四十九日目 国親の一手
次の日、俺は軍議に出席するために城へと向かっていた。と、その前に道中の二の丸で弥三郎の館を訪れていた。
「よっ!」
「よっ!ではない。何を当たり前のように入ってきておる。」
「いや、ちゃんと侍女さんには許可もらったよ。」
「全くお主は変わらんのう。大きくなったのはその身長だけか?」
「あはは....。」
この二年で身長も大分伸びて、今では160ぐらいになっている。そう言う弥三郎も結構身長は伸びていて、11の癖に150はあると思う。全く将来が楽しみだよ...。
「それより、今日は軍議に出るそうじゃのう。」
「ああ、そうだった。すまんが俺が軍議に出ている間、俺の門下生達を見ててくれないか?頼む!」
「はぁ...。そのことなら既に出雲が俺達に割り振ってある。出雲から聞かされておらんかったか?」
「あー....。そんな事言っていたような気がしなくも無い。」
「全くお主は。」
「あっはは....。とりあえず、ありがとう!じゃ、行ってくる!」
そう別れを告げ、俺は大広間へと向かった。
あら、ちょっと着くのが遅かったかな...。
大広間には既に孝頼、重俊を始め多くの家臣達が整列して座っていた。俺は邪魔にならないように隅の方にチョコんと座った。
そんな時廊下からこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
これは国親のものでは無いな...。俺が最後かと思っていたら、まだ後から来る人がいたんだ。
襖を開けて入ってきたのはーーー。
「親政殿、遅かったですな。」
「ああ、すまない。少し馬が不調だった故。....んん?」
あ、目が合ってしまった。
「おい、なぜお前がそこにいる。」
「親政様、お先に失礼しております。」
「何故おるのかと聞いておるのだ!」
「そ、それは...。」
「親政殿、菊之助は某が呼びました。」
「重俊殿、しかし、なぜ?」
「菊之助は足軽大将ですし、貴方の与力です。参加させた方が良いと思おたのですが。」
「ふん。儂の与力なら廊下に座っておれ!」
「ええ...。」
「文句はなかろう?」
「親政殿、そろそろ殿がお見えになります。お座りになりませんか?」
「孝頼殿まで、こいつを庇うのか...。ふん、少しからかっただけのことだ。」
ドスンッと親政は腰を下ろし胡座をかいた。
「殿がお見えになりました。」
その小姓の一声でその場の皆がピシッと姿勢を正す。そして場の空気がピリピリとし始めた。
国親はまるでランウェイを歩くように俺たちが開けた道を堂々と歩いていき、高座に腰を下ろした。
「皆の者、表を上げよ。」
「「ははっ!」」
軍議って言うのは実際何を話し合うんだろう。あと、誰から話し始めるのかな。
と、思っていたが一番最初に口を開いたのは国親だった。
「...儂は二年も待ち耐えた。今や足軽は2000を超え、農民達も十分に回復した!よってこれより、儂の野望である、四国統一に向けて動きたいと思う!」
「「おおおっ。」」
へぇ、国親も四国を統一しようと思っていたんだ。その割にはあんまり戦を仕掛けていた記憶がないんだが。実際、四国を統一したのは息子の元親だしね。
「...その為にもまずは土佐じゃ。一条か安芸、どちらかを先に潰さねばならん。さて、どちらにするかじゃが...孝頼。」
「はっ!恐れながら申しますと、一条と安芸は婚姻関係にあります。どちらかと戦になれば背後を突かれましょう。しかし、まだ一条は宇都宮との懸念があります故、動けはしないかと。」
「では安芸か...。」
「そのようになりまする。」
「他の者はどうじゃ?何か策はあるか。」
「某は特攻あるのみと存じます!」
「親政...。お主はいつもそれじゃのう。」
「さ、左様ですか...。」
皆がクスクスと笑っている。
しかし、初めてちゃんと軍議に参加したが、結構穏やかなんだな。ピリピリしてたのは最初だけだったな。まぁ長宗我部だけかもしれないけど。でもこういう感じだと話しやすくて凄くいい雰囲気だ!
「ふむ、他にはおらぬようじゃのう。では安芸を攻めるということで。ではどのような口実を作り出すかじゃ...。」
やっぱり戦国乱世と言っても、口実...つまり大義名分がないと攻めるのは良くないらしい。
「先の戦であやつらが国境をことで言いがかりを付けて来おったな。今度はこちらから同じ事を言い出すか?」
「殿、あのような言いがかりで治めても、民は着いて来ませんぞ。」
「う、うむ...。ならば、何か良い策はないか?」
「親善を名目に城へ招待してはいかがでしょう?」
「孝頼、儂は親善などするつもりは無いぞ。」
「もちろんでございます。招待を断ればそれを大義名分として攻め入れましょう。もし応じれば、この場で切り捨てるのが得策かと。」
「し、しかし、そのような事をしては諸大名の
反感を買いますぞ、兄上。」
「落ち着け、重俊。それぐらい分かっておる。某の見立てでは万に一つ応じることはないと思いまする。故に容易に大義名分を作れましょう。」
「なるほど、良い策じゃ!よし、それで行こう!では皆の者そのように進めてくれ!」
「「ははっ!」」
「して、兵はどのくらい出しまする?」
「うむ、そうじゃのう。足軽の2000と農兵を5000と思おておる。」
「7000でございますか。」
「決して侮れぬ相手だと思おておる。此度の戦で必ず滅ぼす。よいな。」
「「ははっ!!」」




