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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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囮デリバリー



 かつて、群島諸国が関わっていた国はいくつかある。

 ワイバーンを操って移動手段に用いていたわけだが、だからといって遠く離れた土地とは関りがない。精々が近くの大陸の二つか三つくらいの国と国交があった、といったところか。


 まぁ別に今その国の事はどうでもいい。

 そこはたいして重要でもないからだ。


 ただ、その中の一つの国に現在俺たちはやって来ていた。


 多分、当時最も群島諸国と関わってただろう国。

 そこまで大きな国ではないが、知的好奇心が有り余ってるのか興味本位で最初に群島諸国と関りを持ったとも言われているその国は、今でも国民全体がノンストップ探求心☆ とばかりに日々生活に研究に勉学にと明け暮れている。


 そこまで大きな国でもないくせに世界最大と言われる図書館とかあるくらいだから、俺からすればお察し案件というやつだ。


 この国で生まれた者が皆そう、というわけではない。どっちかっていうと類は友を呼ぶとかそういう感じ。

 だからこそ、今でも時たま廃墟群島を調べようと思ってる奴がいる可能性の高い土地だ。


 そういった人材が多いだろうくせにどうして実現してないかって言えば、単純に資金面での問題だろう。

 廃墟群島に行くには船がいる。魔法で水の上を移動できるような方法が使えたとしても、ここから廃墟群島まで一直線に突っ切ったとしても……俺なら五日でここまで来れたけど他の奴ならどうだろうな?


 倍の日数、で済めばいいが下手したらもうちょっとかかるかもしれない。

 ともかくそれだけの時間をずっと魔法使いっぱなしで移動できるかっていうと、それはそれで難しい。


 ちなみに俺の五日という内訳は三日で大陸に到着してその後二日かけて陸地を移動して人里に辿り着いたという意味での五日だ。

 俺みたいに常に近くに精霊がいるからこの日数で済んでいるが、そうじゃない相手が魔法で同じように移動しようとすればもっと大変だろう。魔法を維持するだけで力を使い果たす奴が出るかもしれない。


 ……そう考えると俺ってある意味チートでは? と思うわけだが、魔法は精霊の匙加減というのもあるのであまりチートという感じはしない。こっちの意図を確実に汲んでくれて正確に魔法が発動すればいいが、時々愉快犯まがいの事をやらかす奴がいるから油断はできないんだ。


 さておき、俺たちは世界中の知識が集まると言われている街――ヴェルンへとやって来た。

 とはいえ別に知識を求めてとかではない。単純にここが都合が良かったからだ。


 知識を求める者の大半が訪れるとされている街。来る者は拒まず去る者は――どうなんだろうな? 知ってはいけない情報を知ってしまったとかじゃなければ別に問題なく出ていく事もできる。


 魔法でどうにかできないならやっぱり船で行くしかないわけだが、その船だって小舟で、というわけにもいかない。ちゃちな船でマトモに辿り着けるかはわからんし、最終的に船の墓場と呼ばれるようになった廃墟群島に辿り着いたとして、その頃には乗員が生きてるかどうかも不明だ。調べに行くっていうのに着いた時には死んでましたじゃ話にならない。


 そうなるとなるべく頑丈な船が必要になるわけだが、それを用意できたとして、次に必要なのは乗組員だ。いくら探求心がそこらの連中より多くあるといっても、全員が全員船の操作を熟知してるわけでもない。

 金で雇うにしても、行先が行先だ。まぁほとんど断られる。


 行きたい相手だけで行く計画を立てたとしても、今の所は中々その目処が立たない、といったところか。

 まぁ仮に行けたとしても行きつく先はクロムートがいる以上船の墓場の仲間入りだろうけど。


 さて、このヴェルンという街。

 とりあえず世界最大規模の図書館があったりするところから、結構色んな場所から学者になりたい奴だとか、研究のための資料を求めて、だとかいった相手が世界各地から訪れる。図書館以外の施設も結構色々あるからな……この土地に留まる連中の大半が己の知的好奇心を満たすためだけにいる、ってだけだからまだしも、ちょっと悪い方向に進化を遂げようものなら周辺の国から危険視されかねない。いや、今でも割と警戒はされてる気もするけど。


