石川優芽-2
よっぽど陰湿ないじめだったと思う。
でも、月島楓にはそういういじめをしても良い。いつの間にかそんな風が吹いていた。いじめても大丈夫という後ろ楯があるような、そんな安心感があったのを覚えている。ゆえに罪の意識は、無かった。
陽子は曲がったことが嫌いであった。陽子にはバレないように、月島楓が一人でいる時を狙った。
始めは給食だった。実験程度だった。給食の時間、みんなは給食台の前に列を作り、給食当番の四人が並んだ生徒に給食を注いでいく。その日はみんな大好きなフルーツヨーグルトがあった。
陽子がいつものように一番乗りで並んでいた。
「優芽、ちょい多めやで」
明るくねだる陽子にフルーツヨーグルトを溢れるほど盛った。月島楓はいつも最後に並ぶ。おぼつかない手で食器を持っていた。月島が順に食器を埋めてあたしの前に来た。
フルーツヨーグルトは給食当番の分も含めて、まだたくさん残っていた。月島はにこにことあたしに食器を差し出した。
「あー、もうほとんど無いわぁ」
あたしはヨーグルトが絡んだ黄桃をひとつ、ぽとりと月島の食器に落とした。月島が困ったような笑顔を浮かべて鍋を覗きこんだ。まだ、フルーツヨーグルトはたくさん残っている。
「はい、ほな、あとは給食当番のー」
あたしが笑いを堪えながら給食当番の三人にフルーツヨーグルトを注ぐと、月島はトボトボと席へ戻っていった。くすくすとあたしたちが笑う中、陽子の声が聞こえた。
「あれ、楓ちゃん、全然ないやん」
「……あ、うん。あたし最後並んだし、もう、無かったんよ」
「ほな、あたし取りすぎたしあげるわー」
陽子が月島にフルーツヨーグルトを与え、半分こにした。月島が笑って、あたしは小さく舌打ちした。
あたしたちは月島をいじめだしてからも、建前上は七人組でいることにした。陽子の向かいにあたし、そしてあたしを支持してくれる京香と凉子と晶紀に悠子が周りを囲み、少しだけ離れて月島が座る。いつもその配置だった。
あたしや陽子を中心に会話が進んでいく。月島はその隅でいつもニコニコ笑顔を浮かべているだけだった。特に喋りもしない。
あたしは他の四人と顔を見合わせて、小さくサインを送った。月島の足を踏んで踵でねじった。
「ぃ、いたい」
月島が小さく声を出した。
「あ、ごめんごめん。踏んでもうた」
あたしが謝ると月島はヘラヘラと笑った。あたしと四人とで笑いを堪えていた。
次第にあたしたちはエスカレートしていった。その頃はそれが面白くて仕方なかった。
教室の白いカーテンに月島を包んで、思い切りぐるぐると回した。ひぁ、と月島が叫ぶのが面白かった。男子も笑っていて、あたしは優越感に浸っていた。
ドッジボールで月島が外野にいくと、わざと足を狙って投げた。あえて強く投げず、取りにくいボールにした。月島は取れずに相手の内野へボールを転がしてしまう。
「あー、もー」
あたしたちはわざと声を揃えてなじった。クスクスとあたしたちは決まって小さな笑いを堪えていた。
いじめが当たり前になると、陽子の目を盗んで堂々と月島に言い放つようになっていた。
「あんた、陽子から離れえよ。金魚のふんみたい」