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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話

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真実は斜め上



 神域、と言われている割には何か普通の島だな、と思いながら歩いていた。

 いや、神域とか聖域とか言われるところって何かもっとこう……さぁ?

 言語化できないけど大自然の前に人は無力だ、みたいな自然の雄大さとか何か知らんが畏怖っぽい感情とか出るかなと思ったんだけど、至って普通の島だった。

 そこらにある無人島と大差ない気さえしてくる。


 そこらにある無人島との違いは海を移動する時にも見えた一際大きな木だろうか。


 ……あぁ、あと、無人島って言ったけど多分ここはそうじゃないな。一見してすぐわかる感じじゃないとはいえ、一応道がある。獣道といった感じではなく、誰かが通る事を想定して作られた感じだ。とはいえ巧妙に隠されてるっぽいが。


「それで、どこに行くんだ?」


 仮にここが何かめっちゃ近未来もビックリするくらいのハイテクノロジー溢れる都市でもあるとかいうなら、ディエリヴァの治療云々もわからなくもない。けれども見渡す限りは大自然に覆われた、言っちゃなんだが未開の土地みたいなものだ。


「聖樹の元へ」


 ヴァルトの言葉は簡潔だった。言葉の裏を読むどころかそうとしか受け取れないくらいの簡潔っぷり。

 聖樹、ねぇ……樹齢何百……いや、何千年だ? と言いたくなるくらいのあの大樹なんだろうけど、そこで本当にディエリヴァがどうにかなるんだろうか。

 大樹に宿る精霊とか力貸してくれんの……?

 ゲームだとそういうのあるけど、そもそも精霊はそこらを漂うものであって大樹に宿るかどうかもちょっとわからん。

 まぁ、俺にくっついてきてる精霊たちの事を考えると、大樹が気に入ってそこに棲みついた精霊とかいてもおかしくはないんだけれども。


 色々と聞きたい事はあるものの、先を行くヴァルトが果たして答えてくれるかは微妙なところだ。行けばわかる、でごり押しされる気しかしない。

 どちらにしても聖樹とやらの場所まで行けば事態は進展する。


「ディエリヴァ、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」


 一応小声で問いかけると、すぐさま返事が返ってきた。まだぐったりとしているものの、意識ははっきりしているようだ。


「何でですかね、ここ、少し、懐かしいです」

「…………そうか」


 ディエリヴァがこの島を訪れたのは今日が初めてだ。過去に訪れた事はないだろう。彼女の生い立ちを考えれば生まれてから今の今まで帝国を出た事がないのだから。

 けれどもそういやコルテリー大森林の中を行った時も少しばかり活き活きとしていた事を思い出すと、それと同じようなものだろう、とは思う。


 生憎俺の故郷とは似てるかもしれないがここまでじゃなかったしな、と思う部分もあるので俺は懐かしさとかそういうの全くないんだが。


 さく、さくと草を踏む音が規則的に響く。


 周囲を見渡してみても、歩いている地面に視線を落としてみても、神域と言われているとは到底思えないくらいに普通の島にしか見えない。踏み入ったものに祟りが、なんて言われていたらしいけれど、ここに来る事で一体どんな祟りに見舞われるというのだろうか。


 もっとこう、島に足を踏み入れた途端何かくっそ長い階段の先に神殿とかあって、階段の手前に門とかあってそこでこれより先資格無き者進むべからず、みたいな警告とかあったりする上で、尚も進んだ結果防衛システムみたいな感じで機械仕掛けの天使とかそういうのが襲ってくる、みたいなのであればとてもわかりやすいのだが。

 ゲームだと割とそういうのあるよね。


 いや、ゲームを基準に考えるからダメなのかもしれないけど。

 だがしかしそれくらいのわかりやすさがあってもいいのではないか、と思うわけだ。


 草葉の影に隠れるようにしてネズミらしき生物が駆けていくのが見えた。

 ふと頭上に視線を移動させてみれば、木々の上にはリスらしき生物もいる。遠くから鳥の声も聞こえているし、廃墟群島と異なりこちらには普通に生物が存在しているようだ。


 進んでいくうちにさぁっと水の流れる音が聞こえてきた。音がした方へ視線を移動させれば草木の向こう側に川があるのが見えたし、何なら魚が跳ねるのも見えた。


 神域だとか、ディエリヴァの容態だとか、そういったあれこれを考えなければここは確かに過ごしやすい場所なのかもしれない。エルフ的に。


 そこから更に進んで、ヴァルト曰く聖樹のもとへとたどり着いた時には、頭上に木々の葉が覆っているから薄暗いのか、それとも単純に夜が近づいて暗くなってきているのか判断がつかなかった。


