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(旧)天下一の向日葵  作者: 茶眼の竜
第二章 成り上がる向日葵
33/69

三十二日目 開戦

岩丸(がんまる)の事件があった日、岡豊城(おこうじょう)にある人が来ていた。肌は白く、長い紫色の髪には艶があり、白い着物がとても似合う女子が1人。


「と、殿〜!!」

「なんじゃ!騒がしいの!」


ドタバタと走ってきた小姓が慌てて膝をつき、申し上げます、と一言。


「ひ、(ひかる)姫が!お戻りに!」

「な、なにぃぃいい?!」


国親(くにちか)は急いでその輝姫の待っている部屋へ行った。立てかけている小袖を避け、部屋に入るとそこには輝と妻の祥鳳(しょうほう)が待っていた。


「輝?輝なのか?!」

「お久しゅうございます、父上。」


そう、この女子(おなご)は国親の長女であり、弥三郎(やさぶろう)の姉。キリッとした目がとても国親に似ている。3年前に国親の命で本山(もとやま)家嫡男、茂辰(しげとき)に嫁いだのだが、前の戦で討死したため婚姻は無くなった。そのためほぼ人質となっていたが、隙を見て逃げ出してきたという。


「息災であったか?」

「息災かと言われるとそうではありませぬが、健康ではございまする。」

「それはどういう意味ぞ?」

「実は、茂辰様がお亡くなりになられた後、その、あまり口に出来ぬ事をされまして。それも複数の方に...。」


輝はしくしくと泣き始めてしまった。国親はそれはもう怒り狂ってしまって...。今すぐにでも本山家に攻め込まんとする勢いであった。


「ふーっ、ふーっ。」

「落ち着きましたか、殿?」


と、祥鳳が真っ赤に顔を染めた国親に言う。


「輝?何か望みはありませんか?母でよければ聞きますよ?」

「母上、ありがとうございます。それではお二つ程よろしいでしょうか?」

「おうおう、申してみよ。父も力を貸す故!滅ぼせと申すのならーー!!」

「殿?」


祥鳳の言葉で国親は、はい...と小さくなってしまった。輝の2つのお願いは、まず知らない殿方と会いたくない。見たくないとのこと。もう1つは、茂辰を討った者と御簾(みす)越しで会ってみたいと。


