十一日目 蘭の傷
3人の山賊を倒した俺はその場で立ち尽くしていた。蘭の顔に傷が出来てしまったのだ。斬れ味が悪いとはいえ刃物だ。そう簡単には治らない。
「お主、顔に傷が...。すまぬ。僕が拐われてしまったばかりに。」
弥三郎は蘭の頬に手をやり、また涙を浮かべていた。蘭は顔をあげて言った。
「いえ、大丈夫です。少し痛むけど問題ありません。」
蘭は手ぬぐいを出し頬に当てる。少し泣いているように見えた。俺は何も声をかけてやれなかった。俺のせいで蘭の顔に傷を負わせてしまった。どう償えばいいのか、これからどう接してあげたらいいのか。俺の頭の中は蘭の傷でいっぱいだ。それから俺は蘭の目を見る事が出来なくなっていた。
「お主、名はなんと申す。」
「...蘭と言います。」
「蘭...か。良きなじゃ。其方はなんと申す。」
「....。」
「おい、武士よ!」
「あちらは私の兄で菊吉と言います。」
弥三郎は俺に近寄ってきた。そして俺の目を見た。
「なぜ死んだ目をしておる。」
「....。」
「お主は何も悪くなかろう。我らは皆無事じゃ。それもお主のおかげよ。蘭殿の傷は僕の不甲斐なさが原因だ。お主が動いている時、僕は何も出来なかった...。顔をあげよ!過去を振り返るより今後どうするかを考えるのだ!」
『俺より年下のやつが何かっこいいこと言ってんだよ。でもこの心が大名の器なんだろうな。』
「ぷ、あはははは!」
俺は思わず笑ってしまった。前世でこんな場面に会っていたらと思うと笑いが止まらなかった。笑ったおかげで少しだけ気が晴れた。
「ど、どうしたのだ?!」
「いや、なんでもない!改めて、俺の名は桃岡 菊吉。以後お見知り置きを!」
「菊吉だな。覚えたぞ。それよりこの3人はどうするのだ?」
「そうですね。縛っておきたいところですが、縄がありません。村に取りに行って来ますが、その間こいつらを見ていないといけません。」
「それを僕らにせよと?」
「そうです。弥三郎様と蘭の2人でこの3人を押さえていてください。」
「しかし、僕達は子供の身じゃ。大人3人も押さえることは出来ぬ。」
「いいえ、出来ます。まず3人を重ね、その上から2人で乗っていてください。そうすればもし起き上がっても押さえることは出来ると思います。」
弥三郎は少し考えた後、大きく頷いた。
「うむ。其方の策でいってみよう。こやつらは僕達に任せよ。」
「はっ!まずは3人を重ねましょうか。」
俺の鉈を持っていたやつが最も起きるのが遅いと思った俺はそいつを一番に乗せその上から2人に押さえてもらった。そして俺は縄を取りに一度村に戻った。
「では行ってきます。」
「うむ。」
その時、蘭がどんな顔をしていたのか俺は知らない。




