十八日目 初陣前夜
俺の初陣をかけて父さんと組手をした。その結果父さんは気を失ったが、ものの数分で目が覚めた。普通の人なら数時間目を覚まさないはずなのだが...。やはりあの人は化け物かもしれない。
「ーーっっつぅぅぅう!!」
「あなた、大丈夫?」
「おお、鈴!俺は大丈夫だ!なんせ筋肉の鎧があるからな!」
「でも、瘤が出来ていますよ?」
「うぅ...。」
父さんは母さんの心地よい膝枕から目覚め超ご機嫌だ。その周りには松明が立てられ、村の人達は酒を飲んでいた。
「それにしてもどうしてこんなに明るいんだ?」
「あなた達の騒ぎでみんな起きてきちゃったのよ!」
「あぁそれは面目ない...。」
「みんな明日のために早く寝ようとして、寝れなくなってしまったから今、見送りの宴を開いたところよ。」
ものの数分で宴を開けるなんて、すごいを通り越してどうかしてるよこの村は。
「菊吉は?」
「あの子なら村の外れであなたを待っているって。」
「そーか。こっちか?」
「あっちよ...。」
母さんの呆れた顔が目に浮かぶ。俺は組手が終わってからすぐに村の外れてへと向かった。父さんと話すためだ。父さんが気を失っている間、俺は夜空に浮かぶ月を見ていた。
「菊吉、待たせたな!」
「もう、起きたの?!」
「がははは!あれぐらい何ともない!」
「ちゃんと気を失ってたくせに。」
父さんは俺の横に座った。
「ねぇ、分かったでしょ俺の強さ。これで戦に出てもいいよね?」
「若虎とは仲良くやってるか?」
「え?まぁたまに一緒に森へ行ってるよ。」
初めは話を逸らされたと思ったが、父さんの真剣な顔を見て乗ることにした。
「俺にも昔、お前にとっての若虎のようなやつが2人いた。1人はお前も知っている若虎の父、黄助だ。もう1人はその兄、吉兵衛だ。」
初めて聞く話。夜遅くだと言うのに何故か睡魔は俺を襲ってこない。
「俺たち3人は坂本三人衆と呼ばれていてな。とても仲が良かったし、喧嘩もよくした。毎日が楽しかったよ。俺たちは戦で活躍して3人で偉くなろうと考えていた。来る日も来る日も特訓したさ。自分たちで剣術を作ったりもした。その名も菊吉流剣術。」
「ええ?俺の名前?」
「そうだ。俺の菊と吉兵衛の吉を合わせた名だ。それを毎日練習してた。そんなある日の事だーー。」
父さんは懐かしそうに語り出した。
「おーーい!菊次郎!聞いたかよ、明日戦が始まるってよ!」
父さんに話しかけていたのは吉兵衛という男。どことなく若虎に似ている。黒髪に黄色い瞳。目をキラキラさせて近づいてきた。
「待ってよ、兄さーん。」
後から来たのは黄助さん。見た目は若虎と似ているが性格が弱々しそうだった。
「ああ、聞いたよ!やっとこの日が来たんだな!」
「ここで俺たちが武功を上げれば、こんな貧乏暮らしともおさらばだ!」
当時も今と変わらず農民は質素な暮らしをしていた。だが、戦で活躍し、足軽に志願すれば今よりか十分いい暮らしができた。そんな思いを胸に戦が始まった。
周りは皆斬り合い、沢山の血が流れていた。俺たち3人は剣術があったからか大きな怪我はなく生き残っていた。そしてその分、沢山の人を殺した。気づいた時には当たり一面血の海だった。
俺と黄助は初めて人を殺した罪悪感でいっぱいだったが、吉兵衛だけは違った。人を殺すことを楽しいと思っていたのだ。その顔には快楽の笑みが浮かび上がっていた。そこから吉兵衛は変わった。
「こんなことも出来ないのか!黄助、そんなんでは戦場で死ぬぞ!」
吉兵衛は特訓により情熱的になり、黄助への指導は日に日に厳しくなっていった。
「もう嫌だ...。今の暮らしのままでいい。特訓したくない。」
「もう少し、頑張ってみよう。な?」
黄助からは何度も相談を受けたが、そう言い聞かせて長引かせていた。次第に3人の仲は悪くなっていき、黄助は特訓へ来なくなった。
「黄助は?」
「あんなやつ放っておけ。」
「おいおい、自分の弟にそれはないんじゃないか?」
「ふん。自分から行かないと言ってきたのだ。俺には知らん。」
いつしか特訓は個別にするようになった。そんな3人の中で1番最初に足軽に雇われたのは吉兵衛だった。恐怖に打ち勝ち、一騎当千の如く突き進んでいく姿が評価されたのだ。俺には、死を恐れずただ快楽へ進んでいっているようにしか見えなかった。
その次の戦で吉兵衛は死んだ。
それを聞いた時、疎遠になっていたせいか涙は出なかった。
「お前の名はな。お前が生まれてきた時にーーー。」
「それ、前にも聞いたよ。」
「そうか。それも真実なのだが、俺はふと吉兵衛の生まれ変わりでは無いのかと思ってな。それで菊吉と名づけたんだ。お前には吉兵衛のようになって欲しくない。だから約束してくれ、人を殺すことを楽しまないと。」
「分かった。約束する。」
父さんは大きく頷いた。
「菊吉、これからは菊之助と名乗れ!俺たちは武士ではないから元服の儀は行えん。その代わりと言ってはなんだが、名を改めるくらいは良いだろう!」
「ありがとう。ってことは戦に出てもいいんだね?」
「ああ、お前の強さは本物だよ!共に戦おう!がはははは!明日は早い、もう寝るぞ!」
そう言って父さんは家へと戻って行った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次話から新章に入ります!今までトントン拍子で月日が流れる書き方をしていたのですが、次からはなるべくゆっくり細かく書いていきたいと思っております。今後ともよろしくお願い致します。
加えて、評価とブックマーク登録の方もどうかよろしくお願い致します。




