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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話

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お急ぎでも当日は無理です



 鳥に手紙を渡した結果、思っていた以上の早さで返事が届いた。


 とはいえ内容を確認する限りやはりすぐにこちらに来る事はできないらしい。

 まぁそうだろうな。俺たちが帝都を出てからまだそこまで日数が経過していない。何か色々あったせいで数か月くらい経過した気分だけど、実際は全然だ。


 とはいえ極力急ぐという文面があったので、まぁ、しばらくはここで待つしかない。


 ちなみに手紙には一連の内容を書いたとはいえ流石に紙の都合上というべきか、詳細を書き連ねたわけでもない。ざっくりとした内容なのでもしかしたら向こうはちゃんと意味を理解できたかも不明だ。

 とはいえ、帝国にいたクロムートを発見した事と、倒すためにちょっとばかり手を借りたいという事だけは書いたので流石にそこも理解されてないとかはないだろう。

 まぁ、そのためにハンスを寄越せと書いた時点でハンスがどういう事!? と叫んでそうだなとは思うわけだが。


「――とりあえず、ハンスがこっちに来るまでの間は当面ここで過ごす事になる」

 手紙をしまいこんで俺がそう告げるとルフトもルーナも神妙な顔で頷いた。


 そこそこの期間滞在するだろうなとは思ったし、実際手紙の返事を見ればそうなるのは確実だった。

 だからこそ既に宿の部屋をばっちりおさえたわけだが。


「ルーカス」

「なんだ」

「どうして三人とも別々の部屋なんだ?」


 ルーナが納得いかないとばかりに表情を顰めている。


「どうしても何もあったものじゃないだろう」

 対する俺の返答は至ってシンプルなものだった。


 いや、そもそもさ、個別にしないっていう選択肢、あるか……?


 俺とルーナの関係はまぁ、一応友人ではあるものの俺にとっての友人はヴァルトであるという認識の方が強い。いくら同一人物であるとはいえ、ルーナの姿である以上男女を同室にするのもどうかと思うわけで。

 こどももいて何言ってんだ? って話だが、それに関しては同意のない行為だったからな……

 いくらルーナが俺に対して好感情を持っていたとして、今の俺はルーナをそういうものとして見ていない。

 いや、客観的に見て美人だなとは思う。思うんだけど……ほら、ヴァルトと同じって考えるとそこで鼻の下伸ばせるか? ってなるわけだ。

 ヴァルトは俺にとって親友と呼んでも過言じゃない立ち位置にいるが、ちょっと前までの廃墟群島での奇行とか思い返すとさ、それやってたのこの美人なんだぜ……? ってなるだろ?


 俺の中で色々と整理がついていない。


 最終的に受け入れる事ができたとしても、今の状況で何もかもすべてを受け入れられるかとなるとまた別の話だ。正直もうちょっと時間が欲しい。


 さて、次にルフト。

 ルアハ族が男女両方の性別になれるとはいえ、生まれた時点での性別が普段行動する時に適用される……らしい。中にはそりゃ例外もいるだろうけれど、大半はそうらしいのだ。

 であればルフトが本来の姿とみていい。

 ルフトの状態なら俺と一緒の部屋でも良いのでは? 性別同じだし、と思うだろうけれどこちらもちょっと冷静に考えてみてほしい。

 少し前までディエリヴァとして女の状態で俺と行動を共にしていたわけだ。

 クロムートによって何らかのちょっかいをかけられないようにルーナが帝国を出る際、ルフトに魔法をかけた。そのせいでルフトとディエリヴァはまだ別人であるという認識が若干だが残っているらしい。

 同一人物だという自覚があって、なおかつその状態で自分の意思で性別を変えるような事になった場合。もしくは変えなければならなくなった場合、ルフトならともかくディエリヴァだと身の危険があるかもしれない、と判断したルーナによるものとはいえ、結果として今現在、ルフトの意識にディエリヴァの意識が徐々に溶け込んでいるのだとか。


