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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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とても指摘できない雰囲気



 そもそも合成獣というのは品種改良の行きつく先、みたいなものだった。少なくともこの世界では。

 皆が皆、過ごしやすい土地で暮らせればいいが、そういうわけにはいかない。種族によっては過酷な土地で暮らす者も当然いるし、追いやられて仕方なく、といった者は種族問わずにいる。


 寒さに強い種族が寒い場所で暮らすのは当然だし、その逆もまた然り。

 けれど家畜の場合はそうもいかなかったりする。


 その土地で最初から生きてるだとか、長い年月を経てそこの環境に適応しただとかであればまだしも、他の土地から連れてこられたばかりの家畜はちょっとした環境の変化で体調を崩したりもする。まぁこれは人でもよくある話だ。慣れない環境で初っ端から元気いっぱい過ごせるかと問われれば人によるが、大半は疲れの蓄積度合いも今まで過ごしていた場所と比べれば大きく異なる。


 動物の種類によっては乳が出なくなったりだとか、卵を産まなくなったりだとか。

 家畜として育てている側からしてもそれは困る。


 普通はそういう場合、その地方にいる同じ種類の動物と掛け合わせるだとか、長い年月かけて環境に適応してもらうようにしていくとか、いっそ家畜は諦めてそれらから得られる物は他の場所から入手するかに分かれるのかもしれない。

 まぁ家畜育てるの諦めるとなると損害も大変な事になるので軽率にそれを選ぶ奴はあまりいないようだが。


 けれどもあまりのんびりしていられない時、そういった時にとられる手段が合成獣だった。


 帝国の研究者がやらかしてたような化け物製造は流石にどうかと思われるが、急を要するような品種改良の際などでは割ととられる手段であったりする。

 まぁそれが行き過ぎると化け物生産になるから、実験を行うにしても国から結構色々と厳しく管理されてるんだ。本来は。

 それを無視してやらかす連中が多かったせいで合成獣キメラは新たなモンスターだ、みたいな認識が広まってるのも事実なわけだが。


 確かに生体兵器として、みたいな感じで開発しようとしたところもあるし、結果それが暴走して、なんて事もあった。そのせいで悪いイメージが根付いてしまったのも否定はできない。

 一応、本当に一応ちゃんとしたのもあるんだけどな……


 いやここでやらかした合成獣に至っては色んなヤバい呪法も混ぜ込んでどう足掻いてもアウト判定しかでないようなものなんだけども。

 あんだけ壮大な事のたまっといて結局のところ作り上げたのは合成獣キメラ

 いや、それでも凄いとは思うよ? 合成獣になった場合、それらに使われた元になる素体って意識がなくなって言葉もロクに喋れない獣となり下がったり、はたまた言葉を解する事はできても今まで培ってきた知識とかそういうのぶっ飛んで何かヤバい生命体の理論で生きてるみたいなのとかあったらしいし。


 そう考えるとクロムートは自分を失ってないってだけでも凄いとは思う。


 だってあいつ色々混ぜられた挙句、更に精霊の力を取り込んだりしてるわけで。

 合成獣として考えるならあれは間違いなく歴史に名を遺すだろうくらいの代物だ。ヤバい生物的な意味で。


 いやでもあんだけ人工精霊だのなんだの言っといてとどのつまりは合成獣て……


 ……まぁ、当時の群島諸国の技術的な集大成でもそこが限界だった、って事なんだろうな。

 マジで精霊作り出してたら歴史が色々変わってた気しかしない。


 なんだろうな、この、圧倒的拍子抜け感……

 サスペンスとかで黒幕がとんでもなくやべーやつだと思ってたら、実は真犯人序盤に出てきた三下で色々とヤバい事件は偶然のピタゴラスイッチによって発生しただけとかいうくそしょぼなオチを見せつけられた気分に近いものがあるんだけど。

