六十四日目 影の正体
あの壮絶な八流の戦いは重俊の安芸城攻略にて幕を閉じた。それから3日程経ち、岡豊城の大広間にて戦後の評定が行われていた。国親を始め、家臣全員と足軽大将の俺、国親の嫡男、弥三郎を含めた15人が集まっていた。もちろん俺は部屋の隅っこに身を寄せていた。今日、メインとなる人は弥三郎と江村 親家だ。国親の前に座らせられ、頭を下げている。
「皆の者大儀であった。して、親家、此度お主には聞きたいことが沢山ある。」
「ははっ!」
親家は弥三郎と一緒に本山城の地下に幽閉されていたところを弥三郎の次いでに俺が助け、共に帰城した。
「いつから泰惟は謀反を企んでいた。」
「はっ。それが某にも分からないのです。今までそんな素振りは一度も見せず、此度突然事を成したのでごさいます。」
「では、弥三郎、お主に問う。何か気になる事はなかったか?」
「はっ。僕も身に覚えはありませぬ。」
「そうか。しかし、此度のお主の勝手な行動でいろいろな者に迷惑をかけた。それは分かっておるな?」
「はい。」
「お主はまだ元服しておらぬのじゃ。余計な事はせずに大人しくしておれ。」
「はい。申し訳ありませんでした。」
これはある意味公開処刑だな。可哀想に。家臣全員に見られながら説教を受けるなんて。
「殿、そこまででよろしいかと。」
「孝頼ぃ、そうはいかぬわ。こやつは儂の跡取りだという自覚が足らん!」
確かに、戦の最中に他の城へ行くのは....。でも、今回は仕方がないよ!まさか泰惟が謀反するなんて誰も思ってないもの。仕方ない。
「若様も反省されているご様子です。次が控えておりますので。」
「はぁ。もうよい、下がれ。」
「はっ。」
弥三郎はとぼとぼと大広間を後にした。
今思ったが、孝頼は弥三郎にやけに優しい気がする。いや、俺に対してが厳しいだけなのかな。
国親の前、つまり特等席が開け、次に呼ばれたのも二人だった。
「親政、重俊。」
「「はっ!」」
返事をした二人は膝を着きながら、国親の前へと近寄った。
「此度は大儀であった。八流では親政。攻城では重俊。お主ら二人の力で安芸を滅ぼしたも同然じゃ!」
「「有り難きお言葉。」」
「重俊には此度落とした安芸城とその城下を任す。」
「ははっ!有難く頂戴致します。」
「親政には本山城へ入り、次の戦に備えよ。本山の地を好きに使うか良い!」
「ははっ!お任せ下さい!」
「では次じゃの。」
菊之助
再び開けた特等席。誰が呼ばれるのやらと
「。」
「は、はっ!」
やっぱりこういう雰囲気の中で呼ばれるのは慣れないな。えーと、確か膝を着いたままで歩み寄るんだっけ。
上手く出来てる気がする!でもなぜか周りの目が怖い気がする。こういうものかな。
「此度は真に大儀であった。お主が居らねば城もそうだが、儂の血縁まで失うところであった。礼を申すぞ!」
「ははっ!有り難きお言葉でございます!」
「うむ、まさか、一人でやってしまうとは思おてもおらなんだ。しかし、よく無事であったな。」
「自分でも驚いています...。友の死体を目の当たりにした時、わたしの中の何かがプツンと切れたような気がしました。そこからはあまり良く覚えてないのですが、少し開放感のようなものを感じました。」
「友の事は儂の采配の無さが招いたことじゃ。すまない。」
「いえいえ、とんでもございません!これも全て謀反を起こした泰惟のせい。わたしは仇を打てただけで満足でございます。」
「そうか。では恩賞と行こうか!まず、お主を若家老として家臣団に迎える!」
「あ、有り難き幸せ!」
よしっ!!やっと、やっと家臣になれた!いやー長かったよー!
「次に小さき村ではあるが、朝倉にある片岡という土地を任す。親政同様、戦の備えと共に好きに使うが良い!」
「片岡....。どのような土地にごさいますか?」
「森に囲まれた本当に小さな所だが、それ故に長宗我部以外、何処とも接して居らぬ。安心して備えができる場所よ。」
「ご配慮頂きありがとうございます!」
「ま、これは孝頼の案なのだがのぅ。」
孝頼様が...。俺にだけ厳しいっていうのは俺の思いすごしだったのか!ありがとうございます!
「最後に、儂から"親"の字を取り名を改めよ!」
「名を改める...ですか。」
「そうじゃ。」
「とても有り難い事なのですが....。あの、わたし百姓の出で.....。」
「知っておるが?」
「それがその...まだ元服の儀は行ってないのですが....。」
「そうか!いや、そうであったな!だからその様な格好をしておったのだな!」
その様な格好?まぁ確かに周りの皆は綺麗な着物に烏帽子を付けてるけど...。俺は弥三郎からもらったお下がりの小袖。もちろん烏帽子なんて付けてない。それで皆の目が怖かったのかな。
「では名を改めると共に元服をせよ!烏帽子親には.....。親政!お主が務めよ。」
「はっ、某がですか?!」
「そうじゃ。菊之助はお主の与力だ。それにお主なら"親"の字を与えられるであろう。頼んだぞ。」
「はっ。ご命令とあれば。」
「うむうむ。では早速、執り行うとしよう。皆、準備せよ!」
「「ははっ!」」