 ディエリヴァの時は思い返せばルフトの事を知っているようではあったものの、ルフトの時はどうだったんだろうな? 意図的に黙っていたというよりは記憶に蓋でもされていると言われた方が納得いくくらいディエリヴァの存在は微塵も出ていなかった。


 ルフトとしても帝都で身の危険を感じた際、使えないと思い込んでいた魔法を咄嗟に使ったというかディエリヴァの意識が表に出てきたというかでどうにかなったものの、そこから徐々に別々の存在だと思い込まされていたディエリヴァの存在を認識しつつあったらしい。

 いや、同一人物だから認識という表現は正しいのかも微妙なところではあるが。


 ともあれ、ルフトからすれば帝都で命の危険を感じた後意識がディエリヴァと交代する事になったために、気付いたら見知らぬ島で再会してるしすぐ近くには母の姿もあるしで混乱していたようだし、そこから更にディエリヴァというもう一人の自分を思い出したというのもあって、まだ若干混乱しているような部分があるのだ。


 その状態で俺と同室になって、うっかりディエリヴァの時と同じような態度でルフトが俺に接するような事をうっかりでもしてみろ。

 本人的に居た堪れないとか気まずいとかそういう事になりかねない。


 そして俺も正直まだちょっと完全に理解が追いついてないなと思える部分がある。


 結論として、とりあえずそれぞれ一人になって落ち着いて考えを纏めたり冷静になる時間を確保するべきだと判断したわけだ。


 多分この状況を既に理解し受け入れているのはルーナだけで、俺とルフトには確実に一人になって落ち着く時間が必要だ。ルフトが「いえ別にそういうのいらないんで」とか言ったとしても俺には必要なので!


 そういった事を説明すればルフトはかすかにほっとした様子を見せた。

 ルーナは納得していないようではあったが、理解できないというわけでもなかったらしい。しぶしぶではあるが引き下がってくれた。


 まぁ、こうして正体を明かした以上俺から逃げる必要もないし、ある程度の時間さえあれば関係は多少改善されるだろうと本人もわかっているようだ。これでまた無理にでも俺の部屋に乱入とかされたら流石の俺も全力で抵抗するが、それもないと思いたい。


 いや、かつてルーナの事を全く知らない状態であった時ならともかく、今のルーナはイコールでヴァルトでもあるって俺も理解してるからな。次に力ずくで、なんて手段を取ろうものなら俺も容赦はしない。


 とはいえ見た目が女の姿だと、果たしてヴァルト同様雑な扱いをしたとして大丈夫なのか、とも思うわけで。


 扱い方というか接し方を考えあぐねている、と言われてしまえばそれまでだ。

 最終的にハンスみたいな扱い方になったりはしないと思うんだけども。


 念の為、というかちょっとした冗談くらいの気持ちで「襲うなよ?」と部屋に入る前にルーナに言ってみれば、「流石にしない」と即答された。賢明な判断だと思う。


 宿に関しては既に数日分部屋をとっているし料金も既に払っているのでしばらくはヴェルンの街で過ごすだけなら何も問題はない。

 図書館だとか研究所だとか、何かわけのわからないアトリエだとか、まぁ色々あるので多少の暇くらいは潰せるだろう。楽しいかどうかは別として。

 事前にとっておいた日数分が経過してなおハンスがこなければ、更に延長して部屋を借りるか、それとも他の宿にでも移動するか……まぁそこら辺はその時の流れに任せる事にする。


 しばらくはここで足止めされてるも同然だが、帝国に数日滞在しなければならなかったあの時と比べれば全然マシだ。何せ人が住んでいる。

 既に人が誰もいなくなった帝国での数日は何をするにも自分たちでやるしかなかったが、ここは人がいるので食事の支度だとかは面倒だなと思えばしなくたっていい。というか金さえ払えばどうとでもなる。

 たったそれだけの事ではあるが、その、それだけの事、というのが何だかとても頼もしく感じられた。

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