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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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当事者だけど傍観の構え



 背後からくる視線が痛い。

 お父さん気付いてたんですね! 凄い!!

 とか言い出しそうな勢いでキラッキラした目を向けられている。


 ちゃうねん……俺そういうの全く一切これっぽっちも気付いてなかったから……気付いてたのハウだけですから……!


 今のうちに訂正しておかないと大変な事になりそうな予感はするけれど、生憎今そんな事を話していられる余裕がない。

 何故ってクロムートとの戦闘が始まったからな!!


「ハウ!」

「大丈夫わかってる」


 にかっと笑みを浮かべているが、果たして何をどこまでわかっているのか……

 まぁ、ハウだ。あいつが俺を殺すような展開に持ち込む事はないとわかっているからそこだけはまだいいんだけども……これがそこらを漂ってるたいしてお互い知らない者同士の精霊なら俺を守るけどディエリヴァは対象外、とかで見捨てる可能性がとても高いわけだが、ハウはそうならないだろう。

 そうなった時に俺がディエリヴァを庇う可能性が高いと理解しているし。


 ハウがディエリヴァを巻き込むような事はないと思うものの、クロムートがどう動くかまではわからない。

 俺が庇う事を見越してディエリヴァに攻撃を仕掛けてくるかもしれないし、万一庇えなかったとして我が子を見捨てるか、とかなんとかいってこっちの精神的動揺を誘う可能性もある。

 俺が本気でディエリヴァの事をどうでもいいと思っていて死んでもどうでもいいくらいに思っていたらそういった挑発は一切意味がないわけだが、生憎俺そこまで冷血漢じゃないから……もしそういう展開になったら滅茶苦茶動揺する。


 とりあえずこの場はハウがどうにかしてくれる気があるらしいので、俺は振り返ってディエリヴァを速やかに抱えあげた。

「お、とうさ」

「閉じてろ、舌を噛むぞ」

 一体何を、と聞くつもりだったのだろう。けれどこっちもあまり長々説明している余裕はない。

 抱えあげて、そのまま一気に走り出した。

 さっきここを見回した限り、一応地上からここに来るための通路があるのは把握している。鉄製のくっそ重々しい扉は閉じたままだが、

「吹っ飛べ!」

 知った事かとばかりに魔法で破壊する。


 普通に生きてて鉄がひしゃげるまではともかく力任せに引きちぎられるような音なんて聞く事がないと思うが、どう表現していいのかわからないがとりあえず不協和音極まりない轟音を聞きながらも一気に通路に飛び出た。

 通路に明かりはない。当然だろう。人目に触れないように隠してある場所だ。利用する時だけ明かりを灯してはいただろうけれど、俺たちは今回ここを通って来たのではなく地上から穴ぶち開けて落下してきたのだから。


 来た時同様上に開いた穴から戻ればよかったのかもしれないが、そこでハウとクロムートが一戦おっぱじめた時点でそこから戻るというのはいつ巻き込まれるかわかったものじゃない。

 クロムートの狙いは俺で、ハウと戦っているとしてもその場から逃げ出そうとしている俺を狙わないはずがない。足場がしっかりしてるならともかく魔法で空中移動してる不安定なところを狙われた場合、上手く躱せるかどうかもわからない。

 ディエリヴァだって危険に晒す事になる。どっちにしても今が危険である事に変わりはないが、それでも抵抗できないまま攻撃を食らう可能性よりは、ある程度どうにかなりそうな方法を選ぶのは当然だった。


 というか、空中を移動する魔法の時って大体ハウが力を貸してくれてるんだけど、そのハウが今戦闘中だからな……片手間に力を貸してくれたとして、安定感が多分消失してそうっていうのもあると空中を行こう、とは思わんな。他の精霊が力貸してくれるとしても、空中移動に関してはハウより精度がちょっと……

 前に試した時は寝てる時に階段から足を踏み外す夢見た時みたいにびくっと身体が反応するような状況が何度も立て続けにあったからな……布団で寝ててもあの現象結構ビックリするのに起きててしかも空中で、ってなったらそのうち驚き過ぎて心臓止まるんじゃなかろうか。


「光よ!」


 暗闇に目が慣れるのを待っている時間も惜しく、とにかく魔法で照らす。

 通路の先に階段が見えた。まぁ地下だからそりゃ地上に行くには階段かこの建物があった外のような坂道だろうよ。

 螺旋状になった階段を一段飛ばしで駆け上がっていく。上下の振動がきついがだからといって速度を緩めるわけにもいかない。

 クロムートの狙いが俺で、現状ハウが食い止めてくれているにしても戦いながら場所を移動してくる可能性はある。人が通るだけならそう問題のなさそうな階段だが、クロムートが魔法で攻撃をしたら恐らくこの階段あっさりと崩壊する。追いつかれる前にせめて地上へ出なければ……!


 揺れに関して一切何の考慮も配慮もしないくらいの勢いで駆け上がっているため、ディエリヴァも大人しく口を閉じている。今下手に何か喋ろうとすれば間違いなく舌を全力で噛みかねないから当然だろう。


「開門!」


 階段の終わりが見えてきて、その先にまたも重々しい雰囲気すら漂う頑丈そうな扉が見えたので俺は再び魔法を発動させる。さっきと違う言葉だったのはちょっと酸素が足りなくなってきたからだ。とりあえず精霊に意味が通じればどうにかなる。

