四十四日目 疑われる者
俺と出雲が去った後も話し合いは続いていた。
「殿、家中に裏切り者がおるというお話ですが...。」
「ふむ、有り得ぬと思うがのう。」
「本当にそう思おておられるのですかな?で無ければ我らだけを集めるというのは些か...。」
「いや、それとこれとは話が別じゃ。菊之助の事はお主達の知る者。故にお主らを呼んだのじゃ。」
「では、この場をお借りして、先程の件をどうするか話し合いたいと存じます。」
「うむー。茂宗の戯言では無いか?」
「最後の刻に戯言を申しましょうか?」
「あやつなら分からんぞー?それに、怪しいと思う者の目星は付いておるのか?」
「それはまだですが....。」
先程の小童とか....と孝頼。
「それは無かろう!のう重俊。」
「某も有り得ぬと思いまする。」
「しかし、たった半年足らずであそこまで活躍出来ましょうか。それこそ何処かの間者で、仕込まれていたとしか....。」
「孝頼、お主の言いたいことも分かるがの。儂はあやつが10の時から会うておる。10より前から仕込まれているなど、そうそう有り得ぬがのう。」
「それに、菊之助は某の知る菊次郎の息子であります。兄上にも話した事がありましょう。」
「しかし、警戒しておいて損は無いかと...。」
「分かった。ならば見張りを付けよう。重俊、親政、お主ら2人で見張っていろ。」
「は、某にございますか?!」
と、今まで黙り込んでいた、親政が崩れるように声を出してきた。恐らく親政は頭の使う話し合いには余り参加しなさそうだ。
「そうじゃ。菊之助はお主の与力じゃろう。」
「し、しかし、我らは城へもどらねばなりませぬ。重俊殿は此度、本山城の城主に任命されたばかり。任命早々城を空けることは出来ぬのでは無いでしょうか。」
「それもそうだな...。孝頼、他に空いておる者は居らぬか?」
「はっ。此度、重俊と親吉殿が城主になられ、それ以外と申しますと...。泰惟殿などは如何でしょうか。」
「おお、泰惟がおったのう!本山城はそやつに任せい!では2人とも頼んだぞ。」
「「はっ。」」
一方その頃、城をあとにした俺と出雲は国親達と同じような話をしていた。
「出雲殿は、此度の戦が誰の差し金か、本当に知らないの?」
「はい、何者かから書状が届いたのですが、某はそこに居合わせておりませんでしたので。申し訳ありませぬ。」
「いやいや、いなかったのなら仕方がないよ。でも、書状って事は本山の者では無いんだね?」
「はい。菊之助様はどのようにお考えで?」
うーん。流石に情報が少なすぎて検討も付かないよ。
「それより、俺たちは仲の良い者同士なのだ、その様と言うのは辞めてくれ。」
「しかし...。某は貴方様の家臣でございます。」
「いや、違うよ?ただの仲良しだよ?」
「....分かりました。今はまだ、菊之助殿と呼ばせて頂きまする。某の事は呼び捨てにして貰って構いませぬ。」
「今はとかじゃなくてね?あと、その堅苦しい喋り方も無しで頼む!」
「それは出来ません!」
「なんで?!仲の良い者同士がそんな喋り方では...。」
「百歩譲って呼び方は変えましたが、この喋り方は某の性分故、ご勘弁いただきたい!」
「そ、そこまで言うなら...。」
まぁ仕方ないな。
と、思っていると前方からお馴染みの町人の子の3人がやってきた。
「菊之助!稽古の続きを....。」
「おお、吉丸、四助、九七、途中で抜けてしまって悪かったな。」
菊之助殿、そちらはどなたですか?と四助。
「ああ、此度の戦で仲良くなった神森 出雲殿だ。一応、長宗我部家家臣団の1人だ。皆仲良くしてやってくれ。」
「家臣様でございましたか。オ、オイラは九七って言います!」
「俺は吉丸。」
「私は四助と言います。」
「貴方達は菊之助殿の何なのだ?」
え?と不思議そうにする3人。
いや、俺も不思議でたまらないんだが?
「俺たちは同じ足軽で言わば、友だが...。」
「そうか!ならば某が菊之助様の一の家臣なんだな!決してこの位置は譲らんからな。」
「「は、はぁ。」」
んん?出雲さん?その喋り方、性分はどうしたのかな?そんなに目をキラキラさせてるけど、家臣じゃなくて、仲の良い者同士だからな?
しかし、この声は出雲の耳に入る事はなかった。
3人には後からちゃんと説明しておこう、と思う俺であった。




