四十六日目 戦う理由(前編)
俺の剣術指南に参加することになった出雲。ニヤニヤが止まらない御様子。
「嬉しそうだな!」
「はい!なんたって、あの菊之助殿が考えた剣術となっては顔のニヤケが止まりませぬ!」
あの菊之助ってのは、どの俺なのか分からないが、まぁいいか。
「じゃあ、まずは今から町の外れまで走ってきてくれ。」
「へ?」
「ん?どうした、ニヤケが止まってるぞ?」
「今、なんと申しました?」
「手始めに町外れまで走ってきてって。」
「町外れまででごさいますか...。お使いか何かですか?」
「いや、まずは基礎の体力作りからだよ!」
「しかし...ここから町外れまでですか...。」
「そうだよ。嫌なのかな?」
「いえ!嫌ではございませぬ!」
「そうか!まぁ四半刻もあれば帰ってこられるだろう。」
「な....?!!」
「ま、つべこべ言わずにとっとと行く!」
「は、はいっ!!」
出雲は最初から全力疾走で駆けていった。
「最初からあんなに飛ばして大丈夫かな?」
「お主のう。普通の者では四半刻では帰って来れぬぞ。」
「え、弥三郎はどれくらいかかるの?」
「僕は半刻ぐらいかかるよ。」
四半刻って30分でしょ?ここの町はそこまで広くないし行けると思うけど。半刻あれば...町一周はして帰って来れるかな、などと考えていると、城の中から出てくる泰惟の姿があった。しかも大層機嫌が宜しい様で、とってもルンルンだ。
「なんじゃ。あれは。」
「お前の元指南役じゃないのか?」
「それは見れば分かる。僕が言っているのはそうではなく、どうしてあんなに機嫌が良いのかって事だ。」
うーん、と考えていると俺は、ふと先程の国親の言葉を思い出していた。
「そう言えば、さっき国親様が泰惟様を本山城主にするとか言ってたな。」
「それであの始末か。」
「多分そうだと思う。」
「あやつで大丈夫かの。あやつは時折、何を考えおるか全くわからん。」
まぁたしかに、と2人で泰惟を見つめていると、運悪く目が合ってしまった。こちらに気づいたらしく、満面の笑みを浮かべて近付いてくる。
「弥三郎様!お久しゅうございます!先日は館を留守にしておりまして、大変申し訳ございませんでした。次の戦では是非、我が城へお越しください!お待ちしております故。では!」
そう言って二の丸から出ていった。
なんとも風のような人ですな、と九七。
「そんな良さそうな奴じゃないぞ。」
そこから一刻が過ぎた頃、ようやく出雲が帰ってきた。俺は息の上がる出雲に竹筒を手渡した。
「かたじけのう、ごさいます。」
「じゃあ、早速始めるか?」
出雲は鬼を見るような顔をしていた。
「も、申し訳ございませんが、少しばかり、休みとう、ございます...。」
「そうか。....なら少しばかり、話をしようか。出雲は何か夢はある?」
「夢、でございますか。」
竹筒の中を空っぽにして、息を整えた出雲が問い返して来た。
「そうでございますな。夢、と言うか野望と言いますか、そんな大したものでは無いのですが...。某は天下を制する人に仕えておきとうごさいまする。」
「自分から天下を制しようとは思わないのか?」
「一度は考えましたが、今から始めても間に合わないと思い、諦めてしまいました。その代わりに某が主を導いて差し上げよう!と思おたのです。」
「その主が俺か?」
「如何にも!しかし、菊之助殿の場合は某が導くのではなく、導かれそうな気がしますな。」
「そんな事はないと思うけど。ま、これからよろしく頼むよ。」
「ははっ!某の全身全霊を込めて支えていきまする!」
「仲の良い者としてな!」
「今はまだ、でございますな!」
ま、そういう事にしておこう。
「さ、それじゃあ始めようか!」
「はい!」




