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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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人並みに警戒心はある



 さて、前世の幼馴染によく似た顔の男は自分の名をカイと名乗った。

 それ愛称とかそういうやつじゃなくて? カイの後ろにあと二文字とかそれ以上の文字くっついてくるから省略したとかじゃなくて? と思ったものだが、まぁ別に本名じゃなかったとしてもそこまで気にするものでもないだろう。


 彼は様々な種族について学んでいるらしく、俺がエルフであるというのを目にした瞬間色々と話を聞きたくてわざわざ向かい側の席に座り、声をかけるタイミングを見計らっていたらしい。

 種族について学ぶ、というと悪い方に考えると何か色々と根掘り葉掘り聞かれるのではないか、と身構える者も中にはいるらしいが、カイが学んでいるのは種族による風習だとか習慣だとかだそうだ。

 人間でも住む場所が異なれば風習だとか習慣が違う事はよくある。人間同士ですらそういった差異があれば時として厄介ごとが生じたりするもので、それが異種族となれば知らぬ間に相手の失礼になりえる行為をして命の奪い合いになりかねない、なんて事も困った事に存在している。


 流石にいきなり殺す真似に出たりはしないが、それでもやらかしたら相手から眉間に皺を寄せられたりだとか、念の為その行為はどんな意味が? と問われたりもする。

 それが相手にとってのただの習慣であるようなものだとわかれば相手もそれこっちからすればちょっとアレなんだけど、まぁ悪気があってやったわけじゃないし向こうはそれが普通なわけだしなー、でおさまる事もあるが、ここで相手がわざとやらかした場合は最悪命の奪い合いルート突入だ。


 知らずにやったならまだしも知っててやったなら悪気がなかった、なんて言葉も通用しないしな。


 ヴェルンには人間以外の種族だってそれこそ沢山いるわけなんだが、カイ曰くエルフはあまり見かけないらしい。見かけたとしても話しかけるタイミングが掴めなくて、どうにか話しかけようとしているうちにさっさと街を出ていってしまったりだとか、他の仲間らしき相手と話していたりだとか、そういうのに限って警戒心が高くてだとか、何というかエルフに関しては圧倒的にタイミング悪すぎだろ、と俺も思うような事がそこそこあったようだ。


 ……まぁ、確かに俺以外のエルフって警戒心強いよな、とは思う。

 外の世界が気になって好奇心のみで旅に出るエルフも確かにいるが、そういった奴だって外の世界の憧れを持っていたとしても警戒心まで捨て去ったわけじゃない。むしろ人間種族から見てエルフの容姿は整って見えるというのはエルフ族全体の常識みたいな部分もある。

 勿論全ての人間がエルフの美しさにメロメロになるかっていったらそういうことではないけれど、パッと見て綺麗だなぁと思う人間はそこそこの数いる。


 俺も前世の記憶戻ってから自分の顔見るとわー、びっくりするくらい顔面偏差値高いなー、って思う事多々あるもんな。それ以前だと自分の顔鏡で見ても何とも思ってなかったくせに。


 ともあれ、そうとわかっているからこそ、エルフは一応多少なりとも警戒心を持っている。全員が全員エルフに対して何か危害を及ぼそうとか考えてるわけじゃないって事もわかっているけど、中にはそういう対象として見ている者がいるのも悲しいけれど事実だ。

 そういうのは前世でも似たような話とかあったもんな。エルフ実在してなくても年齢制限有りの漫画とかで。

 年齢制限なくてもそういう風に酷い目に遭ってるエルフが出る漫画とかもあったっけな……

 って考えると、警戒心はあって当然だと思わなくもない。

 人間以外の種族から見るとエルフってそこまで美形だとかいう感じでもなさそうなんだけどな。容姿が整った種族なんて他にもいるし、その種族の一般的美意識から見てエルフはそこまで好みのタイプではない、とかもあるし。


 カイが今まで見かけたエルフの大半が女性であった事もあって、なおの事声がかけにくかった、と聞かされればそりゃそうだろうなぁと思わなくもない。


 とはいえ、俺は確かにエルフだけど正直そこまでエルフについて詳しいかと言われればそうでもないような気がする。感覚がどうしたって人間寄り。

 だからあまり参考にならないかもしれない、と前置きだけはしておいた。それでもカイは全然構わないと食い気味に言ってきたので、じゃあいいか、で俺もいくつかの質問に答えたりした。

 とはいっても本当にさらっとした質問ばかりだった。もっと突っ込んだ事を質問されるのではないか、とも思っていただけに拍子抜けした感じすらある。


 いやまぁ、初っ端からあまり突っ込んだ事聞かれるとそれはそれで警戒されるかもしれない、とカイが考えた可能性もあるとはいえ。


「――それで、質問はもういいのか?」

「えっと、そうですね。はい。ありがとうございます。確かに本にも既に書いてあるような事なんですけど、本当なのかな? っていう疑問もあったので直接確認できたのは大きいです」


