五十八日目 八流の戦い7
親政は、重俊と2000の兵を安芸城に残し、国親の援軍へと向かっていた。途中の浦戸で朝倉城の親吉軍2000と合流して兵数を戻す手筈となった。
その道中、出雲が不思議そうに聞いていた。
「先程の事ですが、疑われ監視対象とされた事、お嫌ではなかったのですか?」
「ん?あー、そこまでかなー。確かに、それを聞いた直後は裏切られた気分になったよ。でも、今まで気づかなかったぐらいだし、直接的に害されたわけじゃないからね(親政様以外は)。特に気にしてないよ。」
「左様でございますか。しかし、此度のことで裏で手を引いていた者が分かりましたな。」
「泰惟か。」
「はい、あの者は昔から何を考えているか分からない奴でしたので。」
「昔から?前から知っていたの?」
「ええ、あの者とは、共に本山家に仕えておりました。」
「あいつ本山家臣だったのか。」
なるほど、それなら二年前、茂宗が誰かの文に従っていたというのも納得がいく。
「それより、弥三郎様が心配ですね。果たして本当に無事なのか...。」
「弥三郎がどうかしたのか?」
「ええ?!聞いておらぬのですか?!」
「...?」
「今、泰惟の所で人質となっておるのですよ。」
「は?!!なんで、人質になるんだよ!だってあいつは館で大人しくしている筈だろ?」
「某を聞いた話なので詳しくはしらぬのですが、確かな事です。」
まずい、まずいまずい!もし、これで弥三郎が死んでしまったら....。
「それは誰から聞いたんだ?!」
「某が指揮していた兵たちが噂しておりました。」
「兵たちが...。そんなに広がってるのか。」
「...菊之助殿!あれは親吉様の軍ではありませんか?!」
そんな出雲の予想は的中し、難なく俺たちは合流することが出来た。それぞれの軍はすぐ様、大将を先頭に進軍を始めた。俺と出雲は大将の傍に控えて進んだ。
「親政様、弥三郎様が人質となっていると言うのは真ですか?」
「....真だ。」
「なぜ!そのようなことに?!」
「運悪く、泰惟の所へ指南を受けに行ったそうだ。」
そう言えば、前に泰惟が次の機会には、みたいなこと言ってたな。くそっ、それもこの時の為か。
「親政様、弥三郎が心配です。急ぎましょう。」
「分かっておる!しかし、お前たち歩兵の速さに合わしていては遅くなってしまうのだ!」
くそっ、騎馬隊さえ居てくれれば...。そもそも秘境過ぎでしょ!そんなに土佐って流行に乗れない所なのか。
俺たち全員の不安が積もる中、ようやく半日をかけて久礼野に到着した。しかし、ぶっ続けで歩いたため、兵たちには疲労が溜まっていた。
「これでは、大した働きは出来ぬかもしれぬ。」
「親政様、俺は少し様子を見てきます!」
「そ、某も共に参りまする!」
「おい、待て!貴様ら!!」
兵を一度、親吉に預け、俺たち三人は野戦が起こっているであろう所へと向かった。
この丘を越えたところ...!
しかし、時は既に遅かったようだ。俺たちの正面からはボロボロになった、国親と孝頼の姿があった。
「と、殿ぉぉ!!!」
「....親政か。」
「大事はありませぬか?!孝頼殿!貴殿が着いて起きながらこれはどういう事だ!」
これは酷い。
国親は足をやられたらしく、孝頼の肩を借りていた。そして何よりも左目にある刀傷。もしかしたら、もう左目は見えないかもしれない。
「大敗じゃよ....。手も足も出なかった。」
「殿、それより今は、早く治療をしなくては。儂の肩をお使いください。ここまで孝頼殿に無理をさせているのは何故だ!誰か、誰かおらぬのか?!」
「兵は全滅した。」
「「え....。」」
「それは真ですか?!!!」
「貴様、無礼であろう!!その手を離さぬか!!ーーー。」
俺は必死のあまり、国親を両手で掴んでいた。
え....。全滅?嘘だろ。2000と言えど、雇われた足軽たちだぞ?中には俺が鍛えた門下生も居たはず...なぜ。九七は?四助は?吉丸は?若虎は....?
「ーーーおい!貴様、聞いておるのか!その手を離せ!!」
「ぐはっ!!」
俺は親政に蹴り飛ばされ、木の下まで転がって行った。
「き、菊之助殿、大丈夫ですか?!」
「な、なぜ...なぜですか?!中にはわたしが鍛えた者も居たでしょう!!」
「....敵は妖術を使っておった。」
「妖術....?」
「いきなり、雷のような轟音が鳴り響き、その瞬間、兵たちは次々と倒れていった。この足もその時にやられたものよ。まるで中から焼かれるような痛みだ...。」
「轟音....焼かれるような.....。」
俺の頭の中では妖術などでは無いと確信していた。ただ一つ、この時代において最強かもしれない武器。
「種子島....。」
「菊之助殿?」
「有り得ない。全滅なんて....。まだ息のある者がいるかもしれない...。少し見て参ります。」
「待て、菊之助!今行っても....。」
「おい、貴様!殿の言葉を無視するとは何を考えておる!!」
「良い!...出雲、菊之助の事、頼んだぞ。」
「ははっ。」




