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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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きっと僕らは分かり合えない



 アマンダはともかくレミーは反帝国組織に所属しているわけではない。

 薄っすら発光しているのは魔法で抑えて普通の人間のように暮らしていたけれど、それでもずっと魔法を使いっぱなしというわけでもない。

 時折魔法の効果が切れてしまう事もあった。


 アマンダと出会ったのは、その魔法の効果が切れてしまったとある夜の事だったそうだ。


 ここ最近の幽霊騒ぎになっていたように、夜にほんのり白く光っていたら大抵の人間は驚く。

 けれどもアマンダは。


 驚くどころか逆にホッとした様子を見せたらしい。


 人に異常に怯える様子を見せていたし、これはただ事じゃあないぞ、というのもあってレミーはアマンダを旧時計塔に匿う事にしたのだとか。

 昼間のうちに食料を買い込んで夜、人目のつかない時にアマンダに食事を運ぶ。

 そうしてアマンダの話を聞いていったが、先程のような懺悔めいた言葉ばかりを口にする彼女に、ひとまずは様子見をする事に決めたのだそう。

 話を聞いて何となく理解できたのはアマンダが反帝国組織の人間であるという事くらいで、あとは帝国の方へ足を運んだことがあるのだな、くらいだったのだとか。


 ニュクス族としては普段割と驚かれる事が多いので、自分を見て安心するとかどうなってるんだろうと心配でついていただけだったようだが、そこそこの期間世話を焼いているうちにすっかり情が移ってしまったようだ。

 とはいえ、それは犬や猫に対するようなものであったのかもしれないが。


 レミーのアマンダに対する感情を聞いてハンスはペットか何かっすか……と何とも言えない表情を浮かべていたが、妖精族の感覚としてはある意味でまっとうなので俺からすれば何を言う必要があるのか、という感じだ。

 いや、人間目線で見ればペット扱いはどうなのよ、となるのかもしれないが、相手は妖精族。人間の何倍も長生きする種族だ。

 向こうからすれば人間はすぐ死んじゃうし脆いから優しくしてあげなきゃね、といった程度の感情だろうし、それが今回は怪我をした動物を拾って保護した、みたいになっただけの事。


 むしろ問題は――


「その、何でアマンダさんは砂に……?」


 レミーと別れて宿へと戻ってきた俺に、同じく戻ってきたハンスが最初に問いかけたのはそれだった。


「何でも何も、あいつが望んだからだろ」

「砂になりたいなんて一言も言ってなかったじゃないですかぁ!」

「人でいるのは嫌だ、でも異種族にもなりたくない。そういうの一切関係ない物になりたい。アマンダはそう言ってただろうが」

「や、確かに言いましたけどぉ……けどそれで何で砂?」

「さぁ? 精霊が砂にするのが一番向いてると判断したからじゃないか?」


 それこそ場合によってはあの時砂ではなく石ころであったりだとか、はたまた岩塩になっていた可能性だって有り得る。


「じ、じゃあ、あの不自然な風は?」

「精霊のアフターフォローじゃないのか」


 あのまま砂があの場所にあったとして。

 アマンダに対して可愛いペット感覚でいたレミーからすれば、それは受け入れがたい事実だったかもしれない。であれば次にレミーがあの砂をもとの姿に戻してほしい、なんて願う可能性はあった。

 これが人間がそう願ったのであれば叶わない可能性の方が高いのだが、レミーは妖精族。可能性としてはワンチャンあったはずだ。


 けれどアマンダはきっと人の身でいる事に耐えられなくなっていた。元の姿に戻る事は望んでいなかっただろう。……あの砂に仮に理性があれば、時間差で冷静になって考えて砂は流石に! となったかもしれないけれど、果たして戻れるかは疑わしい。砂の状態では魔法を使うための言葉を発する事はできないわけだし。


 もしかしてあの後アマンダが冷静さを取り戻して砂からやっぱり人に戻りたいと思う可能性があったとしても、それを実行できるのはレミーだ。

 けれどもあの場にいた精霊が果たしてそれを叶えるかどうかはまた別の話。

 むしろ折角彼女の望みをかなえたのにそれを台無しにしろ、なんて言い出す妖精族に対して不満を抱くかもしれない。

 そんな可能性を考えた結果、精霊が風を巻き起こして砂をバラバラにしたのではないか。


 俺の考えとしてはこんなところだ。


 何にせよバラバラになってしまえば砂の一粒一粒全てを集めるのは容易ではないし、あの砂一つ一つにアマンダの意識が宿っているとも考えにくい。

 体のパーツで脳みそだったあたりの砂はもしかしたら何らかの意識があったりするかもしれないが、ああも分断されては意識があったとしてもそれも長くは続かないのではないか。


