お誕生日会-2
星の家が子供たちの悲鳴にも似た歓声で煌めいている。
あたしと楓ちゃんは二人で隅っこに座り、元気いっぱいの子供たちを眺めていた。
「色々あったよ……」
楓ちゃんは小さな笑顔の中に小さな嘆息を混ぜてそう言った。それでも、すぐに里菜ちゃんの方に顔を向けて、今度は満面の笑みで、
「色々あったけど、色々なことが今に繋がってるんだなって。そう思う」
と、満足そうに呟いた。
あたしは何も聞かなかった。充分だと思ったんだ。
東京に住んでいた楓ちゃんは織笠町のことは忘れ、お母さんと二人で慎ましく暮らしていたようだ。大人になり、早くに結婚した。
大人になってSNSはしなかったという。やはり織笠小学校時代の暗い記憶が掘り起こされるのが嫌だったのかもしれない。そんな平穏の中で、楓ちゃんには悲劇が繰り返された。
愛娘の里菜ちゃんがいじめに遭ったのだ。
「あたし、あの頃、あたしが我慢すれば良いって思ってた。でも、里菜のこととなったら、やっぱり、あたし……」
楓ちゃんはあたしのことを思い出したという。楓ちゃんは担任に詰め寄り、里菜ちゃんを守ったそうだ。
「陽たんに会ってなかったら、あたしはまた我慢してたのかもしれない。あたしは、陽たんに出会えたことが人生で一番の宝物だよ」
「ありがと。あたしもだよ。いや、てか、そこは旦那さんでしょ」
「あは、そだね」
楓ちゃんは頭を掻いた。
「よいしょっと」
あたしは下ろしていた腰を上げて、またクローゼットへ向かった。楓ちゃんが不思議そうにあたしを見守っている。
「もうひとつ、プレゼントあるんだよ」
あたしはもうひとつプレゼントを預かっていた。
赤い包装紙で包まれた箱は緑色のリボンで巻いてある。あたしが「まるでクリスマスやない? 色のセンス疑うわ」と苦笑したものだ。
「これ、みんなにもうひとつだけ、プレゼント」
あたしは子供たちの集まる真ん中にその大きな赤い箱を置いた。
里菜ちゃんがそのリボンをほどき、箱を開けた。今、じわじわと流行りつつある警視庁のゆるキャラグッズがたくさん詰まっていた。
「うわ、コップくんだぁ」
里菜ちゃんと星の家のみんなが嬉しそうに中身を全て出していく。丹羽雄吾にあたしが託されたプレゼントだ。
──「これ、せめて渡してきてくれ」
雄吾は頭を掻きながらあたしに手渡した。
「ん、分かった」
ちなみに、丹羽雄吾は今、あたしの旦那だ。色々あって再び出会い、あたしたちは結婚した。意気地無しのシャイな雄吾のプロポーズは驚くほど遅かったけれど、あたしはそれで幸せだった。雄吾が自分で自信を持ってプロポーズできるまでにかかった時間。それは雄吾がしっかりと自分を見つめ直した時間なのだから。
結婚してしばらく、ある日突然、雄吾はぽつりと言った
「俺、なんで警察官になったと思う?」
「んー? なんでなん?」
雄吾は珍しく真剣な表情であたしに向かっていた。
「月島。月島楓への報いを果たしたいって。それとあの時、お前に責められて、そん時の悪に立ち向かうお前がかっこよくてさ。それで警察官を目指そうと思ったんさ」
「……そっか。……うん、そっか。やから、あたしは雄吾に惚れたんかもしれんね。楓ちゃんを覚えてくれて、そんな風に思ってくれてたから」
「思ってくれたなんて……。そんな言葉、俺には受け取る資格がねえよ。いくら詫びても詫びきれん。やから、正義として恩返ししたい。警視庁は今、いじめ撲滅のためにチームを作っとる。ゆくゆくは俺、そのチームに入りたい思ってるんや」
あたしはゆっくりとカフェラテを飲みながら、そっかと呟いた。
雄吾があたしにプレゼントを託した時、もうひとつ雄吾はあたしにとって初耳を告げた。
「実は、幼稚園ん時、月島は俺に言ってくれたんよ。丹羽くんと陽たんが結婚すると思うよって……。それやのに、あん時めっちゃ俺、嬉しかったのに。そそのかされたとはいえ、月島をあんな目に合わせてもうた。お詫び、言っておいてくれ」
雄吾はそう言って、頭を下げながらあたしにプレゼントを手渡した。
「分かった。雄吾、ちゃんと楓ちゃんには伝わるよ。あと……」
「……あと?」
あたしは雄吾をじっと見つめた。
「資格がないなんて、言わないで。雄吾がずっと何年も反省してたこと、知ってる。楓ちゃんは、会わなくても分かってくれるよ。自分をさ、もう、許してあげなよ」
雄吾は照れ臭そうに指で鼻の下を擦った。
「分かった。俺、一生お前には勝てねえや」
「ふふ、あったりまえ」