「無理に会わなくても良いのだぞ?辛かろうに。」

「いえ、殿方への恐怖心を無くしておきたいのです。そのためお礼も兼ねてお会いしたく存じまする。」


うむぅ...と国親。


「良いでは無いですか。輝がそう申すなら。ね、殿?」

「そ、そうじゃの。菊之助(きくのすけ)なら心配なかろう。」


そして次の日、俺と弥三郎は国親に呼ばれ大広間にて対談していた。


「して、父上。本日はどのようなご要件で?」

「うむ、実は昨日輝が帰ってきての。」

「あ、姉上が?!」

「そうじゃ。故に一度挨拶をせよと此度呼んだのじゃ。」

「わ、分かりました。しかし、なぜ菊之助まで?」

「それが、輝が茂辰を討った者に会ってみたいと申すのでな。それに今回の事で見知らぬ男に恐怖心を抱いておっての。それを克服する為にと、呼んだのじゃ。」

「私で宜しいのでしょうか?」

「お主はこうして弥三郎とも仲良くできておる。故に危険では無いと思おておる。お主が嫌と申すのなら考えるが。」

「いえ、お役に立てるのなら喜んでお受け致します。」

「そうか!では小姓に案内させるためついて行くといい。」

「はっ!」


ということで俺と弥三郎は小姓の案内の元、輝姫の所へ向かっていたのだがーーー。


「弥三郎様、大方様がお先にお呼びですので、ご案内してもよろしいでしょうか?」

「母上が?まぁよいぞ。」


母上?ってことは国親の奥さんか、と思いながついて行った。


「大方様、お連れ致しました。」

「入って良いぞ。」

「「失礼致します。」」


そこには長い青髪の女性がいた。母親というがとても若く見える。弥三郎のように白い肌がとても綺麗で優しいそうな雰囲気をしていた。


「其方が菊之助ですか?」

「はい。」

「私の名は、祥鳳と言います。いつも弥三郎と共に稽古をしてくれてありがとう。」


そう言って俺の目をじーっと見てきた。


「どうかされましたか?」

「...いい目をしているわ。弥三郎が気に入るのもわかる気がするわね。」

「有り難きお言葉。」

「其方になら輝を任せても良さそうね。少し心配で先に会っておきたかったの。ごめんなさい。」


いえいえ、そんな、と俺は答えた。


「其方は好いた女子はいるの?」

「いいえ、そのような者はおりませぬ。」


祥鳳はそう、とだけ言って話は終わった。最後の質問が何を意味しているかはわからないが、ただの興味本位だったのだと思う。


「弥三郎様とお連れの者をお連れしました。」


そう言って小姓が襖を開けてくれた。俺と弥三郎は中へ入り、御簾越しではあるが輝姫と対面した。


「姉上、お久しぶりです。」

「おお、弥三郎か。もう4年になるかの。声だけだが、大きくなったのが分かるぞ。それではそちらが菊之助様でございますか?」

「はっ。この度はお招き頂きありがとうございます。」

「うむ...。」

「「....。」」


き、気まずい...。話すことなんて何も無いよ。この時代にきて、女の人と話したのなんて、母さんと妹と村のおばさん達だけだもん。同い年の子と何を話せばいいか分からん!

ちらっと弥三郎の方を見たら、察してくれたのか、話題を切り出してくれた。


「姉上はいつ帰って来られたのですか?」

「昨日の猿の刻ぐらいじゃ。」

「左様ですか。それではもうこちらでお食事を取られたのですね。」

「うむ。久々の我が家の食事は美味であった。弥三郎も今宵は一緒に食べようぞ。」

「そうですね。久々に戻ってみましょうか。」


ん?そう言えばなぜ弥三郎は一緒に暮してないんだろう、とふと思った俺は弥三郎に聞いてみた。


「どうして一緒に住んでいないの?まだ9つだよね?」

「ああ、それは父上が、嫡男たるもの親に甘えるのではなく、己で生きてゆかねばならん!と言って俺と乳母と小姓を別の館に移したのだよ。」

「そんなめちゃくちゃな。」

「でも父上は5つの時に家から追い出されて森で過ごしていたらしいよ。」

「それまためちゃくちゃだな。」


と、2人で盛り上がっているとふふふっと1人姫の笑う声が聞こえてきた。


「2人は仲が良いのですね。」

「はい!毎日共に稽古もしております。この菊之助はとても強いのですよ!」

「そう。そういえば茂辰様を討ったのでしたね。」

「あ、あれは何と言いますか。まぐれに近い様な感じなので...。」

「運も実力の1つですよ。此度はお礼を申し上げようと思っておりました。元夫とは言え、あの者は盟約を破り我が家へと攻め込んだ裏切り者。お礼を申しても良いのか分かりませぬが、ありがとうございます。」


俺は有り難きお言葉、と返した。その後も3人で楽しく話し、夕刻となっていた。


「そろそろ、お(いとま)させていただきます。」

「あら、もうそんな時間。もしよろしければまた来てください。其方達といると嫌な事忘れられそうじゃ。」

「「是非。」」


その日から俺と弥三郎はほぼ毎日稽古の合間に輝姫に会いに行き、話して帰る生活を続けた。それを半年間ほど。


カンッカンッと木刀が交じり合う音が鳴り響く。


「えいっ!えいっ!はーーっ!!っいってぇえ!!」

「おいおい、まだまだ踏み込みが浅いぞ弥三郎!」


弥三郎は涙目になりながら悔しそうな顔をしていた。


「さぁ次は誰が相手だ?」

「オイラが相手だ!」

「九七かー。まぁ、どこからでもかかってきな!」


残念そうな顔をするな!と九七。

岩丸の一件以来、九七、四助、吉丸とは一緒に稽古をする仲となっていた。流石の弥三郎も半年もすれば慣れるようで今では、俺と同じぐらい話せるようになっていた。と言っても3人はちゃんと敬語で話しているが...。

3人にも弥三郎と同じように菊岡流剣術を教えている。今は組手をしながらの指導だ。


「と、そろそろいい時間だな。弥三郎、行こうか。」

「うむ。」


そう言って今日もまた、輝姫の元へと通っていた。いつもと変わらない日だと思った。しかしーーー。


「急報、急報!!1500の兵が安芸城(あきじょう)から出陣とのこと!敵大将は安芸(あき) 国虎(くにとら)也!足軽は至急支度を整えよ!」

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