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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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まだボケるほどじゃない



 二人が――というかヴァルトがルアハ族であるという事を聞いて、その子でもあるルフトもまた性別を変える事ができるらしいというのはわかった。

 わかったというか目の前でそうなったら理解するしかない、というか。


 けれどもそうひょいひょい変える事ができるわけでもないというのも理解した。


 まぁ一度身体の構造変えるわけだし、そんな何度も立て続けにやったらそれはそれで自分の身体を痛めつけるだけの気がする。


 つまり、ヴァルトは俺の前からいなくなった後ルーナの姿になり、そうして俺に接近。襲って逃げた、と。

 逃げた時点でまた近づくつもりはなかったはずだ。

 その後に妊娠が発覚して、余計出るに出られなかった、というのも考えられるが。


 流石にルーナに一度で妊娠してなかったらどうするつもりだったのか、というのを聞くのはルフトがいる場所では躊躇われた。



 ルーナ曰く、ルアハ族はそういうものなので生まれた時の名前は二つで一つなのだそうだ。

 決してどちらかが偽名というわけでもないのだとか。


 男性名と女性名。その二つを組み合わせたものが彼ら・彼女らの名になるのだと。


 つまりヴァルトとルーナは繋げてヴァルトルーナが本来の名で、ルフトとディエリヴァはこちらも繋げてルフトディエリヴァが本来の名だ、と。


 必然的に長くなる名ではあるが、普段は性別に合わせた名を名乗るのでそう気にするものではない、と言われた。


 その事に関してはとりあえず置いておくことにする。というかこれ以上ルアハ族に関して聞いても俺にはどうしようもないし。

 そう、友人だと思っていた男が性転換して女になって襲いに来た挙句子供を産んでたとか、ちょっとまだ自分の中でも消化しきれない……!

 というかそれ以前に性転換で合っているのだろうかこれは……

 前世だったら性転換したらそこから先また性別が変わる事もないけれど、ルアハ族って時間空けたらまた性別変える事できるみたいだしな。


 というかだ。

 ルフトはまだいい。ディエリヴァの姿になってもそこまで違いはないように思える。

 いや、体力とか結構落ちるらしいけれど。あと何か女性の姿の時の方が虫に対する無理度合が結構高いらしい。……そういやハンスと行動してた時にも何か虫が~とかで一度軍服汚した事もあったっけな。


 ヴァルトとルーナの場合は外見がガラッと変わりすぎるので同一人物であるという事にすら気付けなかった。気付けと言う方がむしろ無理では。


 流石にルフトがいる前で堂々と聞けるものではなかったのでこっそり確認してみたが、ルーナの姿の時はともかくヴァルトの姿の時に俺と性的接触をするつもりはないらしい。どっちの姿も自分だから! とか言われないだけマシだった。流石の俺もいくら女性だったらルーナだから! とか言われてもヴァルトの姿の時にそういう事できるかっていったら無理だもんな……俺は普通に女の人が好きです。


 とはいえ中にはそういう事を気にしないルアハ族もいるとか。……え、うん、お互いが同意して合意の上でならいいんじゃないかな……俺は巻き込まれなければ何かもうどうでもいい。



「ところで」

 これ以上は深く考えると覗いてはいけない深淵を見てしまいそうだったので早急に話題を変える事にする。

「クロムートとは一体どういう関係で?」

 クロムートはルーナの事は知っている。というか執着すらしている。

 けれどあの時、ヴァルトの姿の時には他人扱いだった。


「クロムートか……彼と知り合ったのは、ルーカス、きみと知り合う前の話だ」


 遠い目をしたルーナは、あれはそう……私がこの島を出て外の世界に行こうとした時の事だった……と語り始める。

 ルアハ族が暮らすこの島は、表向きは無人島だ。その裏側の空間に多くのルアハ族が暮らしているものの、何だかんだ若い者は外の世界に興味を持って島を出て行く事があるのだとか。ルーナもその中の一人だった。


 ルーナがクロムートと知り合ったのは、まさしく群島諸国が滅んだ直後の事であったらしい。

 人工精霊としての唯一の成功例、と言っていいかはわからんが、クロムートは力を暴走させ島の人間やワイバーンたち、更には少しだけ残っていた精霊を手当たり次第に取り込んでしまったらしい。

 けれど元は人間であるクロムート。何が何だかわからないままに周囲の生命体を取り込んで、己の中に力が満ちるのと同時、自分以外の何かに侵食されていく感覚に恐怖しルーナが彼と出会った時は酷く憔悴していたようだった。


