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(旧)天下一の向日葵  作者: 茶眼の竜
第二章 成り上がる向日葵
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三十一日目 三男坊の闇(後編)

岩丸(がんまる)の包囲を突破して、城に居る弥三郎(やさぶろう)の元へと走っていた。


「ぜぇ、ぜぇ、なんだすか、あの速さは!早くあの者に追いつくだす!!」

「し、しかし、速すぎて...。」

「絶対、城へは、入れては、ならぬだす!」


ぜぇ、ぜぇ、と俺を追ってくる岩丸達。しかし、その差は開くばかり。俺は余裕で門の前まで着くことが出来た。

そこの者、止まれ!!と門番。


菊之助(きくのすけ)と申します。弥三郎様に至急お伝えする事があり、馳せ参じました!」


そう言うと門番は素直を通してくれた。やはり、用がなくては簡単には入れないのだな。これなら追っ手も来れないだろう。と思っていた

しかし、その日の俺は運が悪かった。

弥三郎の館にて、お、お待ちください!と俺を止めようとる小姓を無視して、弥三郎の部屋へと辿り着いた。ピシャッと襖を開けると、書物を読んでいた弥三郎が驚いた顔をでこちらを見ている。


「菊之助、こんな夜分遅くにどうした?昨日も今日も稽古に来なかったから心配しておったのだぞ。」


てっきり僕より岩丸の方がいいって、嫌われたかと...、などとボヤいているが関係ない。


「すまぬ、岩丸に軟禁されていて、稽古に来ることが出来なかったのだ。」

「な、なんと...?!」

「それより、岩丸の追っ手が来ていた。門番がいたからここまでは来ないとは思うが...。」


そう思うのも束の間、大変です!!と小姓が慌てて来た。


「どうしたのだ!」

「あ、足軽共がこの館の、ま、前に!!」


どうしてここまで...、と俺。


「今日の門番が岩丸の手の者だったのだろう。」

「な....?!」

「行くぞ、菊之助。」


そう言って俺と小姓を連れ、表へと出る。

なぜか、こう危機的状況になると弥三郎は逞しくなる。日常でもそうなっていてくれたらいいのだが。


「菊之助、出てこいだす!そこにいるのはわかっているだすよ!」

「これは何の騒ぎじゃ?」


と、弥三郎が岩丸の前に出た。


「これはこれは弥三郎様。実はこの者が、おいどんの同士に手を挙げまして、味方への暴行は禁じられている事。何卒、罰をお与えくださいませ。」

「ほう、罰か。しかしー証拠がない故のぅ。」

「証拠ならここに。」


そう言って岩丸は、傷ついた足軽を前に出てきた。腕には大きな刀傷があった。


「ほう。そやつは?」

「先程ここへ来る前にそやつが手を出し、怪我をした者です。」

「ほう、ここへ来る前にか。それは誠か、菊之助。」

「そいつの言うことは嘘だ。俺はただ走ってきただけ、刀は一度も抜いていない。」

戯言(ざれごと)を言うなだす!」

「では菊之助、刀を抜いて見せてくれ。先程と申すなら、血が付いているはずじゃの?」

「そ、それは...。」


俺は刀を抜いて見せた。もちろん血など付いているはずもなく。


「そ、そうだ!拭き取ったに違いないだす!」

往生際(おうじょうぎわ)が悪いぞ!僕の命に従わぬと申すのなら、反逆の罪でこの場で切り捨てるぞ!」

「う、うぅ...。ここには100程の同士がいるだす!みんな行くだす!!」


しかし、足軽達は動かなかった。


「どうしただすか?!おいどんの命令に従うだす!」

「無、無理だ。」

「や、弥三郎様に、ゆ、弓は引けねぇ。」


そう言って各々逃げ去って行った。1人残された岩丸はその場に立ち尽くしていた。


「お、おいどんの同士達が...。」


と、岩丸は刀の(さや)に手をかけていた。しかし、その手は震えていて、とても抜いて振れそうな様子ではなかった。


「答えは出たようじゃな。....あとは頼む。」


弥三郎は館付きの足軽に岩丸を捕らえるよう指示を出した。その後、弥三郎は俺を館に泊めてくれた。

次の日、この事を弥三郎が国親(くにちか)に報告し、岩丸は解雇、その御家は粛清(しゅくせい)を受けた。特に親は何もしていないのだが、岩丸に金を流していたとされ、共に罰受けた。後からわかった事だが、岩丸は貰っていたのでは無く、蔵から盗みとっていたらしい。

それと、岩丸に従っていた足軽たちは解雇ではなく、減給処分となった。ただでさえ少ない足軽を解雇して失いたくはなかったのだろう。


「なぁ、岩丸はともかく御家まで罰を与えなくても良かったのでは無いか?」

「そうもいかぬ。この事がきっかけで恨みを持たれるかも知れぬ。火種は早くに消さねばならぬのじゃ。今は小さくともいずれ業火になるかもしれぬ。それが一国一城を預かる主としての定めじゃよ。」

「しかし、御家は関係してないと聞いたぞ。それこそ、この粛清が元に...。」

「それもあるかも知れぬが、父上の決めたこと。僕には何も口出しは出来ぬ。それに、もう何も出来ぬだろう。今回の粛清で力を失ったのだから。」


そうか...、と俺は答えた。この時代はやはり厳しいと思っていると、そこに1人の小姓が走ってやってきた。


「若様!殿がお呼びです!その、そちらの菊之助も共にと。」

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