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(旧)天下一の向日葵  作者: 茶眼の竜
第二章 成り上がる向日葵
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五十四日目 暇人弥三郎

安芸(あき) 国虎(くにとら)との戦いのため、俺たちが岡豊城(おこうじょう)を出陣してすぐの事だった。


「あー...暇だなぁ。」


岡豊城の館で一人、空を眺める男がいた。


「はぁ、僕も早く戦にでたいなぁ。」


このように一人になるのは久しぶりだ。菊之助(きくのすけ)が足軽となってから早三年が経とうとしている。あいつが来てからというもの、いつも共に過ごした故、毎日が楽しかった。


「しかし、戦となれば別じゃのう。」


そーいえば、前にもこんなことがあったような...。


「はっ?!そーいえば!泰惟(やすこれ)が居るではないか!!」


確か前に、次の戦のときはお相手しましょうと言っいたな。よし、行こう!すぐ、行こう!


(はな)!華はおるか!」

「お呼びでしょうか。」

「これから本山城(もとやまじょう)へ行く!お供せよ!」

「こ、これからにございますか?!」

「うむ!勝手に行ってはまた父上に怒られてしまうかもしれないが、侍女であるお主がおれば問題なかろう!」

「で、では大方様に一言ご報告を...。」

「そんな事をしては止められるに違いないではないか!今は戦中(いくさちゅう)じゃぞ!?」

「自覚はあるのですね....。」

「では、参るぞ!」

「お、お待ちくださいませぇ〜!」


此度も泰惟は出陣せぬと聞いた。ならば城におるはずじゃ!ふっふっふー。必ずや良い暇つぶしが出来ようぞ!

本山城へは半日程で到着した。二人は門を潜り、泰惟の下へと向かっていた。


「何やら騒がしくしておりますね。」


城の中には甲冑を着込んだ足軽たちがせっせと武具を運んでいた。


「戦の準備かの。」

「な、なんと?!それではここは危のうなります!急ぎ館へ戻らねば!!」


全く華は心配性じゃのう。毎回毎回、いちいちうるさいのじゃ。前の侍女が居なくなってからというもの、僕も苦労をしているのじゃ。

そんな華を弥三郎(やさぶろう)はガン無視して目的の者を探し始めた。


「泰惟はおるかー?泰惟ーー!」


すると、奥から兵と話しながら歩いている泰惟を見つけた。


「いるではないか!相変わらずの笑顔じゃのう!」

「わ、若様?!なぜこのような所に?」

「館でおっては暇だったのでな!お主に相手をして貰いに来た!前に申しておったであろう。」


泰惟はふと思い出したかのような、良い事を思いついたかのような顔をした。


「では若様、久々に組手でも致しましょうか。」

「おお、それは良いな!」


と、泰惟に近くにあった長い棒を渡されお互いに構えた。


「実は今某は忙しくしておりまして、至急に代わりのものを呼んで居ます故、暫しの間しかお相手出来ませぬが。」

「おお、いつの間にそのような手配を。流石じゃの!代わりがおるならよい。早速始めようぞ!」

「では、参りますぞ!」

シュッ!


泰惟から放たれるそれは僕の頬を掠った。

くっ...。早いっ!たが、僕とて前よりは強くなったのだ。すぐに殺られる訳にはいかぬ!

何度も何度も泰惟は突いてくる。

なんという手数。防ぐので精一杯じゃ...。

それに、なんだこの気配は。殺気?笑顔の奥底に殺気が...。まるで蛇でも相手にしているようだ。くっ...!

しかし、とうとう太ももに一撃食らってしまい、膝を着いてしまう。


「はは、やはりお主は強いのう。槍を持てば土佐一かもしれぬぞ?」


などと冗談を言ったのだが、泰惟は何も答えてくれない。それどころかこちらに勢いよく向かって来ている。

その瞬間、僕の頬は激痛に見舞われた。


バチッン!

「い、痛いでは無いか!既に決着は着いておろう!」

「.....。」

「おい!泰惟!聞いておるのか!」


泰惟は次々と僕の体を打ちのめしてくる。

ドスッドスッ

文字通り何度も何度も。そして最後に、重い一撃を腹にくらい、僕は倒れた。朦朧(もうろう)とする意識の中、泰惟の微かな声が聞こえてきた。


「これで準備が整った。」

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