六十ニ日目 悪魔
某は、とんでもない人に仕えようとしているのかもしれぬ。今、目の前で起こっていることは幻では無いのかと思う程、異様な光景だった。
「菊之助殿!逃げますぞ!」
「離せ。」
その声はとても冷たく、今までの菊之助殿では無かった。
「き、貴様ーーー!!!」
ザシュッ
ザシュッ
菊之助殿は次々と敵兵の首を切り落としていく。いとも容易く。これまで幾度も戦に出てきた某でさえ、鳥肌が経つほどに圧倒的な強さ。この人には誰も勝てはしないとまで思った。
「敵はたった一人だ!者共かかれーー!」
「「おぉ!!」」
敵の増援か。これでは流石の菊之助殿でも....,
「菊之助殿!」
しかし、某の声はあの方には届かない。菊之助殿は敵の中へと潜り込んで行った。
「へへっ、一人のくせに飛び込んでくるなど!愚か....。」
「菊岡流 水面の睡蓮。」
「「ぐ、ぐああぁぁ!!」」
「くそっ、覚悟ーー!!」
ザシュッ
ザシュッザシュッ
あれは、菊之助殿が八流にて見せた技。八流と同じような戦術で行こうと言うのか。
「ええい!何を手こずっておる!敵はたったの一人なのであろう!!」
「し、しかし、あの者に刀も槍も通用しません!」
「くそっ!数で攻めるのだ!何としてもここで殺せ!」
「ははっ!!」
「通清様、本陣からの援軍です!」
ーーー某は、国親様から菊之助殿を守るよう命じられた。何としてでもお連れ帰らねば!
「菊之助殿、これ以上は!!」
その瞬間、まるで雷鳴が轟く様な音が戦場に広かった。
「通清様、お味方がまだ残っておりまするぞ!」
「構わぬ!あれは味方であっても長宗我部の兵。失ったところで我らに損は無い!」
な、何なのだ。あの細い筒のようなものは!まさか、あれが国親様が言っておられた敵の妖術!こ、これでは...。
ドドンッ!!
カンッ!
「な、なに?!なぜ当たらん!!」
「種子島か...。銃口と引き金さえ見えていれば、およその予想は出来る。あとはそれを切るだけ。」
「そ、そんなの化け物ではないか!!」
「そうさせたのはお前達だ!よくも俺の友を...。」
「う、撃てーー!!」
カ、カンッ!!
「効かないって。」
ザシュッ
ザシュッザシュッザシュッ......。
な、なんという強さと速さ。敵の妖術すら菊之助殿には効かないというのか。それにあの返り血で染まっている顔。笑っている....。
「た、助けてくれーー!」
ザシュッ
「ひぃぃ!このば...」
ザシュッ
「その顔、なにが可笑しいというのだ!!」
「可笑しい?違う。お前らを殺すことが楽しいんだよ!!」
ザシュッザシュッ
「あんなの勝てるわけがない!」
「あ、悪魔だ...。」
「に、逃げろぉぉ!!」
敵兵が皆逃げていく。しかし、菊之助殿はそれすら許してくれない。
ザシュッザシュッ........。
悪魔。戦場で笑みを浮かべ敵を容赦なく斬り殺す。その様は本当に悪魔の様だった。




