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中尾里菜-1

 『星の家』

 今、あたしはここにいる。


 就職活動でやっとやりたいことが見えてくる。よく言われることだが、全くその通りだった。

 最初に詰まるのはエントリーシート。自分はどんな人間か、それを書くのはかなり難しい。十八年も生きて自分のことをアピールできないのも恥ずかしいものだが、実際にキーボードに指を乗せたままあたしは固まっていた。

 児玉華。コダマハナ。名前とカナを入力したところで止まってしまっていた。

 そんな調子で就活をしたものだから、なかなか内定はもらえない。面接での印象は悪くないものの、決め手に欠けるといった評価だったのではないか。

 あたしはエントリーシートから見直すことにした。中学時代、高校時代の新聞部、どちらも頑張った自負はある。でも、就活している全員が今までやってきたことを頑張ったと書いているのだ。我ながら個性不足は否めないと思った。あたしの人生はどんな人生だったかを、あたしは見つめ直すことにした。

 パッとしない青春だったなぁと苦笑いしながら、この十八年を反芻していると、ふと、頭に浮かんだアイデアがあった。あたしには、いじめられた過去がある。いじめを無くすために尽力したことがある。この経験はあたしのオリジナリティではないか? そう思ったのだ。


 あたしはエントリーシートに自分のそのまんまを写した。いじめを許すまじと、新聞記事で力になったこと。それに、いじめをしたことを後悔し、それから立ち直ろうとする人を微力ながら支えたこと。そんなことを思うままに書いてみた。

 あたしは人に寄り添うことができる。それがビジネスに繋がるかと言われれば言葉に窮してしまうかもしれない。ただ、それがあたし、児玉華であることは間違いない。


「なるほど、素晴らしいですね」


 エントリーシートを見た面接官の反応は好意的で嬉しかった。ただ、あたしは何をしたいのかまでは定まらず、色んな業種にエントリーしていたため、その企業に入りたいという熱量に欠けていた。最終面接まで進めても、あと一歩で内定をもらえないでいた。そんな折に受けた企業の面接で、ある面接官がひょんなことを口にした。


「児玉さん、最後に質問しても良いかな?」


 白髪のその面接官は、あたしに微笑みながら問いかけた。


「はい」


「児玉さんはNPO法人ってどんな印象を持たれていますか?」


 全く想定外の質問に戸惑った。少し答えに時間をかけ、「ほんとにただの印象ですが」と前置きし、


「良いことをボランティアでやっている方々で偉いなと思います」


 面接官はふむふむと頷き、他の面接官と小声で話をした。あたしは、姿勢を正したままその様子を見守った。聞こえてくる囁きに「会長」と呼ぶ声が混じっていた。この白髪の面接官は会長だったのか。しまったと思いながら、先程の質問の真意を測れなかった自分を悔いた。


「児玉さん、結果をここで申し上げても良いかな?」


 打合せが終わったらしく、白髪の面接官があたしに向かう。

 

「まず……残念だが、当社は不合格です」


 あたしは「うぅ」と唸りそうになるのを堪え、ぺこりと頭を下げた。高卒の取り柄のないあたしが最終面接に進めただけでもありがたいのだ。ただ、その後の一言があたしの人生の向かう先を一気に決めた。


「ただ、これで終わりではない。児玉さん、あなたに一つお願いがあります」

「……はい、何でしょう?」


 若い面接官たちが白髪の会長に笑みを浮かべ、続いてあたしを見て、頷いた。


「わたしはね、この会社で仕事をさせてもらいながら、あるNPO法人も運営させてもらっているんだ。当社の面接に来ていただいているところ申し訳ないが、興味があれば是非、児玉さんをスカウトしたい」


 そう言って白髪の会長面接官はあたしへ歩み寄り、ひとつのリーフレットを差し出した。


『星の家』


「児玉さん、さっきの質問の答えは不正解だよ。結構勘違いされるのだけど、NPO法人でもきちんとお給料が出るところがあるし、そもそも利益も追及しているところだって多いんだよ。社会の役に立つためにね。児玉さんを見て、是非、子供たちの役に立つ仕事をしてもらえないかなって。私からのお願いです。考えてみてください」


 リーフレットを広げると、楽しそうに笑う子供たちの写真があった。恵まれない子供たちに救いの手を。そう書かれたリーフレットをあたしは大切に握り、大きく頷いた。


「はい、前向きに検討させてください」


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