二十二日目 岡豊の戦い3
後退を余儀なくされた俺たちの背後から野生のような威圧が迫ってきた。
「おうおうおう!」
と、馬に乗って駆けてきたのは福留 親政。国親に次ぐ長宗我部家の猛将だ。熊のような見た目をしていて、右手には槍ではなく、斧を持っていた。それを振りかざし、いくつもの兵を真っ二つにしていく。
そう、我らが中堅部隊が加勢に来たのだ。左右に展開し、挟まれていた前線を押し上げていく。どんどん敵の兵は削られて行き、少しずつ後退していく。
「今こそ好機!皆の者、敵を押し返せ!!」
前線から離脱した俺たちの目の前に現れたのは長宗我部 国親、本人だった。そこには大将隊2000の兵がいた。
「「おおおおお!!」」
と、大将隊は国親と親政を先頭に、ものすごいスピードで前線を上げていく。敵の中枢まで辿り着き、本陣を目前に捉えた時ーーー。
"ブォォォォオオオ"
と、敵の法螺貝が長く鳴り響いた。撤退の合図である。見事、俺たちは本山 茂宗を撃退したのである。
「勝鬨を上げよ!」
国親の号令の元ーーー、
「曳、叡!」
「「王ーーーー!」」
「曳、叡!」
「「王ーーーー!!」」
「「曳、叡、王ーーーー!!」」
前方から雄叫びのような勝鬨が聞こえてきたため、俺たち先鋒部隊も曳叡王と叫び出した。
その後、俺たちは国親の指示の元、帰城した。今回の戦は両者ともに被害は大きかった。敵は先鋒部隊がほぼ壊滅、中堅部隊も半分ほど削られていた。それに対し長宗我部軍は全兵力の4分の1を失った。そのため、敵の領地まで攻め入ることは出来なかった。
ふぅ....と借りていた、槍と胸当てを下ろし、少し休もうとした所ーーー。
「菊之助、無事であったか。」
帰城した俺に話しかけてきたのは今回、先鋒部隊の大将だった、吉田 重俊だ。重俊様!と俺は慌てて姿勢を正す。
「楽にしたままで良い。少し話を聞いてくれ。」
そして重俊は今回起こった戦の発端を話し始めた。国親は3年前、本山家次期当主の本山 茂辰に自分の娘を嫁がせていた。娘を差し出すことで血縁関係を持ち、義理を作ろうという政略結婚である。しかし、今回本山家はその盟約を無視して攻めてきたのだった。国親は激怒し、4000もの兵を出して圧倒しようとしたが、神森 出雲のせいで適わなかったという。
「と、言うことだ。」
「それと私に何の関係が?」
重俊はあぁ、そうだったと慌てて本題に入る。
「この度、茂辰を討った事で盟約が完全に無くなったのだ。だから殿は正々堂々と娘に帰ってこいと文を書けると大喜びで、その茂辰を討ったものを探してこいと先程命を出された。」
「それで私を探していたと?」
「そういう事だ。」
なるほど、と合点が行く俺に重俊は言った。
「これから殿にお主の事を報告する。明日、またここへ来てくれぬか?」
「分かりました。」
うむ、と笑顔の重俊はそのまま去って行った。
「これは父さんに自慢しないといけないな!」
「ん?俺がどうかしたのか?」
「わっ!父さん?!」
重俊と入れ違いに父さんがやってきた。そろそろ村に帰ると言う。その帰り道ーーー。
「父さん、俺は手柄立てたよ!」
「ん?そんな早く上げられるわけないだろwからかっているのか?」
と言ってくるが事実なのだ。重俊から聞いた事をそのまま伝えた所、驚いて道のど真ん中で立ち止まっていた。
「父さん、口開きすぎだよ!早く帰ろ!」
父さんは数分その場に立ち尽くしていた。俺の舞い桜が決まった時より長くないか?と思いながら、再起動するのを待っていた。
「は?!」
と父さんは我に返ってきた。
「今は帰りか?」
「そうだよ。」
「なんだ夢を見ていた。お前が凄く変な事を言う夢だ。」
「全て事実だよ!」
帰りの全ての時間を使ってようやく父さんは信じてくれた。村に着くと、それはもう自分の事のように言いふらしていた。親バカすぎだ。俺は嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、その日はそのまま床に着いた。




