五十四日目 暇人弥三郎
安芸 国虎との戦いのため、俺たちが岡豊城を出陣してすぐの事だった。
「あー...暇だなぁ。」
岡豊城の館で一人、空を眺める男がいた。
「はぁ、僕も早く戦にでたいなぁ。」
このように一人になるのは久しぶりだ。菊之助が足軽となってから早三年が経とうとしている。あいつが来てからというもの、いつも共に過ごした故、毎日が楽しかった。
「しかし、戦となれば別じゃのう。」
そーいえば、前にもこんなことがあったような...。
「はっ?!そーいえば!泰惟が居るではないか!!」
確か前に、次の戦のときはお相手しましょうと言っいたな。よし、行こう!すぐ、行こう!
「華!華はおるか!」
「お呼びでしょうか。」
「これから本山城へ行く!お供せよ!」
「こ、これからにございますか?!」
「うむ!勝手に行ってはまた父上に怒られてしまうかもしれないが、侍女であるお主がおれば問題なかろう!」
「で、では大方様に一言ご報告を...。」
「そんな事をしては止められるに違いないではないか!今は戦中じゃぞ!?」
「自覚はあるのですね....。」
「では、参るぞ!」
「お、お待ちくださいませぇ〜!」
此度も泰惟は出陣せぬと聞いた。ならば城におるはずじゃ!ふっふっふー。必ずや良い暇つぶしが出来ようぞ!
本山城へは半日程で到着した。二人は門を潜り、泰惟の下へと向かっていた。
「何やら騒がしくしておりますね。」
城の中には甲冑を着込んだ足軽たちがせっせと武具を運んでいた。
「戦の準備かの。」
「な、なんと?!それではここは危のうなります!急ぎ館へ戻らねば!!」
全く華は心配性じゃのう。毎回毎回、いちいちうるさいのじゃ。前の侍女が居なくなってからというもの、僕も苦労をしているのじゃ。
そんな華を弥三郎はガン無視して目的の者を探し始めた。
「泰惟はおるかー?泰惟ーー!」
すると、奥から兵と話しながら歩いている泰惟を見つけた。
「いるではないか!相変わらずの笑顔じゃのう!」
「わ、若様?!なぜこのような所に?」
「館でおっては暇だったのでな!お主に相手をして貰いに来た!前に申しておったであろう。」
泰惟はふと思い出したかのような、良い事を思いついたかのような顔をした。
「では若様、久々に組手でも致しましょうか。」
「おお、それは良いな!」
と、泰惟に近くにあった長い棒を渡されお互いに構えた。
「実は今某は忙しくしておりまして、至急に代わりのものを呼んで居ます故、暫しの間しかお相手出来ませぬが。」
「おお、いつの間にそのような手配を。流石じゃの!代わりがおるならよい。早速始めようぞ!」
「では、参りますぞ!」
シュッ!
泰惟から放たれるそれは僕の頬を掠った。
くっ...。早いっ!たが、僕とて前よりは強くなったのだ。すぐに殺られる訳にはいかぬ!
何度も何度も泰惟は突いてくる。
なんという手数。防ぐので精一杯じゃ...。
それに、なんだこの気配は。殺気?笑顔の奥底に殺気が...。まるで蛇でも相手にしているようだ。くっ...!
しかし、とうとう太ももに一撃食らってしまい、膝を着いてしまう。
「はは、やはりお主は強いのう。槍を持てば土佐一かもしれぬぞ?」
などと冗談を言ったのだが、泰惟は何も答えてくれない。それどころかこちらに勢いよく向かって来ている。
その瞬間、僕の頬は激痛に見舞われた。
バチッン!
「い、痛いでは無いか!既に決着は着いておろう!」
「.....。」
「おい!泰惟!聞いておるのか!」
泰惟は次々と僕の体を打ちのめしてくる。
ドスッドスッ
文字通り何度も何度も。そして最後に、重い一撃を腹にくらい、僕は倒れた。朦朧とする意識の中、泰惟の微かな声が聞こえてきた。
「これで準備が整った。」




