六十三日目 秦泉寺 泰惟
今から二年前の事だ。
香宗の戦いが終わった後、某は殿に呼ばれ、岡豊城の大広間を訪れていた。
「い、今なんと....。」
「じゃから、お主を本山城の城主に任命すると申したのだ。」
「そ、某がでございますか。」
「そうじゃ。」
「しかし、重俊様がなられると聞き及んだのですが。」
「重俊には別用でな。ここに居てもらわないといけなくなったのじゃ。お主と出会って早五年。それにお主には弥三郎の事で苦労もかけた。ここは本山の城主となって本山の民を守ってはくれんかのぅ。」
「はっ!殿のご期待に添えるよう精進して参ります!!」
「うむ!ではよろしく頼むぞ。」
「ははっ!!」
やった!やった!!某が城主だ!ようやくここまでこれた!某とっては長い五年であった。このお方ならいける、と思おて本山を離れ、長宗我部の家臣となって、ようやく城主になれた!はははは、これでようやく.....。ん?あれは、若様と百姓上がり。....良い事を思いついたぞ!
「弥三郎様!お久しゅうございます!先日は館を留守にしておりまして、大変申し訳ございませんでした。次の戦では是非我が城へお越しください!お待ちしております故。では!」
ははははは、某は今、機嫌が良い!指南をしてくれと頼まれれば受けるぞ!わははははは!
その後、某は本山城へと入城し、早速内政に手をつけようとしていた。
と、その前に信用に足る足軽を呼び集めた。
「お呼びでしょうか?」
「おお、実はな、一つ頼みたい事があってな。この書状を伊予国に居られる吉松 光久殿に届けて欲しい。」
「ははっ!」
「よいか?決して他の者にバレてはならぬぞ。」
「ははっ!」
書状を受け取った足軽は足早に去っていった。しかし、大広間を出た瞬間、運悪く親家とすれ違ってしまった。
「おお、これは親家殿!お待ちしておりましたぞ!」
「泰惟殿。先程の足軽は一体?それに父上のお姿が見えないようですが。」
こいつは江村 親家。吉田 重俊の息子だ。なぜ、姓が違うかと言うと、数年前、子を持たぬ長宗我部家臣の江村 親政が重い病を患った。跡取りが居ない親政の為、重俊の息子を養子とし、跡取りとした。そのため、重俊の息子とあって勿論、国親陣営の者だ。俺の計画を知られる訳にはいかん。
「重俊殿は殿の命があり、岡豊に留まるそうです。その為、某が代わりの城主として任命されました。」
「そ、そんな事聞いておらぬぞ!」
「なんせ、某にも急な事でしたので。あ、先程の足軽はこの付近の者でしてね。いろいろと城下の事を聞いておりました。内政をする上で民の事はしっておかねばなりませんからね。では評定を始めましょう!」
そこからは簡単であった。某にかかれば内政など容易いこと。唯一の懸念であった親家も、殿の命だから仕方がない、民の為だ、と口にすればすぐに引き下がった。全てが上手く進んでいた。
某の計画は完璧だった!なのに....。それなのに!!
「どうしてこうなるのだ!!下におった兵はどうした!」
「全員殺したよ。皆、死に際に"悪魔"と言って行ったよ。ふっ、悪くない呼び名だ。」
「百姓の成り上がり者が!!調子に乗るなよ!!」
ガキンッ!
「ひぃ!か、刀が....!!」
「弥三郎はどこだ。」
「ち、地下に幽閉している!だ、だから、い、命だけは助けてくれ!!」
「黙れよ。敵を前にしてみすみす逃す訳がないだろう。」
「そ、某を失えば長宗我部の目標も遠のいてしまうぞ!」
「お前のような謀反人を出し、内紛が起きる事こそ時間の無駄だ。これは、今後そういう者を出さない為のケジメと、四国統一に向けた狼煙だ。」
「ま、まて!待ってくれ!!ぐ、ぐああぁぁぁあぁああ!!!!」