 古本屋で買ったミステリー小説序盤のページで犯人にマーカーされてて即バレしたのとはまた違う虚無感よ……


「だいじょぶ? ルーカス」

 目に見えてぐったりしだした俺に、ハウは首を傾げながら問いかけてくる。

「あー、まぁ、何とか」


 相手が精霊だったら戦うにしても勝ち目が低すぎるよな、とか思ってたけど実際は精霊に限りなく近いだけで精霊じゃない合成獣、と考えればまぁ、何かどうにかなりそうな気がしてくる。


 さっきまで人工精霊唯一の成功例、とか思ってたのが実は合成獣というオチが待ってたとは流石に俺も予想外だった。駄目元できた割にガッツリあいつに関しては知る事ができたわけだ。得体の知れない相手だったクロムートが合成獣だった、となれば何か途端にどうにかできそうな気がしてくる不思議!


「とはいえ、問題はあいつの居場所なんだよな……」


 帝国が崩壊した時にアリファーンたちが倒し損ねて逃げられて、その時点で不利を悟って未来永劫俺には関わらんとこ……って思うタイプならそのまま放置でもいいような気がしてるんだけど、あいつはルーナに会うために俺を狙っている。

 ……そもそも俺だってあの女とはあれ以来一切会ってないんだけど、それでもわざわざ襲ってまで子を作ろうとした相手、という事でルーナの中で何らかの感情があるのは事実なんだろう。多分。

 まさかそこそこ見目のいい男なら誰でも良かったとかではないはずだ。

 ルフトやディエリヴァに聞かせた父親の話から、もしかしたら本来父親になってほしかった相手が他にいたかもしれないが、もしそうならクロムートもそちらを血眼になって探していた事だろう。


 とりあえず俺の身体を乗っ取ればどうにかなると思われてる節はある。とても迷惑だが。

 クロムートに関する情報を得る事は確かにできたけど、今あいつがどこにいるとかそういう情報ではなかったのでこれから先どうしたものやら……


「ん? ルーカスあいつ探してるの?」

「一応な。帝国で倒してれば良かったんだが逃げられただろ」


 まぁ逃げられたのは俺っていうかその時戦ってた精霊たち――アリファーンとハウとエードラムなわけだが。

 あの時の俺は早々にハンスを抱えて穴の中に自らボッシュートしてルフトを探しに行ってたから、逃げられたからとてそれに関する文句を言える立場でもない。


「なんで? ほっといてもそのうち出てくるでしょ?」

「そのうち、がいつになるかわからないから困るんだろう。何の準備もできてないうちに襲われてみろ。最悪死ぬぞ、僕が」

「そっか、死ぬのは困るね。じゃあ、えいっ☆」


 ぼんっ、という音がしたのは直後の事だった。

 ハウが右手の親指と人差し指を立ててピストルっぽい感じにした状態で向けた先は、ディエリヴァだった。

 いや、微妙にディエリヴァから外れていたかもしれないが、一連の流れを見る限りディエリヴァに向いていたと思っても仕方のない状態だった。


 次いで聞こえてきたのはぐおお、とかいう悲鳴というよりは叫び。


「クロムート!?」


 ハウが仕掛けた魔法は顔面に直撃したらしく、両手で顔を覆っているが紛れもなくそこにいたのはクロムートだった。え、というかいつからそこに……!?


「え、き、きゃぁっ!?」

 まさか自分の背後にいるとはディエリヴァも思わなかったのだろう。ハウが発動させた魔法の衝撃に驚いていたようだが、背後で聞こえた声にぎょっとして振り返り、クロムートの姿を確認して悲鳴を上げて慌ててこちらへ駆け寄ってきた。


「くっ、気付いていたか……!」


 いや俺は気付いてませんでした。ハウが気付いてなかったら多分そのまま奇襲攻撃とかもろ食らってました。そう考えると突然何しでかしたんだと思ったがファインプレーだったな、ハウ。