 ……そう考えるとちょっとしたホラーだなとは思う。


「え、じゃああれは、精霊が……?」

「それ以外に何があるっていうんだ」


 理解が追いついていません、とばかりのハンスに大丈夫か? と問いかける。


「魔法を使うには言葉を発する事が前提となる。次に魔力。これらが合わさる事で魔法の発動条件の大半は満たされると言ってもいい。

 勿論その場に精霊がいて、そいつの力を借りる事も重要ではあるけれど」


 前世で言うなら言霊とかそういうのに近いかもしれない。

 言葉には力が宿る。

 ましてやこの世界には精霊がいるのだから、尚更。


「例えばだ。俺が今何の気なしに両手一杯の花が欲しいとか言ったところで魔力をこめてもいない言葉だ。言うだけじゃ別に何も起こらない。けれど」


 一度言葉を切って、自らの両手に魔力を集めるようにしてから告げる。


「両手一杯の花を」

「わっ」


 言葉が終わると同時に俺の両手にはそれこそ沢山の花があった。色とりどりな花。同時にふわりと優しい香りが漂った。

「別に言葉に魔力を込める必要もない。手であったり足であったり、ともかく魔力を使ってさえいれば、それは魔法の発動条件になる。いや、なってしまうと言うべきか」


 あの時のアマンダは精神的に明らかに正常ではなかった。

 混乱、いや、錯乱といった方がしっくりくるか……?

 ともあれ決して冷静であるとは言えなかった。


「あの時アマンダが仮にここじゃないどこかに行きたいなんて言ったとしても、それは叶った可能性が高い。とはいえ、アマンダ自身の魔力はそう高いようには見えなかったし、精霊が力を貸したとしても精々ここから一番近い国――ライゼ帝国とかそっち方面に飛ばされる可能性が濃厚だったわけだが」


 潜入して逃げてきたであろう国にまた戻されるとかアマンダからすれば悪夢でしかないが、そうでなければあとは精々他の大陸へ飛ばされかけてどっか海の真ん中になっていた可能性もある。もしくは土の中か。

 人間的にどこか、はあくまでも安全な場所を示すわけだが精霊からすればそんな事は関係ない。ここじゃなければいいんだよね? という理屈でもって人間が到底生存できないような場所に飛ばす事だって有り得る。


 勿論精霊からすれば悪意は一切ない。


「えっ、怖……」

「人間種族の多くが魔法を便利なものと考えているようだが、使い方を間違えば簡単に死ぬのが魔法だ」

 とはいえ俺も普通に異世界転生してたら多分便利で何でもできる万能の力と勘違いしていた可能性がある。魔法に関しては一応こっちでの両親が幼い頃に少しとはいえ教えてくれたのもあって、危険性はまぁ、一応、把握してないわけじゃない。それでもたまに使い方失敗したこともあるけど。


「例えば窮地に陥ったとして、助けてと魔力をこめて叫んだ場合、普通はその場をどうにか切り抜ける手段あたりを想像するな?」

「そりゃ、まぁ。あとはその場からどうにか逃げるとか」

「精霊によっては具体的な手段も何も提示されなければ、死ねば楽になれるよねとかいう理由で殺しにかかる場合もある」

「こっわ!!」

「人間種族は大した魔力を持ってるわけじゃないから基本的に生活に関わる事くらいしか魔法使わないけど、他の――もっと魔力を持ってる種族とかだとそういうの案外やらかしてる奴いるぞ」


 大自然、弱肉強食の掟。弱い奴から死んでいく。この場合は頭が弱い奴が自滅したという話になるが。


 あまりにもあっさりと言ったからか、ハンスは「ひぇ……」と小さな悲鳴を上げて視線をうろうろと彷徨わせた。

 ところでこれそんな怖い話だろうか。

 前世で幼馴染が貸してくれたゲームの中でだって、ヒロインが助けを求めた結果助けを求められた男に殺されるなんて展開あったぞ?

 いやその場合は普通手に手をとっての逃避行とか想像するかもしれんが。


 助けを求めた相手が正確に相手の意図を把握してその通りに助けてくれるなんてこと、普通に考えたら滅多にないと思うんだ。大体はある程度相手の望み通りになったとしても、完全一致でとはならないんじゃないだろうか。


 同じ人間同士ですら分かり合えない事なんて当たり前のように存在するのに、異種族ともなればもっとそういった齟齬が出ても何もおかしなことじゃない。

 けれどもハンスの様子を見る限り、きっとこの世界の連中はそういった部分をあまり理解できていないのではないか? そう思えてくる。


 大丈夫だろうかこの世界……何かそのうち勝手に自滅して滅びそうな気がしてきた。

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