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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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深淵



 まさかの真実に驚いたのは確かだが、既に滅んで久しい国の話だ。衝撃はそこまで大きいわけでもない。


 疑問は残っているものの、それも今すぐ解明したいと思える程のものでもなく。


「……アルトは何でまたこの島を調べようと?」

「…………色々とあってな」


 長い沈黙のあとにそれだけを言われる。

 まぁ、事情があるんだろうなとは思ってるものの、どうにもやりづらい。

 何故ってこいつがヴァルトであるくせにアルトと名乗ってこっちとは完全に無関係装ってるからだよ。

 こっちも場合によってはズカズカと踏み込む事になるとは思うけど、目に見えない境界のようなものを展開されてる気がして話を振るにしてもどうにもやりにくい。


 ヴァルトであるならともかくアルトとして接する事にしてあるから、ヴァルトなら知ってるだろう前提の話とか当たり前のように振れないしな。初っ端から取り繕えてないんだから、その時点で諦めて正体明かしてくれればよかったんだが……


 とりあえず小国の集まりであったと言われるよりは、実際この島を見て一つの国だったと言われても納得はできた。小国の集まりであったなら、各島にその国の王と呼べるべき存在がいただろう場所があってもおかしくはない。けれども島の規模から実際は町長とか村長とか、場合によっては領主クラスの人物が住んでただろう建物もあったけど、国の長と呼ぶような相手が暮らす場所と見るには些か……というようなものだったので。


 島全体を観光地として盛り上げようというのであれば、それぞれの島の特色を活かして……とか言われればそれもわからないでもないけれど、国の集まりだったならそれぞれ思惑とか自分の所の島がなるべく利益を得るように、とかいう暗躍もあったはず。

 けれども何というか、あまりそういったものが感じ取れなかった。いや、客の目に触れるようなところでそういう露骨なのが出てたらそれはそれでどうかと思うわけだが、何だかんだ今まで見てきた島を思い返すと観光地として全体的に纏まっていて、それが逆に妙だなと思ってはいたのだ。


 けれども実はこの島が全体で一つの国であると言われればその纏まり具合も納得できる。


「あの、でもなんでわざわざそんな事を……? 小さな国の集まりを装ってそれで何か得する事ってあります……?」

「全く無いわけじゃない。とはいえ、ここは位置的にも微妙な場所だし大国として脅威と思われるよりは小国として周囲から敵意を抱かれないようにしておいた方が都合が良かったんだろう」


 これが大陸の……例えばフロリア共和国とか帝国があったような所なら、小国であればすぐさま帝国に狙われていた可能性はある。けれどここは島で、侵略するにしても船は厳しいし上空から行けるような手段は周辺の国にはない。逆に警戒すべきはワイバーンだったが、そのワイバーンをこの国は侵略に使うのではなく観光に使った。

 自分から島の様子を見せてくれる状態で、しかもどこもかしこも観光地状態。全部が全部ってわけじゃないが、ある程度の警戒は薄れるだろう。

 勿論警戒を完全に解除する事はないとしても、仮に観光客を装ってスパイが来たとして。

 正直ワイバーンでの移動が前提の場所に重要な施設を置かれた場合そこへ行くだけでも一苦労だし、ましてやどの島が一番重要なのかも判明しない。隣の島に城だったかもしれない場所があったりしたし、その前の島にだって一応その島の重役が住んでそうな場所はあった。


 一つの国としてなら重要な場所も考えられそうだが、小国の集まりと言われていたならまずはどの島が一番力を持っているか、から探らなければならない。

 スパイが来たとしても、ある意味で面倒な所だなとは思う。

 全部の島をじっくりゆっくり見て回るにしても時間はかかるし、ましてやスパイであれば観光場所以外の部分も探らなければならない。けれどもそういう事を各島でやれば最初はよくてもそのうち島側から怪しいと思われる可能性は上がる。小国の集まりならともかく一つの国であるというのであれば、その怪しい人物には当然各島に注意喚起がなされるだろうし、移動手段がワイバーンであれば情報が流れるのは早いだろう。