「…………これが、聖樹」


 まぁ遠目で見てもでっかい木だなと思っていたけど、近くに来たら尚の事。

 首を上に向けて見上げても木のてっぺんなんて見えやしない。見上げた時についぽかんと口が開いてしまった事に気が付いて、何事もなかったかのように閉じる。


「それで、ここで何をするつもりなんだ?」

 ディエリヴァの治療をするにしても、ここでどうするつもりなのか。

 問いかければヴァルトは更にこっちだと手を振って進んでいく。

 聖樹へ更に近づいていくヴァルトの後を、仕方なくついていくしかない。


 ヴァルトが聖樹にある程度近づくと、唐突に周囲が明るくなった。

 漫画あたりならポゥッとかそういう効果音がくっついてきそうな感じで、淡い光が周囲に灯る。


 周囲にある木々の幹についている苔が、所々発光しているようだ。


 わざわざ魔法で周囲を照らす必要がなくなったので、そのままヴァルトの所へと足を進める。


「彼女をここへ」

 そう言ってヴァルトが指し示したのは、聖樹の根元だった。根元と言っていいのかはあまりの大樹っぷりに規模が大きすぎてわからないが、木の幹に背を預けるようにしてディエリヴァを下ろす。

 ディエリヴァが聖樹に触れた途端、ほんの僅かだが顔色が良くなったように見えた。周囲の照明によるもの、ではないだろう。そこまで周辺の苔は光り輝いているわけじゃない。むしろこの微妙な光具合は見ようによっては逆に顔色を悪くみせる感じではなかろうかとすら思える。


「ディエリヴァ、ここなら戻る事になったとしても負担はそうかからない。一度、戻るべきだ。その怪我は本来きみが受けたものではないのだから」

「もど、る……?」

「あぁ、そのままでは身体を蝕まれ続けるだけだ」

「でも」


 ヴァルトの言葉の意味を、ディエリヴァは最初わけがわからないといった様子でこたえ、視線をヴァルトに向けていた。しかし直後、まるで何かを窺うようにこちらへと視線が向けられる。


 …………まぁ、魔法とかある世界だし、とんでもな出来事があったって俺は驚かんぞ、とは思っていたんだけども。前々から何となく感じていた違和感だとか、そういったものを思い出しながらこれ外れてたら俺絶対赤っ恥だよなとも思うわけで。


 けれども、恐らくディエリヴァはヴァルトの言葉の意味を理解していて、その上で俺を気にしている。

 気にするべき要素はなんだ、と考えれば結論は出てしまうわけで。


 気付かないふりをするべきなのかもしれない。

 けれども、それもまた一時しのぎにしかならないよなと思えるもので。


 これが一時的に出会っただけで短い付き合いの人物であればそうしても良かったんだが、流石に自分の血縁関係者相手にそれはないだろう。



「ディエリヴァ、いや――ルフト」


 俺がそう呼べば、ディエリヴァは大きく目を見開いていた。同時にヴァルトも何故だか驚いたようにこちらを見ている。


「知って……いや、気付いて……!?」

「僕の事は気にせず治療に専念すればいい」

 ヴァルトが驚きの声を上げるも、とりあえずはそれだけを告げる。


 これから何が起きるかはわからないが、それだけを告げて一先ずディエリヴァとヴァルトに背を向ける。

 ヴァルトはわかっているようだったが、俺は具体的に何がどう、というところまではわかっていない。気になるからとりあえず見てていいだろうかとも思ったが、もし今の俺の言葉が正解だったとして。

 ディエリヴァからルフトの姿になったとしたら、状況的に女装してるようなものになってしまうだろう。俺は自分の意思で女装するけどルフトの場合は不可抗力だ。あまりじろじろと見ない方がいいのだろう。きっと。


「では、今のうちに」

「は、はい……」


 背後では戸惑いしきりな声が聞こえてきたが、ヴァルトの方が先に我に返ったらしい。

 背を向けていてもなおこちら側に溢れる光、だとかそういったものは何もなかったけれど。


「ルーカス、もう振りむいて大丈夫だ」

 ヴァルトの声がして、言われるままに振り返る。


 そうしてそこには、とても気まずい表情のルフトがいた。魔法で服を変えたのか、流石にディエリヴァが着ていたエプロンドレスではなく、最後に帝国で見た時の白い軍服の姿で。今までのルフトとの違いといえば、顔の上半分を隠す仮面をつけていないという事くらいだ。


「……こうなった以上は一つずつ、説明していくべきなのだろうな」


 てっきりルフトがそう言うものかと思っていたが、観念したように告げたのはヴァルトだった。

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