九日目 姫若子(前編)
菊雪が産まれてから5年の月日が流れた。俺は10歳になり、身長も2倍ほど伸びていた。10歳にもなるともうほとんど大人と変わらない扱いを受ける。そのため、毎日のように家の手伝いをしている。
「にぃに、またさぼってる!」
俺に話しかけてきたのは妹の蘭だ。8歳になりちょっとお姉さんぶってる真っ只中だ。前世では兄弟がいなかっため、"にぃに"なんて呼ばれてると蘭のことが可愛くて仕方がない。
「さぼってないよ!ただ今は特訓の...。」
「はいはい、分かった分かった。とっとと山菜取って帰ろ!」
そう、今は毎日枯れ木と山菜を取っている。ただ空いた時間には特訓をしていた。特訓に夢中になりすぎて山菜をあまり取らずに帰ったことが続いたので、蘭が見張り役として着いてきている。
特訓と言って、今まで何をしてきたかと言うと、5歳の時に若虎と組手をしたがその際、自分の力の無さに戸惑った。体力、ジャンプ力、筋力どれを見ても頼り甲斐の無いものだった。だから最初は体づくりを始めた。ただひたすら、森の中を駆け巡り体力と脚力を鍛えた。それと同時に前世でやっていた筋トレ、腕立て、腹筋、背筋、体幹トレーニングをした。時には若虎と森の中で鬼ごっこや競走をしていた。それを4年ほど。 9歳の時に今の手伝いを任せられるようになり、森で作業するから一応と言う事で鉈を持たされた。それを使って木刀を作った。2ヶ月ほど時間がかかってしまったが今では最初の愛刀だ。と、まぁこんな感じで5年の月日が流れた。
そして今、蘭に見守られながら山菜を取っている。
「にぃに、それ何?」
「これか?これはウルイって言ってな鍋にすると美味しいんだよー。今は夏だからちょっと時期が遅いかもしれないけど、ある物は食べないとな!」
山菜については若虎の兄貴たちと父さんに教えて貰った。それと山でいることが多いから自然と見分けもつくようになってきたのだ。
『子供の成長は恐ろしいなぁw』
「にぃに、あれは?」
蘭が俺の袖を引いて指を指している。蘭が指している方向を見ると、山賊らしき人が子供を抱えて走っている。
「蘭これを持ってここで大人しくしてろ。」
蘭に山菜が入っているカゴを渡し俺は木刀を持ち、その山賊を追いかけた。俺にとって庭である森で人に追いつくことなど造作もない。山賊のすぐ後ろまで追いつき、近くの木を蹴り跳んだ。木刀を強く握り、横腹目掛けて振った。
『はいった!』
山賊は思いっきり転がりそのまま倒れ込んだ。抱えていた子供はというとその子も同様転がって倒れ込んでいた。
「あ、やっちまった...。」
冷や汗をかきながら、子供の方へ近寄ってみた。
「だ、大丈夫か?」
子供はムクっと体をあげ俺の方を見てきた。その子は肌が白く綺麗で、とても優しい目をしていた。どことなく弟の菊雪に似ている。
「君はいったい?」
「僕は、弥三郎である。」