 ただ、学ぶ意思を持つ者に対しては誰でもウェルカム、みたいな部分があるので色んな種族がこの街で生活している。

 滅多に外から人がこない田舎と違ってここはあまりよそ者に対してもいちいち行動を監視するような目は向けられないし、そういう意味では滞在しやすい街でもある。



 帝国からクロムートに関する情報を探す時に、それじゃここに来れば何らかのヒントはあったのではないか、と思えるわけだが、俺も一応候補に入れてはいた。ミズー集落で長老に行くアテがないとは言っていたが、ホントここ最終手段に入れてはいた。

 最初にミズー集落に向かったのは言うまでもなく帝国からヴェルンまでの距離とミズー集落までの距離を考えた結果ミズー集落の方が近いから、とりあえず先に長老に話聞いてみるか、くらいのノリだった。

 長老も何の情報もないです、となっていたらこっちに行くつもりではいた。


 いや、帝国から真っ直ぐこっちに向かうとなると海路を行った後で更に陸路を行かなきゃなんだが結構遠回りになりそうでな……あれこれ考えた結果、こっちは本当に何の手掛かりも得られなかった場合の最終手段みたいな感じだったわけだ。


 廃墟群島行って何の情報も得られなければ長老の所に戻って話だけ聞いて、その後にまぁ、こっち行くか……くらいの気持ちだったけど。


 何せここの連中、気になった事はとにかく調べるってのが多いから下手な発言しちゃうとこっちまで研究対象に見られかねない。知識欲を満たすためだけにぐいぐい来られるのも正直疲れるからさ……ほら、俺そこまで社交的じゃないから……

 あとこっちが興味ない事を向こうは熱意をもって語ってくるわけなんだけど、その温度差も厳しい。ごめんな、そんな熱心に語られても俺理解できないんだ……みたいな気分になる。


 じゃあなんでこの街に来た、ってなるわけだが、調べ物に関して用があったから、というわけでもない。


 外から誰かが来る事に対してそこまで目を向けられない、という点でのみ選んだようなものだ。

 この街にも一応組織の連中がいないわけじゃない。そこからミリアの鳥に連絡を取って、ハンスを寄越してもらうように伝言を伝えたわけだ。


 ……うん、廃墟群島でクロムートと決着をつけるにあたって、また俺があの場所に行ったとしてクロムートは警戒してるだろうし、すんなり事が運べるとは思ってない。

 じゃあ、他の誰かに頼めばいいわけだ。要は囮だな。


 俺の知ってる相手の中でそういう事を頼める相手って誰だろうなと考えたら、真っ先にハンスが出てきたわけだ。ハンスが聞いたら泣くかもしれんが。


 ハンスも帝国でクロムートと遭遇してはいる。いるけれど……そもそもクロムートがハンスを個別に認識できていたかは不明だ。顔は覚えてる可能性もあるけれど、多分そこまで危険視してないだろうし気配で島に近づいたのを察知しているなら多分囮に引っかかってくれると思う。


 一応ハンスと別れた後の一連の出来事を記した手紙を鳥に渡しておいたので、数日後には多分ミリアの鳥でこっちに来るだろう、という考えで俺たちはヴェルンに滞在を決めた。

 ミリアが鳥で移動させてくれるのであれば、下手したら即日到着、なんて事になるかもしれないわけだが恐らくそれはないだろう。

 俺とディエリヴァが帝国を後にしてからまだ数日程度だ。フロリア共和国側の調査員と組織の連中とであれこれ調べたりするのだってまだ終わってないと思う。帝都があった場所は大穴があるだけだが、それ以外の町や村なんかも調べないといけないだろうし、帝国の領土内を全て調べるにしてもまだまだ時間がかかるだろう事は考えるまでもない。


 ハンスはミリアの補佐、という形で置いてきたがそのミリアだっていくら手紙を出されたとしてもすぐにハンスを寄越せるとは限らない。

 とはいえクロムートをそのまま放置するわけにもいかないだろうから、ミリアも先延ばしにはしないだろう。


 とはいえ何もかもを放り投げて、というわけにはいかないだろうし、他の相手に引き継いでもらう事が問題ないと判断できる程度まではミリアも動けないはずで。

 それを考えればまぁ、数日はここで待機かなと思っている。


 ハンスと合流するまでの間に何事もなければいいんだが。

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