 ごぎゃっ、という音と共に扉が砕け散る。扉の先は薄暗く、何かで塞がれているらしかったので、

「吹っ飛べ!」

 またも魔法で解決させる。


 そこは恐らく研究者たちが休憩するために利用している、といった感じの部屋ではあった。

 本当に休憩などに利用されていたかはわからないが、パッと見はそう重要そうな部屋ではない。大半の食器が割れていたが、軽食ならここでとっていたんだろうなと思える部屋。

 その壁の一部がどうやらスライド式になっていたらしく、たった今吹っ飛ばした壁が近くにあったテーブルを薙ぎ倒す。

 テーブルの上に乗ったままだったカップが床に落ちて割れて耳障りな音を立てる。


「あの、お父さん」

「何だ」

「さっきのあの精霊、大丈夫なんですか!?」


 階段を駆け上がっていた時は舌を噛むだろうからと黙っていたディエリヴァだったが、それでも何かを訴えるように見ていたのはわかっていた。

 もう舌を噛む心配もないだろうと思ったからこそその疑問を口にしたのだろう。

 ディエリヴァは直接見ていなくとも、帝国であった事をある程度話していたのでクロムートが精霊の力を取り込んだという事は知っている。だからこそその疑問は当然とも言えた。


「問題ない」


 言いながらもとりあえずこの部屋から出る。

 一階はほぼ素通りしたも同然なのでここがどのあたりにあって、入り口があった場所からどれくらい離れているのかさっぱりだがあの地下研究室というか儀式部屋みたいな所から通路を通ってきた距離を考えるにそう遠くないはずだ。


「え、でも」

「ハウなら大丈夫」


 帝国でもハウはクロムートと一度やり合っている。アリファーンが鎖に捕らわれていたのも見ている。

 精霊の力を取り込んでいるという事も知っている。


 あいつらの中で多分最も抜け目ないのはハウだ。クロムートに関してそれだけの事を知っていて、油断をするとも思えないし他に何か隠し玉があったとしてもハウならどうにか対処できるだろう。


 なので俺がするべきことはとりあえずハウの心配などではなく、この場から速やかに撤収する事だ。


 部屋を出て多分こっちが最初に足を踏み入れたフロアだろうと思う方へ行くと、大穴が開いた床を前にアルトが立ち尽くしているのが見えた。


「これは……一体……」


「あ、アルトさん」

「そういやいたな」

「え、あのお父さん、ついさっき別れたばかりの相手ですよ?」


 ディエリヴァの呟きに完全にアルトの存在を忘却していた事実に気付く。

 そういやそうだった、こいつに案内された研究室だけじゃあのファイルに記されていた研究というか実験というのも烏滸がましいおぞましい所業の数々はできるはずがないと地下とかに隠し部屋があるんじゃないかと思ってこうなったんだったな、とついさっきの出来事だというのに本当に地下に決して公にできない部屋があったり挙句クロムートがいたりしたせいでアルトを置いてきたという事実とか些細な事すぎて、なぁ……?

 いやー、もう三百年も生きてると割と細かい部分からぽろぽろ忘れてくんだわ。年かな。


 エルフの三百歳はまだそこまで年じゃないと思いつつもそんな事を考える。

 人間基準なら完全に年です。前世の記憶思い出して人格も割と前世寄りになった以上どうしても感覚がエルフというよりは人間寄り。


「!? 無事だったか!」


 俺とディエリヴァの会話に反応してアルトがこちらへ駆け寄ってきた。顔の上半分を隠すように相変わらず骨兜が鎮座ましましてるので表情はわからん。けれどもその声から少なくとも死んでなかったのか、残念、というような雰囲気はない。いや、そんな事思われてたら流石に俺もちょっとは引くけど。


「ここは危険だ。速やかに撤退するぞ」

「撤退、とは? 一体何があった?」

「現在この下で俺に憑いてる精霊とクロムートが交戦している」

「クロムートだと!?」


 彼の存在を知らないはずはないだろうけれど、それでもまさかここにいるという事実には驚きを隠せなかったのだろう。思わずといった具合に叫んでいたが細かい説明をしている余裕はない。ディエリヴァを抱えたまま走って外へ出る俺に「一体どうして」と問いかけながらもついてくる。


「正直走りながら会話すんの疲れるんだが」

 ともかく今はこの場を離れる事が最優先だ。俺が離れればハウも周囲を巻き込みかねない威力の攻撃だって可能になる。

「いやしかしだな」

 なおも言葉を募ろうとしてくるアルトだが、建物から出た矢先地の底から響くような轟音に反射的に口を噤んだ。


 何も知らない者が今の音を聞いたのであれば、きっと地獄の釜の蓋が開いたに違いない、とでも思っただろう。それからワンテンポほど遅れて大地が揺れた。

 まさかそうなると思ってなかったためにバランスを崩して、咄嗟に体勢を立て直そうと踏み止まったせいで足が止まる。

 踏ん張りがきかずディエリヴァもろとも倒れこむ、なんて事は回避したものの再び走り出すには揺れが酷すぎて難しい。建物の外に出ているので天井が崩れ落ちてくるなんてことはないし、周辺の木々がバタバタ倒れてくる、といった感じではなさそうなので今の所は大丈夫だとは思うが……


 なんて思っていたら、群島諸国にとって恐らく一番闇の深い場所だろう研究所でもあった建物が真上に吹き飛ぶように突き上げられ、空中で爆発四散した。


「ま、守りの檻ッ!!」


 呆然とその光景を見守りそうになったが落下してくる瓦礫の数と勢いにそんな事してたらヤバいと咄嗟に魔法を発動させる。建物がそこにあったと言われてもわからないくらい綺麗さっぱりとしたそこには、宙に浮いた状態のクロムートとハウが対峙したまま睨み合っていた。


 絵面が完全に少年漫画とかのバトルシーンそのものだな、なんて現実逃避のように俺はそんな事を思っていた。いや、両者バトル漫画で戦闘シーンこなすにはちょっと見た目が不似合い極まりないけれども。

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