 熱心な観光客であればともかく、スパイであると判断されれば、そのうち秘密裏に始末される可能性は大。


 スパイを送りこんだ国から何か言われたとしても、まだ開発してない危険な場所に勝手に足を踏み入れたとかで事故死しました、なんて言ってしまえばそれまでだ。いくら怪しまれたとして、調べるためにそこへ行くにも気軽に行けるわけじゃない。


 ……全部じゃないけど割と全体的に島を見せているようにして、怪しい部分がないように見せかけてるという事か……


 大陸にあったならそうはいかなかっただろうなと思う。海流の流れ的にも外からの侵入は難しく、閉鎖的な場所だからこそ、と言ってしまえばそうなのかもしれない。


「……けど、考えようによってはつまり、外に見せないようにしていた部分は」

「そうだな。この国が滅んだ理由を調べようとしている者は他にもいたが……正直お勧めはできない」


 なんだかとんでもなく闇の深い案件を見る事になるのでは、と思い始めたわけだが、それを否定する事なくアルトは頷いてみせた。いやそこはせめて否定してほしかった。


「お勧めできないのに、調べてるんですか?」

 ディエリヴァの疑問ももっともだ。調べに来てる時点でお前が言うな案件では。俺も人の事言えないのかもしれないけど、俺は別に群島諸国がどうして廃墟群島になってしまったのか、に関してはそこまで興味がない。

 国なんて滅ぶ時は滅ぶし人だって死ぬ時は死ぬ。あまりにもおかしな状況であればそりゃ俺だってどうしてかな、とか思うかもしれないがそうじゃなかったらそういうものかで流す自信しかない。


「そうだな、少なくとも私は調べなければいけなかった」


 ディエリヴァの疑問に静かに答え、アルトは既にここを調べていたのだろう。慣れた足取りで階段を上り二階を通り過ぎ三階へ向かうといくつかの部屋をスルーして奥まった部屋のドアを開けた。

 そこは資料室のようだった。日のあたらない、というか窓の無い部屋。壁を埋め尽くす勢いで並んでいる棚。そこに詰め込まれた紙。紐で閉じられただけのものが多い。これは取り出すのも注意しないとうっかり破いてしまいそうだ。

 それ以前に窓がない挙句唯一の出入り口であるドアが開いていても冬の日没手前くらいの暗さがある。


「光を」

 魔法の明かりならそう影響もないだろうから、と思って発動させる。

 部屋の中央に寄せられている机の上には書きかけらしき書類が残されていたが、見た所それは然程重要な情報でもなさそうだった。

 というか、この島が滅んだのはある日突然だという話だったが本当にそうだったのだろう。もしかしたら片付ける予定だったかもしれない物やらがそこかしこに転がっていたし、机の上に積まれていただろう書類は何らかの衝撃で崩れ、床に散らばったままだ。

 パッと見たところ散らばっている書類に書かれている文字から多分そこまで重要じゃなさそうだなと判断したものの、それでも踏むのは気持ち的に憚られるためにそっと避けながら移動する。


「クロムートに関して、であるならば、このあたりだろう」

 アルトもまたそれらの書類を踏まないように机を回り込む形で移動し、そんな事を言いながらドアから最も離れた位置にある棚に詰め込まれた資料を引っ張り出す。紐で閉じられた簡素な紙束と違い、こちらはファイルのようなもので綴じられていた。

 ハードカバーの本のような重さを感じながらも受け取ったそれを開く。


 群島諸国が実は小国の集まりなどではなく一つの国であった、という事実を聞かされた時点で薄々もしかしてここ、とんでもなく闇の深い場所なんじゃないか……? とか思っていたが、今俺の手の中にあるファイルはまさしくその考えを否定するどころかしっかりと後押しするものだった。

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