二十日目 岡豊の戦い1
1547年 8月 9日
俺たちが村を出てから7日後の事だった。本山家当主、本山 茂宗軍5000が俺たちの入城している岡豊城の目前まで迫っていた。それに対し長宗我部 国親は4000の兵を集めて城から打って出た。籠城戦の方が有利なのだがそうすると城下町まで進軍され、町に被害が出てしまうため籠城は最終手段なのだ。
俺は父さんと別れて1人寂しく門をくぐる。はぁ...。父さんどこに行ったんだよ。などと悪態をついているとーーー。
「む、お主は菊之助ではないか!」
そんな俺に声をかけてきたのは今回、先鋒を任された吉田 重俊だ。
「重俊様?!」
「わっはっは、なんだ親離れ出来ていないのか?」
「そ、そんなことはありません。」
「菊次郎なら少し後ろにいるぞ、そもそもお主の村のものは後ろの部隊のはずじゃが?」
確かに周りに村の人の顔が見えない。
「やっちまったなぁ。」
「まぁそう落ち込むでない!これも何かのあれだ、このまま儂に着いて来るといい。」
「分かりました。ありがとうございます。あの、少し質問してもいいですか?」
「む?なんじゃ?」
「今回の敵はどんな感じで攻めてくるのですか?」
重俊はニヤりと片頬をあげた。
「相手を知ることは大切だな!今回の敵は大将が本山 茂宗、中堅は恐らく吉松 光久そして先鋒は本山 茂辰だろう。茂辰は茂宗の息子じゃ。決して侮ることの出来ぬ敵よのぉ。」
「な、なるほど。」
聞いたことある人も居れば、ない人もいた。本山家の親子は長宗我部家と長年にわたって戦って居たはず...。でもそれぐらいしか知らないなぁ。
「あの、もう1つ質問良いですか?」
「なんじゃ?」
「槍ってどうやって使うんですか?」
「わっはっはっはっ!お主、使い方も知らずにここに来たのか!面白いやつじゃな。菊次郎は教えてくれんかったのか?」
「父は私が戦に出ることに反対していたため。」
「そうか。ふむ、」
重俊は腕を組み少し考えた。
「まずは構え方だな。槍は大体、真ん中の所を腹に当てて持つもんじゃ。右手を前に、少し腰を落としての。後は突くだけじゃな。」
「それだけですか?」
この人も父さんと同じことを言うのか。この時代の人は感覚で生きてるのかな?と思ったその矢先。
「他には槍を振って敵を寄せ付けぬようにしたりするの。槍は長いゆえ、間合いを広くとれる。刀に対しては有利に事を運べるであろう。だが、その長さが仇となって動きづらいということもあるがの。」
流石は武家の人。ちゃんと長所と短所を教えてくれる。父さんよりよっぽど分かりやすいや。
「ありがとうございます!」
「重俊様、そろそろ...。」
重俊の後ろにいた。副将のような人が声をかけてきた。
「さぁもう到着だ。配置に着くぞ!」
そう言って重俊は兵達に指示を出し、布陣する。いよいよ、戦が始まるのだ。
「8年も待ったんだ!敵も農兵しか見えない。条件は同じだ!」
俺は自分を鼓舞した。そう言えば、と俺はふと前世で見た夏のオリンピックでの槍投げを思い出していた。
それから30分ぐらいが経ったころ。
"ブォウブ〜〜ブォウブ〜〜"
と法螺貝が吹かれ、決戦の火蓋が切られた。その瞬間、俺は槍投げの構えをして、よいしょぉお!!と、おもいっきり投げた。槍は弧を描き、敵の方へと飛んで行く。その槍がまさか、まさかまさかの敵大将に命中。恐らくあれが先鋒の本山 茂辰だろう。
「「え...??」」
敵味方関係なくその場にいた全員が口を開けて唖然としている。俺もびっくり。が、しかしこれだけは言っておかないとな。俺は拳を上にあげ、大きな声でーーー。
「敵将、討ち取ったりー!!」
味方は前の方にいた人しかこの出来事を見えていなかったため、後方の部隊ではからかいの声が上がっていた。
「は?何言ってんだあいつ。」
「まだ始まったばかりじゃないか。」
「気でも狂ったか?」
などと馬鹿にされていたが、俺には聞こえなかった。いち早く我に返ったのは先鋒を任された吉田 重俊。これはいかん、と俺達に指示を出す。
「の、残るは雑兵のみ。全軍突撃!!」
「「おおおーー!!!」」
と俺と後方部隊のみが声を上げた。その声で前方部隊の人々は各々我に返りはじめ、いざ行かん、と突撃して行く。その中でも一番初めに走り出したのが俺だった。丸腰の俺を見た敵兵達はーーー。
「あ、あいつが茂辰様を討ったやつか。」
「やばい、きてる!」
「ば、化け物だ!」
うあぁぁぁ、と俺の姿を見たものたちは皆逃げていった。そのため丸腰でどうしようかと思っていたが、難なく槍のところまで着くことができ、回収することに成功。