 まだ自分の力についても把握できていない状態。そこで出会ったルーナ。

 また、犠牲者を増やしてしまう……そう思ったクロムートはルーナを遠ざけようとしたらしい。

 しかしルーナはその時まだ外の世界についてそこまで詳しい状態ではなかったので、彼がどういった存在であるのか、普通に考えてそれがどれだけ脅威であるのかを理解しないまま、普通に接した。

 力は有り余っているようであったのにも関わらずそこかしこに怪我をしているようだったので、魔法を使って怪我を治し、そうして落ち着くまで一緒にいて話をしたり聞いたりしていたのだそうだ。


「恐らく、今にして思えばそれは一種の刷り込みであったのかもしれない」


 自分を恐れず接してくれるルーナに、クロムートは一体どういう感情を抱いたのだろう。

 外の世界を知りたいのだというルーナにクロムートは人間時代の事を聞かせ、ルーナは力の扱い方の危ういクロムートにあれこれ助言をして、しばらくの間群島諸国で共に暮らしていたのだとか。


「ともにいたのはそう長い時間ではなかった。外から誰かがやって来て、クロムートがその一部に襲い掛かった」

 すっかり滅んだ廃墟群島にいるのであれば、外から調査に来た奴からすれば貴重な情報源だと思うだろう。一体何があったんだ、そんな疑問は間違いなく投げかけられる。


 それをクロムートは怖れたらしい。


 クロムートの考えはわからないが、俺が仮にその立場であったとして。

 ヤバい人体実験に巻き込まれて酷い目にあって、挙句人間卒業して化物になり果ててしまった、と思っていたならここで何があったんだ? なんて聞かれるのはさぞ地雷だろう。

 自分にされた事を知っている。そのせいで変化してしまった自分を見なかった事にはできやしない。

 けれどそこで出会った女性が自分を普通の人間と同じような扱いをしてくれている。

 多分、そこが心の拠り所だったのかもしれない。

 けれど外部から来た人間にあれこれ聞かれるような事になれば。


 自分の知られたくない部分に土足で踏み入られるだけではない、ルーナの事に関しても何らかの疑いを向けられたら。


 クロムートは恐らくその両方を恐れた。だからこそ、調査隊を取り込んだ。

 全滅させなかったのは、いっそこの島で何か恐ろしい事が起きているとでも言ってもらえれば手出しされなくなるのではと考えたからではないだろうか。

 もっとも、その考えは少しだけ甘くその後も調査隊らしき船はやって来たわけだが。


 ルーナは調査隊を取り込んだ時に初めてクロムートの力を見た。

 話だけで聞いている分には今まで使えるはずがなかった力が使えるようになった、程度にしか聞いていなかったものの、いざ実物を目にすればその危険性はハッキリしていた。


 だからこそ、その力は極力使わない方がいい、と忠告だけはしておいたそうなのだが。


 ここで、一度ルーナは廃墟群島を出た。

 クロムートを置いていったのか、と問えば答は是。外の世界に興味があって出てきて、そこで最初に出会ったクロムートが何だかちょっと大変そうだったからしばらく寄り添ってはいたけれど、クロムートの話を聞いてより外の世界を自分の目で見てみたいと思ったものだったから……と申し訳なさそうに言われたが、クロムートからすればそれは中途半端に自分を見捨てられたと思うのではないだろうか。


 クロムートはまだ力を使いこなせる感じではなかったし、しばらくは島の中で色々と試してみると言っていた。だからその間にちょっと外に出て、またちょっとしたら様子を見に戻ってくるつもりでルーナは旅立った。


 事実、一度はその後戻ってきたのだ。


「二度目にクロムートと出会ったのは、ルーカス、きみと出会った後だった」

「……僕?」

「あぁ、覚えていないようだけれど、私にとっては初めてルーカスと出会った日だ」

「……それはどっちの姿で?」

「ルーナだ」


 言われて思い出そうとしてみても、やはりまったくといっていいほど記憶にない。

 ヴァルトの姿で最初に出会ったのはやはり俺に助けられたから、と言って近づいてきた時の事だ。助けた記憶はない。ヴァルトの姿ではなくルーナの姿で会った、との事だがルーナと会った覚えも全くといっていいほどなかった。

 覚えているのは酒場でこっちの許可を得る前にさっさと俺の隣の席に座って話しかけてきたのが俺にとっては最初の記憶だ。


「まぁ覚えていなくとも無理はない。あの時の私はボロボロだった」


 ボロボロでな、酷いものだったんだぞ。

 なんて言っているその口調は、内容とは裏腹にどこか楽しげに聞こえた。


 ボロボロ……なぁ? ますます記憶に無いんだが。

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