五日目 森林探検
昨日情報収集をして村を一周したが森には入っていないため、若虎と遊ぶついでに探索することとなった。
『うん。普通の森だ。』
何か特別な何かがある訳ではない。強いて言うなら村から視線を遮ることが出来るぐらいだ。
「菊吉!組手しようぜ!」
「え?」
最初は空手の組手かと思ったが、若虎の手には少し太めの小枝があった。当時の組手とは大人達が自らの剣術の強さを比べるために行っていた。しかし剣術に疎い農民達には縁のない言葉だ。若虎はそのまねごとをしようと言うのだ。
「な、なるほどな。まねごとね。まぁこの体でどの程度出来るか試してみるのもいいかな。」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない。早速始めようぜ!」
俺は若虎から小枝を受け取り、構える。
「いつでもいいよ!」
「よし、いざ尋常に!」
そんなこと言われたらニヤケてしまう。その隙に若虎は小枝を両手で振り上げながら突進してくる。それを俺は左に受け流し、小枝を回して横腹に一本いれる。
「なんだその技!!」
「ただの返し胴だよw」
返し胴とは剣道の技の一つである。剣道を知らない若虎にとっては何かの剣術にしか見えていない。初めて見る剣術に興奮していた。
「すごい!すごい!どこで教わったんだ?!」
『あ、こいつは剣道を知らないのか。』
「え、えーと、今思いついただけだよ。こんなのは剣術なんかじゃないさ。」
「なんだただの思いつきかよー。...もう一度やろうぜ!」
「いいぞ!さぁ来い!」
無我夢中に何度も挑んでくる若虎が面白くて、つい俺も夢中になってしまった。人は夢中になると周りが見えなくなってしまう。ここがどこなのかさえも...。
俺はカウンターを決めようとジャンプした。しかし、高く飛ぶことは出来ずそのまま落ちてしまった。
「えい!」
「ーーーっいってーーー!」
「あははは!急に飛んで倒れ込むから、ピチピチと跳ねる魚みたいだったぞw」
「ーーー///。」
何も言い返せない。俺は顔を赤くしながら今の脚力を恨んだ。
『これは特訓あるのみだな。』
俺は横になったまま、問いかけた。
「若虎、夢は無いのか?」
「夢?夢は寝てみるもんじゃないのか?」
5歳児に聞いた俺がバカだった。
「目標とか、なりたいものとかは?」
「僕は父さんのようになりたいな!」
『うーん。まぁ今は難しいか。』
そう思い、質問を変えてみた。
「戦には出たくないか?」
「一度は出てみたいな!そして誰よりも敵を倒すんだー。」
「一度でいいのか?」
「そりゃ何回でもいいんだけど、僕には兄さん達が居るから。出たくても父さんが許してくれないと思う。」
俺はただ一緒に特訓する相手が欲しかった。でもこの感じだと誘っても若虎の為にならないと思い、その時は何も言わなかった。