表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
119/172

結局のところは



 帝国で遭遇した時点でのクロムートの存在は謎が多かったが、こうしてある程度の情報が出てしまえば何となくわかってくる。


 クロムートにとって帝国はあくまでも自分が自由に動くというか、餌を集めるための場所だ。

 帝国にいた精霊を取り込んで、捕らえた異種族もまた取り込んだのだろう。ルーナがいなくなった後はルーナを探すという名目もあったはずだ。

 表に出て動かなければならないとなれば皇帝を利用し、あえてその姿を人前に晒す事はしない。


 クロムートとして姿を見せていなかったわけじゃないとは思うが、それも一部の限られた人物の前だけだろう。

 皇帝の身体を得てからは本体を人前に出す必要もなくなる。


 乗っ取った身体がやつれていったとしても、病気だとかで人前に出る機会を少なくできる。


 そのまま帝国を乗っ取ってフロリア共和国へ戦争を仕掛ける可能性はあったと思うが、どちらかといえば自分から仕掛けるよりは帝国に攻め込むのを待っていたのかもしれない。

 目ぼしい相手は大体取り込んだ後、となれば自分の力で帝国兵を作り出すより向こうから来てもらった方が圧倒的に楽なわけだし。

 フロリア共和国側を取り込むのに問題があるようであれば、クロムートはあっさりと帝国を捨てただろうとも思う。


 帝国はあくまでも一時的な仮宿みたいなものだったに違いない。

 だからこそ、廃墟群島を拠点と定めていた。


 廃墟群島をそのままにしておいたのは、クロムートにとって安全に休める場所だからだろう。

 そもそも人が来ない。来ようとしている相手はいたとしても、辿り着けるかどうかは微妙なところだし仮に島にやって来たとしても、島に仕掛けた何らかの魔術でそれを把握してしまえば転移してそいつを始末してしまえばいい。

 国総出で調べに来る、という事もないだろうから来るとすれば大体の数も限られる。不意を打てばクロムート単身でどうとでもなるはずだ。


 滅多に人が来ない場所。休むのであればそれこそゆっくり休める。


 あとはまぁ、本当にこっちの想像になるけれど。

 彼はもしかして、元に戻る方法も探しているのではないだろうか。


 好きでなったわけじゃない。

 そうなれば元に戻りたいという思いがあっても別におかしなことじゃない。


 廃墟になってしまった研究施設やらがそのままであるのは、恐らくそういう部分もあったからではないだろうか。クロムートからすれば忌々しい事この上ない場所ではあるが、もしかしたら元に戻るヒントがあるかもしれない。その可能性を信じているからこそ、施設をそのまま残しているのではないだろうか。

 長い年月そのままなのは、単純に自分の理解が及んでいないから、というのもあるかもしれない。今は理解できなくてもいつかは理解できるかもしれない。そういった希望に縋っていると言ってしまえばその通りだ。


 では、そういった事に詳しそうな外部の誰かの手を借りなかったのは何故か、と考えればこれも案外簡単に想像できる。


 現時点で人工精霊はクロムートただ一人だ。


 普通の精霊とは違う、精霊に近くしかし実際は似て非なる存在。

 もしクロムートが協力者として選んだ相手がクロムートの意に反して同じように人工精霊を新たに作り出したらどうなるか。

 自分と同じ存在が増える。そうなると、最悪自分を殺す相手が増えるという事にもなる。


 今の時点でクロムートは合成獣キメラなわけだけど、その力はそこらにいる精霊よりも上だろう。何せ取り込んでるわけだし。だからこそ今はそこまで脅威だと思える相手がいない。天敵らしい天敵がいないというのは行動する上で何をするにもそこまで警戒しなくて済む。けれども自分と同じような存在ができてしまえばそれは、自分を殺せるかもしれない敵が増えるという事でもある。


 そこらの精霊に頼んでクロムートを排除しようとしたとしても、精霊からすればある意味敵でもあるわけだが、それでも自分に近しい存在だ。それを殺せ、と言われても手を貸すわけにもいかない。それを許せば次は自分たち精霊を直接殺すような願いが向けられないとも限らない。

