六十一日目 立川 若虎
俺がこの時代に来て初めて友となった男。
髪は黒く瞳は黄色、背は俺より少し小さいくらい。
「菊吉ーーー!!」
「どうしたんだ?」
「昨日はごめん!遊ぶ約束してたのに、行けなくて。兄貴たちの手伝いで山の方に行ってたんだ。」
そんな突然の出会いだった。初めは誰か分からずただ流れに沿って話していたが、次第と本当の友へとなっていった。
「ねぇ。菊吉、今日は何して遊ぶ?」
「んー。"鬼ごっこ"なんでどう?」
「なに、それ?」
「どちらかが鬼になって、もう片方を追いかけて捕まえるんだ。」
「僕は鬼になんてなりたくないよ...。」
うーん。何か勘違いをしているような...。
「た、例えだよ!例え!要は逃げる人と追いかける人が居ればいいのさ!本当はもっと大人数でした方が楽しいんだけど。二人でも出来るからね。」
「追いかけて何が楽しいの?」
「う...。こればっかりはやってみないと説明しょうがないよ。」
と、困り果てていた俺は良いものを見つけてしまった。
「あそこに野いちごがあるでしょ?」
「え?うん。」
「太陽が登り切る前に俺の事を捕まえる事が出来たら全部食べてもいいよ。」
「ほんと?!」
「ああ、ただし、ちゃんと捕まえたらだからね!」
「でも捕まえるってどうするのさ。」
「俺に触れればいいよ。それで捕まったことにするから。」
「わかった!!」
「じゃあ、十数えたら追いかけてきて。」
「いーち!にーい!.....!」
よし、今のうちに!
「じゅーう!!行くぞ、菊吉!」
「は、早くないか?!」
「僕はちゃんとかぞえたぞ!」
やばいやばい!ガチで追いつかれそう!!
でも、ここは木で覆われた森の中。遮蔽物ならいくらでもある!だが、少し気を抜けば、この悪過ぎる足場に躓いてしまう。
ただ、走るだけなのに、こんなにもトレーニングになる。自然とはなんて便利な場所なのだろう。これで俺の脚力も前世と同じぐらいになるかな?
「いでっ!!」
突然背後から聞こえた若虎の声。
まさか、この足場にやられて、足でも挫いたのか?!
そう思った俺は様子を見に近寄ったのだがーーー。
「大丈夫か、若虎?」
ニシッ
「っ捕まえた!!」
「な?!!謀ったな!」
「ニッシッシッ、これで野いちごは僕のものだ!!」
「全くやられたよ...。それ食べ終わったらまた始めるぞ。」
「いいぞ!これ楽しい!!」
「そりゃ良かったが、今度はズルはなしだからな!」
「分かってるよぉ!」
一緒に特訓をしたのはとても楽しかった。確か、共に夢の事も話し合ったんだよな。
「若虎、夢は無いのか?」
「夢?夢は寝てみるもんじゃないのか?」
5歳児に聞いた俺がバカだった。
「目標とか、なりたいものとかは?」
「僕は父さんのようになりたいな!」
「あの時はお前のいっている意味が分からず、あんな事を言っていたが今なら分かる。今の夢は、あの日お前が言っていた夢の手伝いをする事だ。」
「え、俺の夢を?」
「そうだ!」
「いや、それは嬉しいが...。お前はお前の為の夢を....。」
「菊吉。お前は強い。それに才能もある。百姓だった俺だが、幼い頃からずっと共に過ごしてきたんだ。流石に分かる。まさしく、おまえは才能を開花させ、今足軽大将にまでなっている。村の皆がお前の事を誇りに思っているよ。だから、そのお前の助けがしたいんだ!」
「ありがとう。じゃあ共に頑張ろうか!」
「おう!!」
「あと、今は菊之助だからな。」
「わかってるって!」
若虎、お前は誰が何と言おうと俺の親友だ。お前がいてくれたからこの時代でも頑張れた。あの日の気持ちはちゃんと受け取った。だから、見ていてくれ。あの世から、俺の夢が叶うところを。




