八日目 名づけ親
月日は流れ、暑さは消え極寒とは行かないものの、それほどの寒さを感じる季節になってきた頃。
『うう、寒い。寒いと起きれないんだよ...。』
「菊吉ー、そろそろ起きなさーい。」
俺は布団に頭をうずくめた。するとーー。
「いたい!いたたたたたた。」
俺はその声で目が覚め、布団から飛び出た。声が聞こえた方を見るとそこにはお腹を抑えて膝を着いている母さんの姿があった。
「母さん、大丈夫?!」
「もう無理、産まれる!」
「え?!ど、どうしよう!父さんは?!」
「今日は朝から森に、うぅぅ。」
「森に行ったんだね!」
母さんは首を縦に振った。俺はすぐ様家を飛び出し、隣の家の雪さんを頼った。
「か、母さんがもう産まれるって!」
「ええ!こーしちゃいられない。他に人を呼ばなきゃ!」
「俺は父さんを呼んでくる!」
「菊次郎さんならうちの旦那とあっちへ行ったよ!そっちは任せるわね!」
「わかったーー!!」
俺は走りながら返事をして、森へ急いだ。毎日森へ行っていたので、行く道はおろかその中さえもすこしだが覚えることが出来た。そのため父さんたちをすぐに見つけられた。
「父さん、母さんがもう産まれるって!」
「なに!黄助、すまぬが一度帰らせてもらう!!菊吉いくぞ!」
そこには若虎と若虎の兄貴達、その父、黄助さんがいた。何か山菜のようなものを取っていた。しかし父さんは何も持たず、走り出した。
「速いよ、父さん!」
「菊吉!男なら追うだけじゃなくて引っ張ることも大事だぞ!そうすることで俺は鈴という可愛い嫁さんを貰うことが出来たんだ!」
『...こんな時に何言ってんだよ、このおっさん。』
俺は呆れながらも必死に父さんを追い続けた。そして、家に着くと雪さんを含め5人ほど女性がいた。
「ちょっと男は入ってくるんじゃないよ!」
「「ーー!!...すいません。」」
これが女の人の強さなのだろうか、威圧に圧倒されて萎縮してしまった父子。父さんは蘭を連れて、仕方なく家の扉の前で待つことにした。
「菊吉、お前の時は日が明ける少し前だった。出産なんて初めてでな、どうしていいか分からなかったよwだからひたすらみんなの家を訪ねて起こして回ったのを覚えているよ。」
『俺もそうだ。頭が真っ白になったもん。隣に雪さんがいて良かったよ。』
「お前が産まれた後、扉を開けると日が昇ってきた。あぁこの子は俺達に吉を運んでくれるってその時思ったんだ。」
『なるほどそれで菊吉か。』
「ねぇ父さん、次産まれてくる子の名前は何にするの?」
「まだ決めてないなぁ。男だったら"菊"の字は入れてやりたい。女だったら何か花の名が良いな。」
「俺が決めてもいい?」
「んー。まだ5つのお前に良き名が浮かべばいいがな!がははは」
『バカにしやがって!』
そう思いつつも、とても温かい気持ちになった。きっと父さんは人の心を温かくできる人だ。そんな父の元に産まれた事がとても嬉しくなった。
「とっと(父さん)、蘭はー?」
「おお、蘭はなー...。」
蘭が父さんに自分の名前の由来を聞いたその時だったーー。
「おぎゃーおぎゃー!!」
「「わああぁ、頑張ったねええ!」」
家から赤子の泣き声と母さんを褒めているだろう言葉が飛んできた。その瞬間、父さんはバッと振り向き扉を開けた。そこには肌がとても白くほんのりと頬が赤い、キラキラした赤ちゃんがいた。母さんの腕の中であやされてとても落ち着いた顔をしている。
「綺麗だ。」
俺は率直にそう思った。
「男か女か?!」
「ちょっと菊次郎さんはしゃぎすぎですよ!」
「だって気になるじゃないか!」
「もうどっちが赤子なのか分からなくなりますねw元気な男の子ですよ!」
「男か!!菊吉、弟だぞ!!」
俺は母さんの方へ近寄り間近でその子を目にした。
「ねぇ、父さん。この子の名前"菊雪"なんでどうかな。」
「菊雪...。いいなそれ!雪のように美しく、そして菊のように逞しく育ってってくれよ、菊雪!」
父さんは赤子に向かって何度も菊雪と呼び聞かせていた。
「この子が大きくなったらお兄ちゃんが名付け親なんだよって教えてあげなきゃね。」
母さんは菊雪を抱いている反対の手で俺の頭を撫でてくれた。