 にこ、と微笑んで言うカイの様子から特に他意も何もないんだろうなと窺える。

 いやそれでも、エルフって森に住んでる事多いですけど、主食は果物って本当に本当ですか? とか聞かれたのには困ったけど。

 確かに集落とかで割とよく出されるけど、主食ではない。

 弓矢持って森の中に狩りに出かけたりする事だってあるし、そうして獲ってきた獲物が食卓にでてくる事だって普通にある。あと魚釣ったりだとかな。

 森の中で暮らしているから森の中で得られる食料で生活してるだけであって、決して、決して果物が主食でそれさえあれば問題ないというわけでは……!


 前世の記憶が蘇ってからというもの俺の主食は米だと言っても過言ではない。まぁ米が主食ですっていうエルフは滅多にいないと思うけど。小麦ならまだしも。

 勿論中には果物が好きで一日の食事全部果物、っていうエルフもいないわけじゃないけど、全員が全員そうというわけではない。

 俺だって別に果物嫌いじゃないけどそれを飯にしろって言われると流石に困るな。食後のデザートとか、おやつのかわりにっていうならまだしも。


「あの、つかぬ事を聞きますが、ここにはどれくらい滞在する予定ですか……?」


 質問も一応終わって話が一段落した事もあってか、そろそろ談話室を出るべきだろうなと思ったあたりでカイが遠慮がちに尋ねてきた。

「……まぁあと数日はいる予定だ」


 ハンスが来るまで、とはいえ、いつ来るかはわからない。


「良かったらまたお話聞かせてもらえますか?」

「話せる事はそう多くないが」

「いえ、そんな事ないです」


 これが社交辞令で言ってる、とかならともかく、割と本心から言ってるのだとわかるような感じだったので、ハンスが来るまでの間それなりに暇だし……と思ったのもあって機会があれば、と俺は頷いていた。


「ほんとですか? 良かった。おれ割と普段からここに入り浸ってるので、受付の人に言ってもらえればすぐ来ますんで!」


 図書館てそんな人呼び出しシステムあったっけ……? と思ったが、この図書館の規模が規模なのでそういうのがあってもおかしな話でもないの……か? ないんだろうな。迷子とか出そうだし。



 談話室、とはいえ別に周囲に人がいるわけではない。談話室もいくつかあって、大人数が入れるような所から少人数用の部屋と複数存在していて、俺とカイが使用しているのは他に誰かが来るような事もないとわかりきっているくらいの小部屋だった。

 なんていうか、学生とかがマンツーマンで勉強教え合うとかならまぁ、みたいな感じの広さというか狭さ。母一人子一人で小さな子をつれてきた親が読み聞かせたりするのに使う、とかならこんなもんだろうと思えるような。



 しかし……異種族について学んでいるとは言ったものの、普段から入り浸ってるっていうのもどうなんだろう?

 図書館もかなりの大きさではあるが、こことは別の区画には学校もあるみたいだしそっちもかなりの大きさっぽいんだよなぁ。

 カイが異種族であれば見た目若くとももう学生なんて年齢じゃない、って事もありそうだけど、見た目だけなら学生やってるって言われれば納得するような外見だ。

 とはいえ、学校は? とか聞いていいものかもわからない。

 ちょっと人間関係で今行きたくなくて……とか言われたら俺だってどう反応していいか困るし、とっくに卒業してるんですよって言われてもそれはそれで気まずい。


 それに、仮に学生だったとして、じゃあ学校の方に来てもらえませんか!? とか言われたらそれはそれで困る。もしそんな事になったら他の好奇心旺盛な生徒とかついてきそうだし、俺一人に対して大勢の生徒とかそんな状況になったら流石に俺も精神的に厳しいものがある。

 流石に部外者をそう簡単に入れたりしないと思いたいんだが、いかんせんここは学術都市とか言われるような場所で。

 見かけても気軽に声をかけにくい種族でもあるエルフがのこのこ行ったら飛んで火にいる夏の虫とばかりにロックオンされるのではないかと思ってしまう。自意識過剰かもしれんけど。


 俺一人だけならいいけどうっかりルフトとかルーナがついてきたらもっと大変な事になりそうだしな……


 まぁ、ここなら足を運ぶのもそこまで苦ではない。

 ハンスが来るまでの数日間のうち、どれくらい暇が潰せるかはわからないが……カイに付き合うのは丁度いい暇つぶしになるかもしれない。

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