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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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抱いた罪悪



 ルーナの話を聞く限り、故郷で出産しようとしていたルーナではあったがその前に別れたっきりのクロムートはどうしているだろうか、と思わないでもなかったから廃墟群島へ立ち寄った。

 そこでクロムートと再会し、その胎に子がいるという事を知ったクロムートが帝国へとルーナを連れて行く事になった。

 ……うん、なんで? と思わんでもないが、クロムートのルーナへの執着心を思い返すにわかるようなわからんような……

 人工精霊と言えば何となく聞こえはかろうじて良いが、実際は合成獣キメラだ。化物に成り下がってしまった、という認識はあっただろう。

 けれどもそこで、自分に寄り添ってくれた相手が精霊に最も近い種族であるルアハ族。ついでに出会った時点ではヴァルトではなくルーナとしてだ。


 男なんてのは単純なもので、精神的にどん底にいる時にちょっと美人な相手に優しくされたらそりゃもう呆気なく簡単にコロッといく事だってある。

 俺の場合はそもそもどん底ってどこだよ故郷なくした時? とか考えてみるも、その時点では植物か何かかな? ってくらい感情が死んでたからな……多分どっかで優しくされてもコロッといく事はなかったと思う。

 前世はそれ以前にしょっちゅう不幸な、というか不運な展開に見舞われていたからそれ知ってる周囲からはもう完全に同情の眼差し向けられてたからな。優しくされてコロッと、という展開は生憎となかった。


 前世の記憶思い出した今の俺だったらどうなんだろうなー、とは思うけど、そもそもどん底になる状況が浮かばない。え、知り合いとか全員殺されるとかそういう展開? いや、流石にそれは無理だろ……ハンスとかは確かに何かの拍子に殺される可能性あるかもしれないけど、それ以外の面々がそうなる展開がまるで想像できないもんな……むしろそんな事態を起こせるような相手がいたとして、逆にドン引きするわ……えっ、お前ホントにやらかしたの? みたいな気持ちになる。ついでにそんな相手に俺勝てるかな、とか不安になりこそすれ、果たして精神的にどん底かっていうと何か違うな。


 ともあれ、クロムートはルーナを連れてその時点で既に掌握していただろう帝国へ。

 そこから先は多分ルフトが知ってる展開になってたと思うし、ルーナの話からしてもクロムートはその時点で帝国を牛耳っていた。

 あまり使わない方がいいと忠告していたその力を使っていた事にルーナも思う所はあったようだが、その時点でもう何を言ったところで使った後だ。


 ルーナとしては多少の罪悪感もあったようで、しばらくはなんとかしてクロムートの精神的に不安定な部分をどうにかしようと試みてはいたらしい。

 まぁ、クロムートが何を思ってそんな事をしたかは知らないが、ルーナからすればクロムートと別れた後で俺と知り合ってしばらくの間は俺と一緒にいたわけだしな。年単位で。

 本人は恋心自覚してどうにかしようとしていたわけだが、その間にクロムートは……と考えてしまったんだろう。

 正直そこでお前が罪悪感を持つ必要あるか? と思わなくもないんだが。


 クロムートも使わない方がいいと言われていた力を使った事に言い分はあるだろう、とは思う。

 外敵に襲われて身を守るためにやむなく、という事だってあったかもしれないし、単純に得た力を思うまま使っただけの可能性もある。使うに至った部分はどうあれ、使ってしまったという事実に変わりはない。


 で、ルーナとしては子供も生まれたしいつまでも帝国にいるつもりはなかったらしいが、クロムートを放っておくこともできずずるずると七年……本当だったらルーナはルフトを連れて帝国を出るつもりではあったものの、恐らくそれを見越したクロムートが先手を打って先にルーナを呼び出し、まぁ、そこで色々と一悶着があったらしい。

 そこら辺は若干言葉を濁していたので、あまり話したくない内容か、俺はともかくルフトには聞かせたくない内容なんだろうなと察する他ない。

 ルーナとしてはどうにか精神的に支えるつもりでしたあれこれが、結局のところ効果はほぼ無かったという事実を知って、これ以上一緒にいるのは自分にとってもルフトにとっても危険だと感じたらしい。


 ……まぁ、支えてそこでどうにかクロムートが立ち直って、とかなら良かったがあの様子を思い返すに駄目な方にいっちゃったんだろうなとは思う。余計に執着されてるし、ルーナとしてはもうだめだと思ったようだ。

 これ以上一緒にいるのは誰にとってもよろしくない、と判断してルーナは帝国を脱出する事にした。とはいえ、その時点でクロムートも薄々ルーナが出て行く事を察知していたようで、ルフトを連れ出す余裕がなかったらしい。


 それを聞いてルフトはぽかんとした表情を浮かべていたが……まぁ、多分ルーナ視点での帝国生活とルフト視点でのそれは似て非なるものだったんだろう。ルーナはクロムートに執着されて下手なことをルフトに言えばそちらが危険に晒されかねない。だからこそ言葉を選んでルフトにいざという時の事を想定して伝えておいたが、ルフトが幼すぎて理解しきれず結局ルフトが帝国を出たのは更にその数年後。


 ルーナがルフトを大切にしていたからこそクロムートもしばらく帝国にいたルフトに危害を加える事はなかったようだが、これルーナが自分の子とかどうでもいいわ、みたいな感じだったら早々にルフトは処分されていたのではなかろうか。それか新たな寄生先になっていたか。寄生先の可能性はまだ残ってるけども。


