二十三日目 恩賞と再会(前編)
岡豊の戦いで本山 茂辰を討った恩賞をくれると言うので、次の日、岡豊城を訪れた。が、しかし、またもや門前払いを受けていた。
「ダメだダメだ!お前のような者は入れられん!」
「なんで信じてくれないんだよ!」
「お前のようなガキが、本山 茂辰を討っただと?寝言は寝て言うんだな!あはははは!」
「重俊様を呼んできてくれよ!そしたら分かるからさ!」
「重俊様はお忙しいのだ!貴様のような者に時間を割く余裕は無い!」
カッチーン、門番たちに手を上げそうになった時ーーー。
「おお、菊之助!待っておったぞ!」
城の中から出てきたのは重俊本人だった。門番たちは慌てて平伏する。俺も続けて平伏をした。
「お主が来ないかと思うて、迎えに行くところだったのだ。」
「ご心配なく、この門番たちに足止めをくろうておりました。」
「ほう、門番ども。こやつはもう立派な武士ぞ。しかと覚えておけ!」
「「ははっ!」」
では参ろうかと、重俊の後に着いていった。まったく、ここの城の人達はタイミングが良いのか悪いのか....。
岡豊城大広間にてーーー。
ここに来るのは久しぶりだ。弥三郎を助けてからどれくらい時間が経っただろうと考えていた。今、大広間には俺と重俊と家臣が1人のみ。今、小姓が国親を呼びに行っているという。
サーー、と俺の後ろの障子が開く音がした。その瞬間、2人が平伏したので、俺も合わせて2人より深く平伏した。ドスドス、と俺の横を過ぎ、高座に腰を下ろした。
「苦しゅうない。面を上げよ。」
「ははっ!」
と、俺は顔を上げた。
「お、お主は?!」
「お久しゅうございます、国親様。」
重俊とその隣の人は目を丸くしていた。俺と国親が顔見知りな事を知らない。驚くのも無理はないだろう。
「名は...菊吉だったか?」
「はい、しかし今は名を改め、菊之助と名乗っております。」
「そうか。重俊が申した事は真か?」
「本山 茂辰を討ったことにございますか?」
「そうだ。」
「恐れながら、真でございます。」
なんか前にもあったな、と思ったがそれは俺だけでは無かったらしい。
「わははは!其方は前にも同じことを言っておったな!」
「左様でございます。」
「して、此度の事、大儀であった!重俊から聞いておるかもしれぬが、これで正々堂々と娘を取り返せると言うものよ!わはははは!」
「真に喜ばしいことにございます。」
「お主!恩賞は何が良い?何でも良いぞ!」
「では、お言葉に甘えて。私を足軽として雇っては頂けないでしょうか?」
「足軽で良いのか?お主の実力ならば足軽大将としてでも良いと思うておるのだが。」
「恐れながら...。」
そう言い出したのは先程から重俊の隣にいた人だ。重俊より歳は上そうで、どことなく重俊に似ているような、いないような...。
「農兵から足軽大将へとなると、周りからの反感を買うことになる恐れがあります。」
「だが孝頼、お主も勿体ないとは思わぬか?敵大将を討つ程の実力ぞ?」
「しかしながら、槍を投げて当てるなど、考えられませぬ。」
「兄上は儂が偽りを申したと申すのか?!」
重俊が口を挟んだ。兄上?この人、重俊のお兄ちゃんなのか?
「こやつなら有り得る話だと思うが、仕方がなかろう。ならば、次の戦まで足軽として鍛え、その後は足軽大将とするのはどうじゃ?」
重俊の兄は考え、少し間を開けて言った。
「....それなら問題ないかと。」
「よし!と、言うことだ菊之助。お主は明日から足軽としてここで過ごすが良い!」
「ここに住むと言うことですか?」
「おお、足軽止まりの代わりと言ってはなんだが、この城下にお主が住める場所を用意しよう。もちろん俸禄も少しは出すぞ。これでもまだ足りない程なのだが、そこはまた儂への貸しとして捕らえてくれ」
いや、十分なのだが。足軽にして貰えて金と住む場所まで貰えるなんてとてもじゃないけど多すぎるように思う。
「ありがたく頂戴いたします。」
「うむ、ではこれにて。」
そう言って国親は大広間から去っていった。それを追うように重俊の兄もここを後にした。
「菊之助、すまぬな。兄上が余計な事を申した。」
「いえ、足軽になれただけでも十分にございます。そこからは自力で登って見せますぞ!」
「おお、頼もしい限りじゃ!」
「ところで先程の方は重俊様の兄上なのですか?」
「そうじゃ。儂の兄、名は吉田 孝頼と言う。兄上はとても智謀に長けていて、長年殿の右腕として活躍してきた。その結果、殿の妹を妻に迎えておって、儂ら兄弟は殿の義兄弟に当たるのじゃ。」
実は重俊様は結構偉い方なのか、と思ってしまった。まぁ確かに先鋒部隊を任されるほどだもんな。
「国親様と義兄弟だったなんて...。」
「なんじゃ、意外か?」
「いえ、そういう訳では。」
「それより儂の方が驚いたぞ!まさか殿と面識が合ったとは。」
「以前、私が山賊に拐われている弥三郎様を助けた折に、1度会っております。」
「なんと、そのような事が!」
この感じだとあまり家中には知られていないようだなと思った。
「して、今日はもう帰るのか?」
「いえ、弥三郎様にお会いしたいのですが...。」
「おお、ならば小姓に案内させよう。」
「ありがとうございます!」
こうして、国親との対談は終わった。




