表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
117/172

餌にも種類がある



 帝国から廃墟群島まではかなりの距離がある。

 その頃には既にクロムートは帝国に入り込んで裏であれこれやっていたようだし、だからこそ余計にルーナが廃墟群島で再会した、という流れがわからない。


 けれども精霊の力を取り込んでしまったクロムートだ。

 空間をパッとワープするような移動方法ができたとしてもおかしなことはない。


 現に俺だってあまり長距離は無理があるけれど、同じ大陸とかでそこまで離れていないのであれば知ってる場所へ転移できるし、地名がわからなくても確実にそこに知ってる誰かがいるとなればやっぱり転移は可能だったりする。まぁ、俺の場合は力を貸してくれる精霊が精霊だし、という理由もあるわけだが。


 廃墟群島に精霊はほとんどいないけれど、それでもクロムートにとってはここが第二の故郷みたいなものだろう。故郷、という言い方もかなりどうかと思うけれど。

 人ではなくなってしまった忌むべき場所。

 普通に考えればこうだけど、これは別の意味では新たな生命体として生まれ変わった場所、とも言える。

 まぁ本人にこんな事言ったらブチギレそうだけどな。俺ならブチギレる。こんな目に遭った場所を故郷と呼べるか! とキレる。

 普通であればこんな場所二度と関わりたくない、と思うだろう。


 けれどもクロムートにとって廃墟群島は絶対的に自分にとっての安全な場所になってしまったわけだ。島の住人がいなくなった時点で。

 廃墟群島で何があったか調べようという者はそれなりにいたはずだ。だからこそ島の周辺にはかつてそれらを実行しようとした残骸が漂っている。

 しかし何度も調査をしようとしてもいずれもそれが失敗となれば、大抵は被害が大きくなる前に手を引く。

 例えば群島諸国に確実にお宝が存在している、という証拠があったなら今もなおこぞって宝を狙う者たちが廃墟群島へ上陸しようと試みていたかもしれない。

 確かに金目の物はあった。あったけれど、正直命の危険を冒してまで行く程のものではない。

 ハイリスクハイリターンならまだしも、ハイリスクローリターン。


 島の中にあった建物の中から金目の物を全て回収したとしても、正直一生遊んで暮らせる、とはならないだろう。城っぽい建物の中までは確認していなかったけど、多分そこにも何かすっごいお宝がある、とは思えない。そもそも人工精霊を作ろうとしていた国だ。実験って案外金がかかる。その金を捻出するのに群島諸国は観光向けにして外から人を招いていたのではないか、と思えなくもない。あと外から来た人間を実験材料にするっていう名目もあったみたいだし。

 であれば見た目はそこそこだが実のところ価値はあまりない、みたいな物が人目に触れる場所にあったのではないだろうか。見る人が見ればそういうのはわかるだろうけれど、それでも全部が全部そう、というわけではなくその中の一つ二つは本当に価値のある物があったかもしれない。

 けどその一つ二つ本当に価値がある物があったとしても、莫大な、とまではいかないはずだ。


 例えば世界に一つだけしか存在しない超絶レアな秘宝とかがあるならそのたった一つのために命懸けで廃墟群島へ行こうと考える者が現れたかもしれない。けどそこまでレアな宝は恐らく無い。

 群島諸国が廃墟群島にかわる前からそんな物の存在が知られていたら、観光客に紛れて泥棒とか普通にいそうだし、警備の面で面倒な事になっていたことだろう。

 ……まぁ、そういう泥棒を捕まえて研究材料にしーちゃお♪ っていう発想が無いとも言い切れないんだが……自分たちで狙いをつけて捕らえる観光客という名の実験材料と違ってタイミング関係なくやってくる犯罪者とか対処が面倒そうではある。


 ……冷静に考えてやっぱないな、と思った。


「……聞きたいんだが、クロムートが廃墟群島を拠点にしてるとか言ってたあれ、もしかして島全体に何らかの仕掛けとかされてたりするのか……?」

「どうだろう。あからさまな魔術が行使されている感じはないけれど、土地と結びついたものまでは私も判別がつかない」


 廃墟群島を調べようと思った人物はそれなりにいたとは思う。とはいえそれらは皆帰らぬ人となっている。

 いつか――もっと魔法が簡単かつ安全に使えるようになったりだとか、空を飛ぶ乗り物なんかが普及するような事になったら改めて調査しようという者も出てくるかもしれないが、今はまだそういった者が訪れる事はないだろう。何せ命がけ。調査のためなら死ねる! とか本末転倒な考えの奴はどうだか知らないが、普通に考えれば誰だって自分の命は惜しい。


 文明がもっと発展した未来ならともかく、当分は廃墟群島に気軽に足を運ぶ奴など出るはずもない。

 ……まぁ俺とかヴァルトは普通に上陸してたけど。


 だが考えてみればおかしな話でもあった。

 帝国が滅んで、クロムートが次にどこに行くかなんて当然わかるはずもない。拠点というならそこに戻ってくるのはある意味で自然ではある。

 けれど、拠点と言えどもなんというか……名前だけのもののようにしか思えない。


 誰かがやって来るという点ではほぼないから、隠れてしばらくやり過ごそう、と考えるのであれば廃墟群島はうってつけの場所だ。

 けど、帝国で精霊たちと戦ったクロムートはいくらアリファーンの力を奪ったとはいえ疲労の方が大きかったはず。どうにか逃げて、しばらくの間は力が回復するのを待つなり休んで万全の状態にする必要が出てくる。


 誰にも邪魔されずにただひたすら眠るだけ、とかならともかく、アリファーンの力を奪ったりしたように他の精霊を取り込んだりした方が多分力の回復という意味ではそっちの方が早いと思う。