 ルーナが帝国を出た直後、しばらくは追手がかかっていたらしいが、それも少し前にどうにか撒いたのだとか。

 そういや追手がどうとか言ってたな……と思ったが、その追手も数か月前に撒いたようだ。その追手、間違いなくクロムートが作ったなんちゃって帝国兵だよな……

 年単位で追跡してくるとかその執念が怖い……


 ルーナとしてもこれ以上クロムートを放置したままにするのは色々と危ういと思ったらしく、帝国を出た後でヴァルトの姿になった上で逃げていたようではあるが、それでも追手とはニアミスしてたらしい。ちゃんとした人間の帝国兵であったならもっと早い段階で撒いていたかもしれないが、恐らくは気配とかそういうもので探っていたんだろうなと思えるこの……なんだ、あまり気付きたくなかった事実よ……


 とりあえずクロムートをどうにかするために、ある意味で始まりの場所でもある群島諸国を調べる事にした。

 どんな小さな情報も逃さないように、と思ってここは大した情報がなさそうだと思っても一つ一つの島を丁寧に調べていたからこそ数か月が経過して、そうしてそこで俺たちと出会った――というのがルーナ側の話だ。


「……俺たちと遭遇する前に、クロムートはこの島にいたか?」

「いや、流石に見てはいない。というかいたならそれはそれでそちらに何らかの形で警告していた」

「……そうか」


 となると、多分次にまた俺が廃墟群島に足を運んだとしても、そう簡単にクロムートが姿を見せる事はなさそうだ。


「えぇと、父さん? クロムートはなんでまたその、廃墟群島にこだわるんですか……?」

「恐らくルーナと別れた後、あいつは何らかの方法で島全体……とまではいかなくとも中枢に至るだろう箇所に何らかの術を組んだ可能性は高い。

 最初にルーナと出会った時はまだ自分の力を自覚してはいなかったはずだ。勿論今までと比べて力を得た、という自覚はあったとしても、だからといって何ができて何ができないかまでは把握できていなかったと思う」


 どことなく態度が柔らかくなった気がするルフトに問われ、とりあえずは推測を口に出す。


「ルーナがいなくなった後も多分だが、しばらくは廃墟群島にいたはずだ。そうしてあの島で何が起きたかを調べに来た連中を始末する際に、あれこれ試したんだと思う」

 一番最初にやって来た連中は半分生還できたとはいえ、それもクロムートが意図的に見逃したというよりは運が良かっただけだと思う。

 二度目以降の調査をしに来た者たちは全員が帰らぬ人となっているのは、下手に生還者を増やしてしまえば島に来る相手が増えるだけだと考えたのだろう。

 行った者は二度と戻ってこなかった、とかいう話になれば余程の命知らず以外は行こうなんて考えなくなるだろうし。


「自分の力に関してどこまで把握したかはわからないが、もともと少なかった群島諸国付近にいた精霊は軒並み取り込まれたとみていい、はずだ。だからこそ今もこうしてあの島には精霊は寄り付こうとしていない。

 恐らくは帝国付近もこれから先そうだろうとは思う」


 話があちこちに飛ぶタイプの精霊であっても、流石に自分の身が危険に晒されるという部分を放置はしない。あのあたりは近寄らない方がいい、となればそれこそ数百年から数千年単位で近づく事はしないのではないかと思われる。

 ……まぁ、精霊によっては年月次第で立ち寄って、大丈夫そうだと判断できればまた増える可能性もあるけれど。


「精霊の力を得て、クロムートは己にできる事を大体把握したと思う。けど派手に行動はしなかった」

「それができる実力はあるんですよね。目立ちたくない、というタイプだからですか?」

「本人がある程度慎重派なのもあるとは思うが、大っぴらに行動したらその分危険視されて狙われるのが目に見えてるからだろうよ」


 考えてもみて欲しい。

 例えばこれから事件を起こしますよ、という奴がいたとして、事前に堂々大声で宣言するような事をしたら当然それを阻止しようという奴だって出てくる。そうなればやろうとした事が未然に防がれてしまう事だって有り得るし、それならこれからやろうとする事を極力知られずに実行した方が遂行できる可能性は上がるというのは言うまでもない。

 事前にそういう事をしますよ、と犯行声明を出すのは極一部だ。それ以外は大体ひっそりやる。


 クロムートにも言い分はあるだろう。好きでそうなったわけじゃない。けれどもその言い分を持って行動できるのは、それをしでかした群島諸国内だけだ。他の――そんな事があったなんて知らない国でそんな言い分を持って行動に移られても正直境遇に同情する事はあってもだからってこっちに迷惑かけんな、となる。

 そこら辺はクロムートも理解していたからこそ、表立っての行動はしなかった……と俺は思う。


 帝国がクロムートに目をつけられたのは、異種族狩りなどで目立っていたからだと思う。

 他にも人間至上主義を掲げる土地だとか、一部の種族のみを優遇する場所はあるけれど帝国のように声高に宣言して異種族を迫害するような真似はしていなかった。勿論目立たないよう裏でひっそりやってた可能性はあるけれど、そんなのは今更だ。

 ただ、そういった裏でやってるだろうけど表立って目立つ事はしていない所よりは、堂々とやらかしてる所を隠れ蓑にした方が動きやすかったのだろう。


「帝国とあの島とはかなり離れてると思うんですけど……それでもあの島に近づいた誰かがいたらわざわざ確認しに戻ってた、って事ですか?」

「恐らくは」


 考える間もなく頷くと、ルフトは理解できないと言わんばかりの表情を浮かべた。

 いや、でも考えようによってはクロムートの行動はわかりやすいんだが。こうして考えてみると。

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