 なんて事は流石に堂々と言えるものではない。というか言ったら色んな意味で台無しだろこの状況……


「そりゃあね、気付くよ。だってお前、アリファーンの力ちょっととはいえ吸い取ったんだから。気付かないはずがないんだよ。どんなに上手く隠れていてもね」

 ちょっとばかし胸を張って言うハウではあるが、気付いていたのはハウだけだ。何かその態度から俺まで気付いてたみたいな感じだが、俺は気付いていない。

 けどハウの態度からして俺が帝国の事を持ち出した時点で、俺は気付いてるけどあの時逃がしたのお前らだからきっちり片を付けろとかそう言う風に受け取られた可能性はある。


 たまに斜め上の受け取り方されて事態がより悪い方に転がる事もあるんだが、今回は俺にとっていい方に転がったようだ。

 ディエリヴァを背に庇うようにしながら、クロムートを見据える。


 帝国で見た時と姿はそう変わらない。痩身痩躯の強い風が吹いたらそれだけで飛んでいってしまいそうなひょろりとした見た目。

 けれど目は爛々と輝き、というかギラギラとした輝きでもってこっちを見ている。完全に獲物を見るそれだった。ひぇっ、一人で暗闇とかで遭遇したら悲鳴上げてた。こっわ。


 一応ディエリヴァが背後にいるからまだ虚勢で平常を装ってる部分ある。


「ふむぅ……あの時の精霊の力を奪ったのが仇となったか……」


 セリフだけなら困ってる感じだが、実際そんな様子は全くない。


「とはいえ、あれだけ力を持つ精霊の力を一部とはいえ得たからこそ、回復するのに時間がかからなかったというのもある……何がどう転ぶかわからぬものよな」

 くく、といかにも悪役っぽい笑みを浮かべている時点で余裕綽々だった。


「何でお前がここに……?」


 帝国で逃げたこいつが、俺をずっと尾行していたとかいうはずもないだろう。確かに数日帝国で過ごしてはいたが、あの時点でこいつはまだ回復していなかったと考えられる。

 それ以前に下手に存在を察知されるような場所にはいなかったはずだ。あの時点ではミリアの鳥精霊だっていたのだから、なるべく探知されないよう遠くに隠れていたと考えられる。


 その後仮に俺を追うにしてもだ。

 だとするならクルメリア大陸、ミズー集落にも入り込んでいたというのだろうか。いや、流石にそれはないはずだ。魔物の侵入を防ぐ結界があるのだから、合成獣で材料に魔物の一部も使われたらしいこいつは場合によっては引っかかる。勿論魔法で欺く事は可能だろうけれど、力を回復させてる状態でそこに力の一部を割くのは正直あまりいい選択とは言えない。


 ゲームでいうならボス戦で大ダメージ食らって回復させないといけないのに自分のターンで操作ミスって全然関係ないコマンドやらかして1ターン無駄にするくらいの無駄っぷり。


 というか、仮に力を回復させつつ俺の後をついていったとしてもだ。

 俺は気付いていなかったわけだから、隙を見て攻撃仕掛けるチャンスはいくらでもあった。けれどもそういった事はなかったのであれば、クロムートは俺の後をついてきたというわけではないのだろう。


「ふ、流石ルーナが認めた相手……まさかこうも早くわたしの拠点を見抜かれるとは……!」

「ふふん、どうだーすごいだろー」

 えっへん、とばかりにハウが胸を張る。

 いや待って。


 今まさにとんでもない勘違いが発動している……!


 クロムートが人工精霊として色々された地であるというのは知ったけど、拠点……とは?

 そしてハウがさも当然ですとばかりにふんぞり返っているのでクロムートは俺が確信をもってここにやって来たと思い込んでいる。


 いや違うんだ。それ勘違いだから……


 思い切って指摘したいけど、下手な事言うと余計面倒な事になりそうだし……自分で立てたフラグならまだしも、そうじゃないフラグが何で俺に降りかかってるんだ……ストップ勘違い……そのフラグは後々俺が過大評価されてとても面倒な事になるやつ……!

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