 けれども人工精霊であれば。

 意思の疎通が通常の精霊よりも簡単にできる相手。しかも自分が作ったとなれば創造主として命令だってできるだろう。上手く制御できれば、の話ではあるが。


 だからこそ、クロムートは廃墟群島を調べようとする相手を始末しているのだろうなと思う。


 ついでに今もなおクロムートが精霊だとか異種族だとかを取り込んでいるのは力を得た結果、もしかしたらという部分に賭けてる可能性がある。

 精霊に最も近い種族とされるルアハ族についてクロムートがどこまで知っているかは知らないが、ルーナは多分クロムートと出会った時に色々とやったのだろう。精霊の力を借りずとも使える力。精霊に頼んだところで元に戻れるかわからない以上、自力でどうにかするしかない。


 ルーナと同じような力を使えるようになれば、もしかしたら自分は元に戻れるかもしれない。


 ……そう考えたとしてもおかしな話ではない。



 廃墟群島に足を踏み入れた俺たちがクロムートと遭遇したタイミングを考えると、多分あの研究施設があった島に近づくのがトリガーではないだろうか、とは思う。

 かつてルーナが最初に出会った時はまだクロムートも自分の力なんて把握してなかっただろうし、その後再会した時は胎の中に子がいた。多分そっちを異物としてその気配でクロムートが気付いた可能性は高い。

 ルーナの気配を頼りに追手を放った時も、ルーナがヴァルトの姿になった時点で似た気配はあれど本人ではないとクロムートが認識していたのであればニアミス程度で済んだ理由も説明がつきそうではある。


 そして追手を放った時点でその気配に慣れてしまって、ヴァルトが廃墟群島に侵入しても中々気付けなかったのではないだろうか。廃墟群島にやって来る人間や異種族の気配は察知できたとしても、そこらを漂ってる精霊までいちいちカウントしたりはしないはずだ。廃墟群島付近に精霊が滅多に近づかない事を考えても、精霊の動向まで注意を向けていたらそれこそキリがない。

 精霊に最も近い種族と言われているルアハ族であれば、そういった事になっても別におかしな話でもない。


「……正直、クロムートを野放しにしておくわけにはいかない」

「それはまぁ、そうでしょうね」


 声に出すつもりはなかったがそれでもうっかりこぼれ出た発言にルフトが頷く。

 いや、俺としてはね? クロムートもある意味で被害者だから倒すっていうか息の根止めるっていうのは流石にどうかと思ってはいるんだ。けど、今のクロムートがどういった存在ものであるのかを知ってしまえば放置しておくというわけにもいかない。


 クロムートの目的としてはルーナに会う事。

 会ってその後どうするつもりかはさっぱりだが、どうも今までの発言を思い返せばロクな事になりそうもない。

 いっそ二人で外界でひっそりと暮らそう、とか永遠の愛を誓う……とかそういう展開ならまぁ、周囲に被害が及ばなければ問題はなさそうだけど、そうならないのはわかりきっている。

 ルーナがクロムートに寄り添ってこれから先の時間を費やすかというと、多分無い。


 クロムートが元の――人間に戻れるか、というのをルーナに問いかけてみたが、沈痛な面持ちで首を横に振られた。だろうな。


 取り込んだものが多すぎる。人工精霊になった時点で既に色んなモノが混ざってるのに、そこから更に色々取り込んだのであればそりゃ無理だろうとは流石に俺だってわかる。

 ルーナではなくヴァルトの姿になっていればクロムートがルーナと出会う事はこの先ないだろうけれど、どうなんだろうな? いくら性別変更できるとはいえ、元々はルーナが主体っぽいし。


 というか俺からすればヴァルトの方が馴染みのある存在ではあるもののルフトからすれば母親であるルーナの方が圧倒的に見知った存在だ。ヴァルトの状態で母親扱いはちょっと無理があるし、それはディエリヴァであっても同じだろう。何せヴァルトと最初に出会った時の事を思えば骨兜のせいでドン引きしたとはいえ、素顔が出たからといっても知っている人物に対するものではなかったようだし。


「放置したまままた帝国みたいにどこかの国に潜伏されるのも困るし、他の地域の精霊根こそぎ取り込まれるのも困るよな……となるとやっぱ敵対するしかないわけだ」

 それでなくとも俺は完全に目をつけられてるとみて間違いないだろうし。


 とはいえ、だ。


 俺がまた廃墟群島に戻ってあの島に足を運んだとして。

 果たして素直にクロムートがやってくるかどうか……最終的に来るとは思うが思いっきり警戒はされるだろうし、すんなり事が運ぶとは思えない。


 …………うん、まぁ、仕方ないよな。素直に人に頼るとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