 読みたい本をめぐっての争いとかもありそうではあるけれど、俺たちは別にどうしてもここの図書館で本を読みたくて、とかいう理由でやって来たわけでもない。大長編の続き物、とかに手を出さなければ読みたいけど途中の巻がなくて……なんて展開もないだろう。


 ちなみに戻る時にルフトは薬草と毒草の見分け方とかいう図鑑を見ていたし、ルーナは読み終わって他の本を探している所だったのかふらふら移動しているところだった。


「ハンスが来るまで、とはいえ、中々に目が疲れそうだな」

「そうだな。明日は別の所を見てみようかと思う」

「ボクはまだ見たい本があったので明日も図書館にいますね」


 ルーナは折角だからと他の場所を見て回る事にしたらしい。

「一人で大丈夫か?」

「荒くれどもが多くいるようなとこならまだしも、この街で女一人でいるからとてそう面倒な事にはならないだろうさ」

「……確かに」


 周囲を見回しても、ガラの悪い男、なんて見た目の奴はまずいない。

 ちょっと人の少ない通りを歩いていたとしても、おぅねえちゃんちょっとつきあえよ、とか言い出して絡んでくるようなのと遭遇する事もなさそうだ。

 そもそも見回りの騎士とか兵士とかそこそこ見かける中でそんな事をすれば、街からたたき出されるかもしれないわけで。


「ルーカス、きみは? 明日からどうするつもりだ?」

「あぁ、暇つぶしに人の勉強に付き合おうかと」


 そう言ってカイの事をざっくりと話す。

 異種族について調べてて、エルフとはあまり出会った事がないらしく色々と話を聞きたいと言われた、と。

 正直俺はエルフの里で暮らしていた期間はとても短いので、エルフの暮らしとかそういうのはあまり……という感じなのだが、その分各地を旅していたので、見かけた他の異種族の話とかそういうものでも多少は役に立つだろう。


「その人は、えぇと」

「顔だけ見れば女にも見えるが男だ」

「……いや、そういう事を聞きたかったわけじゃないけど……いや、うん、まぁ……」


 何だか釈然としない様子でむぅ、と頬を膨らませたが、何だ? 違ったか。

 正直面と向かって夫婦です、というにはまだちょっと壁というか、何と表現していいかわからない何かがあるけれど、世間一般の常識とかで考えればそれでも俺たちは夫婦、なのだろう。自覚があろうとなかろうと。


 俺が何とも思ってなくとも、ルーナからすれば俺が見知らぬ女と二人きり、という状況を考えれば気分がよろしくないだろうなと思ったから一応そう伝えたのだが。

 聞きたかったのはそういう事ではなかったらしい。それでもその反応から半分くらいは正解しているような気もするけど。


「異種族について、を調べて学んでるにしても、流石にルーナやルフトについては話さない方がいいだろう、とは思っている」

「そうしてくれると助かる」


 俺がそう言えばルーナは少なくとも安心したようだった。



 ルアハ族について、あまり知られていないのは本人たちが知られたくないというのもあるからだろう。

 そうでなくともサグラス島の、空間の裏側みたいな所に住んでいるとかいう時点で向こうはあまり積極的に外界と関わるつもりもなさそうだ。

 廃墟群島でちらっとルアハ族についての記述があったけれど、それだって恐らくは外の世界に興味を持った一部のルアハ族がいたからこそ知られたと考えるべきだろう。

 最初から最後まで引きこもっていたのであれば、知られるはずがないのだから。


 もしくは、もっとずっと昔。まだルアハ族が普通にこちら側で生活をしていた頃の話が伝承として残っている可能性もあり得る。とはいえ、数百年か数千年単位で昔の話だろうから、きっと正確な情報として伝わってはいないはずだ。

 それこそ事実がねじ曲がって伝わって、本来とは全然違う何かとなっている可能性だってある。


 群島諸国では一応ルアハ族についてほんの少しだけとはいえ伝わっていた。ルアハ族がいるサグラス島が近くにあるのだから、そりゃルアハ族について知っててもおかしくないだろ、と普通なら考えるけれどルアハ族は普通に島で生活しているわけじゃない。

 それでなくとも群島諸国が廃墟群島になったあたり、それよりも前の時点でルアハ族は引きこもり生活をしているのは確実だ。

 何せ廃墟群島になったあたりでルーナが島を出て外の世界にやって来たのだから。


 ご近所とはいえほとんどマトモな情報が残っていなかった群島諸国。

 サグラス島だってルアハ族が住む土地だという事を知らなかった可能性は大きい。それがたまたま他の土地に残っていたルアハ族についての情報なんかを知って、そこでサグラス島にルアハ族が住んでいるという事を知った可能性もある。


 では、他の土地でルアハ族について少しでも情報が残っていそうな場所はどこだ、と言われればここだ。

 何よりここは廃墟群島からそう遠くない。群島諸国だった頃に、きっとここら辺で暮らしている奴らも群島諸国に足を運んだ可能性はある。何せワイバーンに乗れるのだ。

 好奇心であれ知識を蓄えようという者であれ、普通に暮らしていたらまずお近づきになる事はないと思えるワイバーンに、群島諸国へ行こうとすれば乗れるのだ。

 一部の学者は足を運んだに違いない。貴重な体験をみすみす逃してたまるか、なんてな。


 俺としてもこの図書館にルアハ族に関する情報とかあるんじゃないかなと疑ってはいる。

 とはいえ、あったとしてもそこまで多くの情報はないだろうから、見つけ次第その本をどうこうしよう、みたいな事は考えていないけれど。

 あったとしても多分何か魔法が得意だとかそういう感じの情報くらいしかないんじゃないかなと思わんでもない。詳細が語られていたなら、廃墟群島にあったルアハ族についての記述はもっとがっしりした情報になっているはずだしな……



 異種族に関して学んでいると言っていたカイが、どれくらいの知識を持ってるかもわからないが、流石にルアハ族についてまでは知らないだろうと思いたい。

 そもそもこの世界、異種族とかやたらいるし、昔からどっしり根を下ろすかのように繁栄している種族もいれば細々と続いている種族、何かある日いきなり滅亡した種族、そういや最近見ないけど……なんて感じで気付いたら絶滅してた種族とか、数えたらキリがない感じだし。

 多分ルアハ族に関しても伝承に残ってるけど今はもういないものとして認識されてるはずだ。


 まぁ、彼が本当にただの学者みたいなものであればこちらもあまり気にする事はないだろう。

 問題はそうじゃなかった場合だが……その時は……最悪精霊による記憶消去とかそういう物騒な手段かな……


 来る者拒まず去る者追わず、みたいなとこだしあからさまに何か物騒な事しようって奴からすればやりにくい事この上ない街ではあるけれど、あからさまじゃない悪事とかやろうと思えばやれる場所、でもあるわけで。

 いくら前世の幼馴染に顔がそっくりとはいえ俺だってそれだけで絆されたりするわけじゃない。というか、顔だけ似てても中身は幼馴染とは似ても似つかないんだから、どっちかっていうと何か違和感のが強い。


 ただ、カイがもし俺が懸念しているような相手だった場合、既に関わった俺がどうにかするしかないわけで。


 いや、ホント、何事もなければいいんだけどな。

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