四十七日目 戦う理由(後編)
早速、俺と出雲は組手をし始め、再び木刀の交じり合う甲高い音が、弥三郎の館に響き出した。
カンッカンッ
「はぁっ!!」
カンッッ!!
「流石、菊之助殿!これを受け止めるとは!」
頑張っている出雲には悪いが、元の剣術に関してはダメダメだな。こりゃ弥三郎に負ける訳さ。
「どうですか、な!」
「うーん。まぁまぁだね。」
「これはお手厳し、い!」
「元の剣術はもう分かったから、菊岡流いこうか。」
「はい!」
「じゃあ今さっき弥三郎がやったやつをやってみて。」
「はっ?刀を蹴る技ですか?」
「そうそう、君がやられちゃったやつ。」
「それでは!」
と、出雲は間合いを開けて、いざ試してみるが、案の定成功する筈もなく、刀は地面に転がった。
コンッと一発頭に入れて俺の勝利。
「くぅぅ...。流石に無理でございまする!」
頭を抱えた出雲が言うが、まぁその通りだね。
「じゃあ簡単なやついこっか!」
「はい!」
「うーん。そうだなー。まずは薔薇突きかな。」
「なんとお美しいお名前!」
「はい、刀持ってぇ。」
「はい!」
「刀を前に突き出すように持ってぇ。」
「はい!」
「右足前にぃ。」
「はい!」
「腰を落としてぇ。」
「はい!」
「薔薇の蔓ってのはどんな狭いところでも入れる場所があったら突き進んで行く。この技はそんな特徴を意識したんだ。いい?隙間を狙うんだよ。」
「す、隙間でございますか。」
「そう。相手の甲冑の隙間。首とか脇、肘、横腹かな。どんな頑丈な甲冑でも関節部は守ることが出来ん。それを集中して見極め、突く!」
「はっ!承知致しました!」
出雲は眉間にシワを寄せ、丸太と向かい合っている。何か集中と言うのを履き違えてないかな?まぁ大丈夫か、と俺は出雲の前に出た。
「ちょ、菊之助殿、危のうございます!」
「丸太と向き合ってないで、組手始めるよ!」
「まだ某、薔薇突きを会得出来ておりませぬ!」
「組手しながら会得するの!弥三郎だってそうして出来るようになったんだから。」
出雲は渋々だが分かってくれたらしい。
「では始めるぞ。」
「はい!」
カンッ!
「....しかし、なぜ菊之助殿は、そう組手に拘るのですか?」
「拘っている訳じゃないけど、ただ、俺も稽古出来て一石二鳥じゃん?」
「じゃ、じゃん...。ではなぜそこまで強くなられるのですか?」
「うーん。1つは母さんとの約束かな。」
「母上でございますか。」
「母さんに心配をかけないように、誰にも負けないくらい強くなるんだよ。そうすれば死ぬこと無いし、母さんだって心配しなくでもいいっしょ。」
「な、なるほど...。」
「後は、闘うのが好きだからかな。昔からずっと1人で刀を振ってきたから、誰かと刀を合わせるのが楽しくて仕方がないんだ。」
前世でも、まともにやり合えた奴はいなかった。相手が一人でも複数でも、どの試合も長続きしなかったもんな。
「戦が好きなのでございますか?」
「ん?いや、違うよ。戦って言うより一騎討ちって感じかな。」
「しかし、これ程までお強いともう相手がおらぬのでは無いですか?」
出雲のやつ痛いところ突いてくるな。前世ではそうだったが、この時代にはまだまだ強いやつがいる。
「出雲、前の戦で松永 久秀がいたのを覚えているか?」
「あの細川の者ですか?」
「そう、実は岡豊城で対峙したんだが、その時、体の奥の方が熱くなって、震えが止まらなかったんだよ。」
高揚なのか恐れなのか俺には分からなかったけど、他に対峙した武将とは違うってのは確かだ。
「左様なことが...。」
「久秀で周りの空気だけが他の者とは違ってみえたよ。ああいう空気を纏った人は俺より遥かに強い。」
出雲は何も答えなかった。俺との組手に集中しだしたのか、それとも返す言葉が見つからなかったのか....。
「隙だらけだ、ぞ!」
「ぐぅあぁっ!!」
バタッと出雲は倒れ込んでしまった。
「ま、いずれそんな人達と闘える日が来るのを楽しみに待ってるよ。」
こうしてその日の稽古は終わりを告げた。




