エピローグ-2
「お母さん、星すっごい見える!」
芝生の向こうで子供たちが天体望遠鏡を覗いている。きゃっきゃとはしゃぐ子供たちに望遠鏡を見せているのは雄吾だ。
「星、きれい?」
楓ちゃんが満面の笑みに包まれる里菜ちゃんに訊ねた。里菜ちゃんは小さな男の子の手を引いている。大事に、しっかり、そのよちよち歩きの男の子の手を握ったまま、楓ちゃんに応えた。
「すっごい綺麗! お家のプラネタリウムと違くて、おっきく見える!」
みんなが目を合わせた。
「お家で使ってくれてるんや」
京香が楓ちゃんに聞いた。
「うん、里菜、毎日見てるよ。ほんとありがとう」
「そっか、良かった」
小学校五年生のあの時、あたしたちが普通に楓ちゃんのお誕生日会をしていたら、どうなっていたのだろう。あたしたちがこうしてプラネタリウムを送ることはなかったろう。あの頃、楓ちゃんはいじめられるべきではなかった。辛い思いをさせた。みんなも苦しんだ。でも、今こうして笑えている。良かった。みんながそう思えたら良いなと思う。
時は、あたしたちを旅へと誘う。
辛い旅もあるだろう。悔恨の旅路を歩むこともあるだろう。その時は特急電車に乗って、すっ飛ばしてみれば良い。乗り換えて別の線路へ進んでみたって良い。
そしていつか、始発駅へ戻ってみるといい。すうっと息を吸って、空を見上げてみる。そこには、君がいつか見た空が広がっている。おんなじ空だ。星が君を照らしているだろう。ふうっと息を吐き出せばいい。そこから、また思う道へ旅をすれば良い。
「陽たん先生!」
こっちこっちと、里菜ちゃんが手を振る。楓ちゃんと目を合わせる。
「先生?」
「陽たんのこと、少し話したの。あたしが陽たんの凄いところ言い過ぎかな。里菜は先生って思ってるみたい」
くすくすと笑い合い、里菜ちゃんのもとへ向かった。
「あたしも、星見たい!」
「あたしも」
「あたしもっ!」
「あたしも!」
京香たちも続いて、こっちへ向かってくる。
「あ、あたしも」
優芽が駆けてくる。
「優芽は最後ね」
「優芽ちゃんは最後の最後」
「丹羽くんも最後」
「うん、二人は最後ね」
優芽と雄吾は望遠鏡から少し離れて直立し、ペコリと頭を下げた。
「はい、最後で充分です」
「みんなが飽きるまで待ちます」
みんな、笑った。星空が煌めき、星たちも笑っているように見えた。
どこかで犬がワンッと吠える声がした。虫の声が聞こえる。あたしたちの始発駅、織笠町は今日もゆっくりと夜に落ちていく。
了