 俺たちだって例えばちょっと具合悪いな、とか思った時に少し休むにしてもただ寝るだけじゃなくて、一応栄養もとっとこ……みたいな感じで食事だって気を使う。単なる寝不足とかなら寝るだけでいいけど、風邪の引き始めとかなら食欲があるうちにそれなりに栄養補給もしておいた方が効果的だ。悪化したら食べようと思っても身体が受け付けなかったりする事もあるし。


 そう考えるとクロムートも失った力を回復させるために栄養補給はするだろう。

 となると、人が多い場所、もしくは精霊がそれなりに居る場所へ行くのがある意味で効率がいい。


 精霊がほとんど寄り付かない廃墟群島にくるのは、他の場所で食い散らかした後ならわかる。けれどクロムートの様子を見る限りそういう感じでもなかった。


 その割に俺たちが廃墟群島に来た時に向こうも居た、というのがどうにも引っかかる。

 だからこそ、もしかしてクロムートは廃墟群島全体に何らかの魔術を行使してあったのではないか、と思ったわけだ。侵入者が立ち入ったのを感じ取って、島へ戻る。そうしてそこで侵入者を始末。

 精霊の力を自分の意思で使えるようになっているなら、それくらいは容易だと思う。


 侵入者をわざわざ始末しているのは、万一廃墟群島にあったあの人工精霊についての研究とかそういった情報が外に漏れるのを防ぐため……ではないかと思われる。

 ある意味でとんでもない情報ではある。


 人工的に精霊を作って、その精霊を管理下におけば魔法が使い放題だ。

 しかもわざわざ自分の魔力を使って魔法を使う事をしなくとも、その人工精霊が自分の力を使うのだから管理している側は気軽に命令を口に出すだけでいい。


 群島諸国が人工精霊を作ろうとした最初の目的は島全体に存在する精霊の数が少ない事からだ。いざという時に精霊の力を借りれず魔法が発動しない。そういった事に困り果てた結果からだ。

 けれど、その問題が解消されたら次はどうするかなんて、ちょっと考えれば簡単に思い浮かぶ。


 魔法についての心配事がなくなれば、次は好きに魔法を使う事ができるわけだから今まで不便だったものを解消する。そうして何不自由なく過ごせるようにあれこれ発展させていって、そこで満足できればいいがそうでなければ今度は他の国への侵略なんてものが起こり得る。


 群島諸国の住人全員が島の外に興味を持たなければ引きこもって快適ライフ、で終わる話だろうけれど恐らくそれだけで済むはずもない。島での暮らしも悪くはないけど……なんて考えてる住人は絶対にいた。

 むしろ土地の狭さという点で不満がないはずがない。

 そうなれば次にやるべきことは侵略戦争とかそういうやつだろう。そういった争いに手を貸す精霊の数は多くない。けれども存在しないわけじゃない。少数であれど手を貸す精霊はいる。


 その手を貸してくれる精霊次第ではあるが、魔法を使わない単純な武力は行使する事に関しては制限なんてものはない。原始的な殴り合いの延長で殺し合いが起きるのは言うまでもない。

 けれども人工精霊なんてものが普通に使える状態になっていたら、戦況なんてものはあっという間にひっくり返る。

 まぁ、人工精霊がぶっちゃけただの合成獣キメラという点でアレだけど、それでも脅威である事に変わりはないわけだ。周囲の精霊を取り込んでしまえば、戦争に手を貸している敵対している側の精霊を減らせるし、それでいてこちら側は好きなだけ魔法が使える。


 どう考えても不公平。チートというには微妙だがそれでもその存在を手中に収めていれば圧倒的有利は確実だ。



 俺やヴァルトが廃墟群島で真実を知ったとして、じゃあその情報世間に公表するかっていうとそれはしない。俺は組織のリーダーに伝えるつもりもないし、どちらかといえば今のうちにあの島どうにかした方がいいんだろうなぁとすら思っている。


 けれどもそれ以外の誰かがどう出るかなんて知らない。

 世紀の大発見だー! とこんな実験があってこんな成功例がありましたー! なんてロクに物事考えないでただ目先の大発見だっていう部分だけで世間に公表するような奴だっていないとも限らない。

 けれどもそれがもし広まれば、まぁ、その先はお察し案件だ。


 前世で言うなら燃料だとかエネルギー問題だとかのそれ。

 目に見えない精霊頼みだったそれらが、人工精霊が普及してしまえば確実に叶えられるわけだし魔法という点においては少なくとも今まで以上に安定して使えるだろう事は確実だ。

 そこに至るまでの人体実験などに目をつむってしまえば、その先の未来は約束される。とかなんとかいう相手は出るだろうし、非人道的だと表向き反対するような国が出たとしても秘密裏に裏でやらかさないとは限らない。


 だっていたら絶対便利だもんな。

 まぁ群島諸国での実験は半分成功で半分失敗したようなものだから、すぐに同じような人工精霊が量産されたりはしないだろうけれども。


 クロムートは恐らく廃墟群島に侵入した存在を何らかの形で察知して、そうして気付いた時にマメに処分していたんだろうと思われる。じゃなきゃ俺たちがあの島で遭遇したタイミングがおかしすぎるわけだし。島に入ってすぐ遭遇しなかったのは、すぐに気付けなかったか様子を見ていたか……


 正直最初に降り立った島は重要な情報なさそうだったし、もしかしたら重要な情報がある島に近づいた事でようやく察知できた可能性もある。


「……父さんの話を聞いていると、あの廃墟群島にまた足を運べばあいつが出る、って事ですよね? 決着つけるならそれはそれである意味楽、なのでは?」


 ルフトがこてんと首を傾げながらも言うその言葉は、確かにそうではあるんだが……


「果たしてどうだろうな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